第1巻 — 第18章 — グリムホーンの謎
静かな月の下にいる生き物
第1巻 —
第18章 — グリムホーンの謎
エリリアンの家では、静かな朝が続いていた。
朝食はまだ続いていたが、その日の朝に交わされた重い話のせいで、食卓にはどこか考え込むような空気が漂っていた。
リアは祖父の隣に座り、うつむいていた。
彼女の心には、エリリアンから聞かされた話が何度もよみがえっていた。
祖母のエラリア。父のアレンと母のセラフィーヌ。そして、ほとんど知ることのなかった姉のエリラ。
私には祖母がいて、父がいて、母がいて……姉までいたんだ。
みんなのことを知る機会はほとんどなかった。どんな人たちだったんだろう。少しだけでも、一緒に過ごせていたらよかったのに。
彼女の指が、ゆっくりとテーブルの端を握りしめた。
でも、おじいちゃんはまだここにいてくれる。少なくとも、私はまだおじいちゃんと一緒にいられる。
もう、おじいちゃんまで失いたくない……。
隣に座っていたレンは、リアの静かな表情に気づいた。
彼女が今も家族のことを考えているのだと、レンには分かった。
何か声をかけてあげたかったが、どう切り出せばいいのか分からなかった。
少し間を置いてから、レンは静かに話しかけた。
「リア……」
彼女は視線を下げ、レンを見た。
「ん? どうしたの、レン?」
レンは少しためらってから、言葉を続けた。
「家族のことをあんなふうに聞かされたら、つらいよね。でも……おじいさんが本当のことを話してくれたのは、リアのことを信頼しているからだと思うよ」
リアは黙って耳を傾けていた。
レンは少し視線を落とした。
「僕も、リアの気持ちが少しは分かるよ。僕も別の世界から来たんだ。向こうには家があって、家族がいて、友達もいた。毎日のように、みんなと一緒に過ごしていたんだ」
レンは少し言葉を止めた。
「今は、みんなから遠く離れた場所にいる。僕がいなくなったあと、どうなったのかも分からないし、いつか戻れるのかどうかさえ分からない」
彼の小さな耳が、わずかに垂れた。
「時々、みんなが恋しくなるんだ。昔の家も、一緒に過ごしていた人たちも。今はここにいるけど、それでも昔のことを思い出すことがあるよ」
リアは優しい目でレンを見つめた。
「レン……」
レンは話を続けた。
「だから、大切な人たちに会えなくて寂しい気持ちは分かるよ。無理に気持ちを隠さなくてもいいんだ」
リアはそっとレンの頭を撫でた。
「そうね。あなたもきっとつらい思いをしているのね」
彼女は小さく、安心させるように微笑んだ。
「でも、レン。あなたはもう一人じゃないよ。ここには私たちがいる。おじいちゃんも、カイルも、私も。みんなあなたのそばにいるから」
レンは顔を上げた。
リアは温かい声で続けた。
「何があっても、全部を一人で抱え込まなくていいんだよ」
レンは少しの間、黙っていた。
それから、微笑んだ。
「うん。それに、リアも自分が一人だなんて思わないでね。僕もここにいるから」
レンはエリリアンの方をちらりと見た。
「何より、おじいさんがまだ一緒にいてくれる。誰よりもリアを大切に思ってくれる人が、今もそばにいるんだから」
リアは祖父の方を見た。
エリリアンは二人の会話を静かに聞いていた。
リアの顔に、小さな笑みが浮かんだ。
「そうね。レンの言うとおりだよ。おじいちゃんはまだここにいてくれるもの」
彼女は再びレンに目を向けた。
「それに、あなたがここにいてくれることも嬉しいよ」
レンは微笑んだ。
「僕も嬉しいよ」
ほんの短い間、二人はただ互いの顔を見つめていた。
そのとき、レン自身も気づかないうちに、小さな体の周囲に淡い青い光が現れた。
カイルはすぐにそれに気づいた。
「レン、落ち着け。また青い光が出ているぞ」
レンは自分の体を見下ろした。
「えっ?」
光はゆっくりと消えていった。
エリリアンはカイルの方を向いた。
「カイル、その青い光とはどういうことだ?」
カイルは師匠を見た。
「先生、以前にもお話ししたはずです。レンが私を助けようとしたとき、同じ青い光が彼の体から現れました。そして、強力なエネルギーの波を放ち、ハンターのニラを吹き飛ばしたのです」
エリリアンは少しの間、以前の話を思い返した。
「ああ、そうだったな。今思い出した」
彼の表情が考え込むように変わった。
「つまり、これが以前お前の話していたものと同じ力なのか……」
彼はレンの方を見た。
「この力には何か普通ではないものを感じる。詳しく調べる必要がありそうだ」
リアはそっとレンを抱き上げ、胸元に寄せた。
「大丈夫、レン?」
レンはうなずいた。
「うん、大丈夫だよ」
エリリアンはリアの肩に優しく手を置いた。
「今は何もかも考えようとしなくていい。リア、焦らずゆっくり受け止めていけばいいんだ」
リアは静かにうなずいた。
そのとき、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。
ほどなくして、村の警備兵が彼らのもとへ駆け寄ってきた。
「エリリアン村長!」
エリリアンは彼の方を向いた。
「どうした?」
警備兵は彼らの前で立ち止まった。
「村の子供たちの近くに、小さな野生の生き物が現れました。子供たちがその生き物と遊んでいたので、念のため少し距離を取るように伝えてあります」
エリリアンの表情が引き締まった。
「危険そうな生き物なのか?」
「いいえ、村長。おとなしく、かなり弱そうに見えます。ただ、一つ気になることがありまして……」
「何だ?」
「どうやって防護結界の中に入ってきたのか分からないのです。私たちは、そいつが結界を通り抜けるところを誰も見ていません」
エリリアンは少し考えた。
「分かった。まずは自分たちの目で確かめに行こう」
カイルが彼の方を向いた。
「私も同行します」
エリリアンはうなずいた。
それから、近くにいた使用人に声をかけた。
「私の刀を持ってきてくれ」
使用人は一礼し、急いで刀を取りに向かった。
リアはレンを見た。
「何が起きているのか、見に行きましょう」
彼女はレンを抱き上げ、エリリアンとカイルの後を追った。
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不思議な生き物
しばらくして、彼らは子供たちが集まっている村の一角に到着した。
そこには、小さな生き物が地面にちょこんと座っていた。
丸い体は柔らかな灰色の毛で覆われている。頭には小さな角が二本生えており、淡い黄色の目で子供たちを不思議そうに見つめていた。
とても危険な生き物には見えなかった。
子供たちは少し距離を取りながら、興味深そうにその姿を眺めていた。
「あっ! すごくかわいい!」
リアが思わず声を上げた。
彼女はゆっくりと小さな生き物に近づいた。
エリリアンは注意深くその姿を観察した。
「あれはフェルナルだ」
レンは彼を見上げた。
「フェルナル?」
エリリアンは説明した。
「ああ。森に生息する生き物の中でも、かなり弱い部類に入る。フェルナルは普段、小さな植物や森にある食べ物を食べて暮らしている。もともと臆病な性格で、人に危害を加えることはほとんどない」
リアはその場にしゃがみ込んだ。
「じゃあ、どうして怖がる必要があるの?」
エリリアンは落ち着いた声で答えた。
「この生き物そのものを恐れる必要はない。ただ、どうやって防護結界の中に入ってきたのかは調べる必要がある」
リアはゆっくりと手を伸ばし、フェルナルの頭を優しく撫でた。
フェルナルはおとなしくしていた。
小さな目をぱちぱちと瞬かせながら、その場に座り続けている。
レンは興味深そうにその様子を眺めていた。
「本当にかわいいね」
彼もゆっくりと近づき、小さな前足を伸ばした。
「僕も触っていい?」
リアはレンをちらりと見た。
「優しくね」
レンは慎重に、自分の小さな前足をフェルナルの頭に乗せた。
その瞬間、レンの体の周囲に淡い青い光が一瞬だけ現れた。
カイルの視線がすぐにレンへと向けられた。
しかし、誰も何が起きたのか理解する間もなく、フェルナルの体が奇妙に動き始めた。
フェルナルは突然、頭を持ち上げた。
淡い黄色の目に、かすかな光が宿る。
そして、その体から見慣れないエネルギーがあふれ始めた。
レンは慌てて前足を引っ込めた。
「な、何が起きてるの……?」
フェルナルは震え始めた。
小さな足で地面を押さえながら、その体が大きくなり始める。小さな角は徐々に長く太くなり、体の表面には硬い装甲のようなものが形成されていった。
リアは驚いて後ずさった。
「レン……?」
ほんの数瞬のうちに、変化はさらに激しくなった。
体はどんどん巨大化していく。全身が鎧のような硬い構造に覆われ、角は信じられないほど大きく成長した。
やがて、小さなフェルナルがいた場所には、巨大な怪物が立っていた。
赤い目が周囲の人々を捉える。硬い装甲の隙間からは、青いエネルギーが輝いていた。
リアは信じられないという表情で、その怪物を見つめた。
「レン……。こ、これって……私が見ているもの、本当に現実なの……?」
レンも怪物を見上げた。
「ぼ、僕にも分からないよ……。これって夢か何かなの……?」
突然、巨大な怪物が低くうなった。
その赤い目がレンとリアに向けられた。
次の瞬間、怪物は二人の方へ動き始めた。
「リア! レンを連れて、すぐに離れろ!」
カイルが叫んだ。
カイルとエリリアンはすぐさま前へ出て、怪物と二人の間に立ちはだかった。
カイルは刀を抜き、グリムホーンの進路を塞ぐように構えた。
その隣にエリリアンも立った。
一瞬も無駄にせず、リアはレンを抱き上げ、安全な場所を目指して走り出した。
少し離れたところまで来ると、レンは後ろを振り返った。
「ねえ、リア! 本当に羊の皮をかぶった狼だったね!」
リアはレンを見た。
「静かにして! 今が冗談を言っている場合だと思う!?」
「いや、だって! さっきまではあんなにかわいかったのに!」
「だから何なの!? 今はあんなに危険な姿になっているでしょう! とにかく、安全な場所まで行くから大人しくしてて!」
レンはもう一度、後ろを振り返った。
ついさっきまでは、あんなにかわいかったのに! 一体どうなってるんだ、この世界は? ここでは何も信用できなくなりそうだ。小さな生き物でさえ、突然恐ろしい怪物に変わるなんて!
リアはレンを抱えたまま、走り続けた。
その頃、カイルとエリリアンはグリムホーンと向き合っていた。
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グリムホーンとの戦い
カイルは刀を構えた。
グリムホーンは最初の攻撃を仕掛けてきた。
その巨体から繰り出される動きは凄まじく、正面から受け止めるのは容易ではなかった。
エリリアンは慎重に相手の動きを観察し、攻撃の機会をうかがっていた。
怪物の意識がカイルに向いた瞬間、エリリアンは反対側から素早く踏み込み、刀を振るった。
攻撃を受けた怪物の体が、わずかに揺れた。
二人は互いの動きに合わせ始めた。
カイルは素早く正確な攻撃を繰り出し、エリリアンはグリムホーンの動きを見極めながら、隙が生まれるたびに応じていく。
しかし、グリムホーンも簡単には倒れなかった。
その巨体を大きく振り回し、二人を後方へ押し戻した。
カイルはすぐに体勢を立て直し、再び前へ出た。
エリリアンもその動きに続いた。
戦いはしばらく続いた。
グリムホーンの強大な力と硬い装甲のせいで、簡単には決着がつかなかった。カイルとエリリアンが隙を見つけても、怪物の激しい動きによって何度も距離を取り直さなければならなかった。
カイルが再び斬りかかった。
しかし、グリムホーンは直前で体を動かし、その一撃をかわした。
その動きを見逃さなかったエリリアンが声を上げた。
「カイル! 正面の装甲が最も硬い。装甲の隙間を狙うんだ!」
カイルはすぐに理解した。
彼は怪物の注意を引きつけるように動き、エリリアンは側面へと回り込んだ。
エリリアンは刀を振り上げ、装甲の隙間にある関節部分を斬りつけた。
グリムホーンがうなり声を上げる。
その隙を逃さず、カイルも同じ場所へ素早く斬撃を放った。
怪物はよろめいたが、すぐに体勢を立て直し、巨大な前脚を二人に向かって振り下ろした。
カイルは間一髪で横へ飛び退いた。
攻撃は地面に直撃し、土や石が周囲に飛び散った。
エリリアンは怪物がカイルを追いかけないよう、前へ踏み出した。
彼の刀が、グリムホーンの装甲に覆われた肩へと打ち込まれる。
怪物はエリリアンの方へ振り向いた。
「カイル!」
カイルは体勢を立て直した。
「問題ありません!」
彼は再び前へ駆け出した。
今度は肩の装甲の下にある隙間を狙う。
カイルの刀が、露出した部分へと突き刺さった。
グリムホーンが再び大きなうなり声を上げる。
その体に走る亀裂から、青いエネルギーが勢いよくあふれ出した。
エリリアンはすぐに異変に気づいた。
「カイル、離れろ!」
怪物は強力な青いエネルギーを放出した。
二人は間一髪で後退し、その攻撃を避けた。
エネルギーは、先ほどまで二人が立っていた地面を覆うように広がった。
数秒後、光は徐々に弱まっていった。
グリムホーンはまだ立っていた。
呼吸は荒くなっていたが、その赤い目はレンが姿を消した方向を見つめ続けていた。
エリリアンは刀を握り直した。
「再び攻撃される前に、決着をつける必要がある」
カイルはうなずいた。
「承知しました、先生」
グリムホーンは突然、頭を低くして突進してきた。
カイルは迎え撃とうとしたが、怪物は直前で進行方向を変えた。
エリリアンはその動きを見抜いた。
「カイル、今だ!」
カイルはすぐに意図を理解した。
彼は横へ身をかわし、怪物をそのまま通り過ぎさせた。
その反対側からエリリアンが踏み込み、装甲の下にある露出した部分へ刀を振るった。
グリムホーンの巨体がよろめいた。
カイルは続けて、素早く正確な一撃を放った。
彼の刀は、同じ弱点を捉えた。
怪物は耳をつんざくような雄叫びを上げた。
その巨大な体が震え、周囲を覆っていた青いエネルギーが明滅し始める。
エリリアンは一歩後ろへ下がった。
「立て直す隙を与えるな!」
カイルは再び前へ出た。
二人は力を合わせ、最後の攻撃を仕掛けた。
それぞれの刀が、怪物の左右から同時に襲いかかった。
グリムホーンは数歩よろめいたあと、ついに地面へと崩れ落ちた。
その巨体の周囲に、土埃が舞い上がる。
しばらくの間、誰も動かなかった。
装甲に走っていた青い光が、ゆっくりと消えていく。
赤い目からも輝きが失われた。
怪物は動かなくなった。
カイルは刀を少し下げたものの、警戒を解かなかった。
エリリアンも注意深く怪物を見つめた。
「終わったか?」
カイルは引き続き怪物の様子を確認した。
「そのようです」
二人は怪物がもう動かないことを確かめてから、ようやく警戒を緩めた。
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変身の謎
リアはレンを抱いたまま、ゆっくりと戻ってきた。
二人は少し離れた場所で立ち止まった。
「カイル! おじいちゃん! 二人とも大丈夫!?」
エリリアンは彼女の方を向いた。
「ああ、私たちは大丈夫だ。リア、お前たちは怪我をしていないか?」
「うん、私もレンも大丈夫」
レンの視線は、地面に倒れている巨大な怪物へと移った。
「でも……あんなに小さかった生き物が、どうしてあんな巨大な怪物になったの?」
エリリアンはグリムホーンを見つめた。
「最初の姿はフェルナルだった。だが、あの姿は……グリムホーンだ」
リアは驚いたように尋ねた。
「グリムホーン? おじいちゃんは見たことがあるの?」
エリリアンはゆっくりと首を横に振った。
「いや。しかし、古い物語や歴史の記録には、その名が残されている。グリムホーンは何百年も前に絶滅したと考えられていた。今までは、古代の記録に登場するだけの存在だったのだ」
レンは巨大な体を見上げた。
「それじゃあ、どうしてフェルナルが突然グリムホーンになったの?」
エリリアンは少しの間、黙っていた。
「それが、私にも分からない」
カイルが口を開いた。
「一つ、気になったことがあります。リアもフェルナルに触れていましたが、そのときは何も起きませんでした。しかし、レンが触れてからほんの数瞬後に、あの変化が始まったのです」
リアはすぐに反論した。
「でも、それだけでレンが変化させたと決めつけることはできないよ! 私も触ったんだから。まだ何も分かっていないでしょう!」
カイルはリアを見て、落ち着いた声で答えた。
「分かっています。レンを疑っているわけではありません。ただ、先生に私が見たことを伝えているだけです。何が起きたのかを理解するためには、あらゆる可能性を考える必要があります」
リアはうなずいた。
レンはしばらく黙っていたが、やがて自分の小さな前足を見下ろした。
「でも……僕が触ったとき、体の周りに同じ青い光が現れたんだ」
エリリアンは注意深く彼を見た。
「ああ。私もその光を見ていた」
彼は少し考え込んだ。
「そして、その光を見るのは今回が初めてではない」
カイルは話を聞いてから、付け加えた。
「私も以前に見ています。あのとき、レンはひどく心配していました。私が危険にさらされているのを見て、感情を抑えられなくなり、その力が突然発動したのです」
エリリアンはカイルの方を向いた。
「つまり、レンの感情とこの力には何らかの関係があるかもしれない、ということか?」
カイルはうなずいた。
「その可能性はあると思います。ただ、確かなことは何も言えません」
エリリアンは再びレンに目を向けた。
「レン、あのとき自分がどんな気持ちだったか覚えているか?」
レンは少し考えた。
「ただ怖かったんだ。カイルに何かあったらどうしようって思った。カイルを失いたくなかったんだ。そのとき、体から青い光が出始めたんだよ」
エリリアンは注意深く話を聞いていた。
「では、今日はどうだった?」
レンは答えた。
「今日は……リアに昔いた世界のことを話していたんだ。家族や友達のことを思い出していたから、少し悲しい気持ちになっていたのかもしれない。それで、また同じ光が現れたんだと思う」
エリリアンの視線が、考え込むように遠くへ向けられた。
「なるほど……」
リアが尋ねた。
「じゃあ、レンの力は感情によって発動するの?」
エリリアンはすぐには答えなかった。
「その可能性はある。しかし、それを事実だと判断するには、まだ証拠が足りない」
彼はレンを見た。
「ただ、一つ言えることがある。お前の体から現れる力は、私が知っている普通のエコー能力とは様子が違う。これまで多くの種類のエコーを見てきたが、お前の力の振る舞いは明らかに異なっている」
レンは不思議そうに尋ねた。
「それって、僕の力はエコーじゃないってこと?」
エリリアンは優しく首を横に振った。
「それもまだ分からない。まずは、その力の本質を知る必要がある。理解できていないものに、勝手に名前をつけるべきではないからな」
レンはしばらく、倒れているグリムホーンを見つめていた。
「この力で、ほかの誰かまであんなふうに変わってしまうことはあるの?」
エリリアンは答えるまでに少し時間を置いた。
「分からない、レン。しかし、今日起きたことには何か普通ではない理由があるはずだ。あのフェルナルに何が起きたのか、本当の原因を突き止めなければならない」
レンは少しうつむいた。
「僕のせいで、誰かが傷つくのは嫌だよ」
リアはすぐに彼を見た。
「レン、今から自分を責めないで。あの生き物がどうして変わったのか、私たちにも分からないんだから。何が起きたのかさえ分かっていないのに、そんなに心配しなくてもいいよ」
カイルもレンに目を向けた。
「リアの言うとおりです。何が起きたのかは、これから調べていけばいい」
エリリアンも落ち着いた声で続けた。
「今は、まず今回の出来事について情報を集める必要がある。フェルナルがグリムホーンへ変化したこと。そして、ほぼ同時にお前の力が発動したこと……。この二つの出来事を、簡単に見過ごすわけにはいかない」
彼はもう一度、巨大な怪物を見つめた。
「それに、何百年も前に絶滅したと考えられていたグリムホーンの姿を、なぜフェルナルが隠し持っていたのか。これが最も大きな謎だ」
レンも怪物の方へ視線を向けた。
彼の頭の中には、いくつもの疑問が浮かんでいた。
しかし、まだ誰もその答えを知らなかった。
エリリアンはしばらく黙っていた。
今日起きたことは、単に一匹の生き物が姿を変えたというだけの出来事ではないと、彼には分かっていた。
弱いフェルナルがグリムホーンへと変わり、そのほぼ同時にレンの周囲には謎の青い光が現れた。
二つの出来事には何らかのつながりがあるのかもしれない。あるいは、まったく関係がないのかもしれない。
だが、一つだけ確かなことがあった。
今日の出来事によって、いくつもの古い謎が再び動き始めたのだ。
つづく……




