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第1巻 第3話 名もなき森

第1巻


静かな月の下にいる生き物


第3話「名もなき森」


レンは、さらに森の奥へ進んでいった。


一歩。また一歩。


新しい小さな足で歩くのは、まだ決して容易ではなかった。歩くたびにバランスを崩し、不器用な足取りで進むたび、乾いた落ち葉がかすかにカサカサと音を立てた。少し前に目を覚ました場所は、もう遥か後ろだった。


空には巨大な青い月が浮かんでいる。その蒼白い光が鬱蒼とした木々の間を抜け、地面に降り注いでいた。森全体が、まるで夢の中のような幻想的な光景に包まれていた。


レンは歩き続けた。だが、突然足を止めた。耳が微かに動く。


何も聞こえない。


森は静かだった。静かすぎた。


レンは振り返った。


同じ道。同じ木々。同じ暗闇。


しばらくその方向を見つめていると、心の中に静かで不安な問いが浮かんだ。


『もし戻ったら……どうなるんだろう?』


答えはもう分かっていた。そこには何もない。初めて目を覚ました場所は、すでに空っぽだった。そして、かつていた世界は……それよりもさらに遠い場所にある。


レンはゆっくりと腰を下ろし、湿った地面を見つめた。


頭の中に、一つの光景が浮かんだ。


自分の部屋。机の上の本。椅子に掛けたバッグ。窓辺の小さな観葉植物。


どれも当たり前で、ありふれたものだった。けれど今では、その当たり前の日常が愛おしくてたまらなかった。


レンは目を伏せた。


家のこと。家族のこと。みんなの声。朝になると聞こえてきた、いつもの音。


これまで気にも留めていなかった些細な日常が、今は恋しくてたまらなかった。


目を閉じ、友達のことを思い出す。


通学路。教室。昼休みに、何気ないことで笑い合った時間。


そのすべてが、今では手の届かないほど遠く感じられた。


レンは顔を上げた。


巨大な青い月の周りを、三つの小さな月がゆっくりと巡っていた。


「……みんなも、同じ空を見ているのかな」


誰にともなく、レンはぽつりと呟いた。


そんなはずはないと分かっていた。それでも、彼は深く息を吸い、気持ちを落ち着かせた。


ここでいつまでも悲しみに暮れているわけにはいかない。


前へ進まなければ。


「……さようなら」


過去に区切りをつけるように別れを告げると、レンは意を決して、暗い森の奥へと足を踏み出した。


歩みを進めるにつれ、森の景色が再び変わり始めた。


木々はさらに高くそびえ立ち、幹に刻まれた青い光の筋は、先ほどよりも鮮明になっていった。地面から少し浮いた場所には、見たこともない花々が漂っていた。


パキッ!


背後で枝が折れる音がした。


レンはすぐに振り向き、耳をピンと立てた。


茂みの向こうで、何かが動いている。


暗闇の中に、二つの金色に光る目が現れた。


レンの心臓が激しく脈打った。


恐怖に駆られたレンは、慌てて逃げようとした。しかし、まだ慣れていない足が落ち葉の上で滑り、無様に転んでしまった。


恐怖で体を震わせながら、レンは地面に伏せたまま茂みを見つめた。


その金色の目は、敵意も攻撃する気配も見せず、ただ静かにレンを見つめていた。


そして次の瞬間、音もなく、ゆっくりと暗い茂みの奥へ消えていった。


レンは安堵の息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。


気を取り直して先へ進もうとしたとき、地面に残された大きな足跡に気づいた。


新しい足跡が、森の主要な道に沿って続いていた。


その巨大な足跡を見つめながら、レンは心の中で呟いた。


『……この道をまっすぐ進むのは、危険かもしれない』


足跡のすぐ脇には、小さな石が転がっていた。


その表面には、木々に刻まれているものと同じ、青く光る筋模様が走っていた。


気になったレンは近づき、前足でそっと石に触れた。


その瞬間——


視界が白く霞んだ。


意識の奥に、突然、見知らぬ光景が閃いた。


立ち並ぶ巨大な高層ビル群。


そして、空を縦横に交差する無数の光のライン。


あまりにも奇妙で、異質な光景だった。レンは何が起きているのか分からず、感覚が揺らぐような不思議な感覚に襲われた。


何を見たのか理解する間もなく、その光景は一瞬にして消え去った。


レンは荒い息を吐きながら、慌てて後ずさった。


『今のは……一体何だったんだ?』


森は再び、重苦しい静寂に包まれた。


レンは石をじっと見つめ、それから足跡が続く道へと視線を移した。


危険かもしれない道をそのまま進むのは避けることにした。代わりに、周囲の木々や茂みに身を隠しながら、十分な距離を保って先へ進むことにした。


あの石が何を意味していたのか、レンにはまだ分からなかった。


ただ一つ、確かなことがあった。


この森には、彼の想像をはるかに超える深い秘密が隠されている。


つづく……

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