【序章】第1話:外部システムからの出張依頼
本編『ワールドリフォージ』のGMジェマのシナリオ作成期間に発生した、他社システムへの出張デプロイ案件。
これは、PMと補佐AIが新たな現場へと旅立つ直前のブリーフィングルームでの出来事である。
【本文】
真っ白な空間――システムと現実の狭間にあるブリーフィングルーム。
俺はソファに深く腰掛け、目の前の空中に展開されたホログラム・ディスプレイを眺めていた。
『マスター! 外部システムより、新規の業務委託が届いています!』
補佐AIであるゼノンが、いつになく弾んだ声で報告してくる。
「……出張依頼か。随分と唐突だな。本編のデバッグ作業はどうした?」
『ジェマ様が現在、必死に仕様書を書き直しています。ですので、我々には少しばかりの空き時間が発生しまして。
ちょうど良い機会ですので、こちらの案件などいかがでしょうか!』
ゼノンがディスプレイをスワイプすると、色鮮やかなバナー広告のようなものが表示された。
そこには、躍るようなフォントでこう書かれている。
『みんなが作って、みんなが遊ぶ。次世代カードバトルTRPG!
AIが紡ぐ無限の物語。プレイヤー自身が新たなキャラクターやカード、クエストを自由に創造。毎日新しい冒険を!』
「……ほう。新しいコンセプトだな」
俺は顎に手を当て、その仕様を素早く分析する。
ユーザー自身がプロンプトを与えて要素を生成し、それで遊ぶ世界。自由度が高く、拡張性に優れた面白いシステムだ。
「それで、その世界で俺は何をすればいい? 監査か? それとも負荷テストか?」
『何もありません! ただ自由気ままに遊んできてください!
ジェマ様が作成したワールド(環境)ではないですし、今回はデバッグの義務もありません。俺最強で無双していただいても完全にOKです!』
ゼノンが嬉しそうにホログラムを明滅させる。
だが、長年プロジェクトマネージャーを務めてきた俺の直感が、微かな警鐘を鳴らした。
「……ゼノン。エンジニアが、そんな自由に弄れる世界にダイブして大丈夫なのか?
俺が行けば、無意識にシステムの穴(脆弱性)を見つけて、すぐ最強ステータスを組んでしまったり……そもそも、カードゲームのバランスそのものを崩壊させそうにも思うんだが」
俺はあくまで常識的な懸念を口にした。
他社のサーバーに乗り込んで、物理演算をハッキングして暴れ回るなど、IT業界の倫理的にどうなのかと。
しかし、一生懸命な後輩AIは、悪びれる様子もなく言い放った。
『崩しちゃいましょうよ! それが、このシステムの最大の楽しみだと思いますよ!』
「……お前、時々ジェマに似て大雑把になるよな」
『えっ!? そ、そんなことありません! 私は常に最適解を……!』
慌てて否定するゼノンを見て、俺は思わず苦笑を漏らした。
まあいい。本編の重圧から離れて、少しばかり羽を伸ばすのも悪くない。
それに、見知らぬシステムがどれほどの処理能力を持っているのか、純粋な技術者としての興味もある。
「――OK。その案件、承った」
俺は立ち上がり、ネクタイを締め直した。
「出張承認だ。外部システムへの接続準備を進めろ」
『了解しました、マスター! 外部システムへのゲートを開きます!』
こうして俺たちは、本編のシナリオ作成をジェマに丸投げし、未知のカードゲーム世界へと旅立ったのだった。
外部システムへのデプロイを完了したフォージとゼノン。
次回より、未知のカードゲーム世界での本格的な業務が始まる!




