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第9話 レースデビューと試練のハンデ

 杉山が中学三年生になった四月に、レースデビューを迎えることになった。


 普段から走り慣れた永島所有のコースではなく、あえて走ったことのないコースをデビューの地に選んだ。

 ローカルレースではあったが、地元のベテラン勢が数多く出場しており、レース当日までそのコースの走行を永島に許されなかった杉山は、苦戦を強いられると予想された。


 朝の練習走行は二十一台中、十位に沈んだ。

 予選レースのスタート順を決めるタイムトライアルは四位。

 予選レースは終盤に二台を抜いて二位となった。


 決勝レース前、杉山はその日初めて、セッティングの変更を申し出た。

 その効果か、決勝レースではスタート直後に一位へ浮上し、そのまま独走して、デビューレースで見事に優勝を飾った。


 他のチームの連中は、杉山の使っているフレームが海外メーカーのワークス仕様だから勝てただけだと、皆に聞こえるような声で陰口を叩いていたが、クロの難しさを知る永島やチーム員達は全く意に介さなかった。

 杉山に速さがあることは明白だった。


 コースごとにシリーズが組まれているローカルレースに出続ければ、連戦連勝になることは間違いなかった。一つ上のクラスである、都道府県単位で開催の地方選手権に出場して腕を磨くことも考えられたが、永島はあえて、それを選択しなかった。


 杉山が書いたカート計画には全日本選手権への参戦も予定されており、それに向けて資金を貯める必要があったのだ。

 永島はあえて、エントリー費用が安く、遠征費もかからないローカルシリーズへの参戦継続を選んだ。

 

 ただし、普通に参戦するのではなく、パワーの出ないエンジンの使用、中古タイヤの使用、セッティング回数の制限という三つのハンデを杉山に与えた。


 エンジンについては、元々クロに付いていたエンジンを売却し、ショップの倉庫に捨てられていた使い古されたエンジンを、杉山自身が修理をして使うことになった。

 杉山は丁寧に整備をしたが、年代物のエンジンは出力に限界があった。このエンジンを使うことによって、杉山は、直線で相手を抜くことや、雑にアクセルを踏むことを封じられた。


 更にグリップ力のない中古タイヤを使わされることで、コーナリングだけでなく、加速・減速の全てにおいてハンデを背負うことになった。


 エンジンとタイヤでつけられた差をあの手この手で埋めるために、マシンを様々に調整したいところだったが、レース中のセッティングの変更は一回までという足かせによって、それは許されなかった。


 力のないエンジンに滑るタイヤ。加えてクロという扱いの難しいフレームを使うことで、杉山は全てのコーナーで、気を抜くことや雑な操作をすることが許されなくなった。

 更にセッティング変更が一回しかできないため、レース展開を予想して、どのタイミングでどんな変更をマシンに加えるかといった戦略を考えなくてはいけなかった。


 ハンデを背負った杉山は、その後出場したローカルレースでトップを走ることはほとんど無くなり、レースが終わる度にへとへとに疲れきっていた。

 しかし、その疲れと引き換えに、生まれ持っての才能ではなく、努力で得られる能力を積み上げ続け、レーサーとしての強さを身に付けていった。


 そんな中で、杉山が例外的に一度だけ勝ったのは、雨のレースだった。

 雨が降ると、タイヤと路面の間に水が入って滑りやすくなるため、他車とのエンジンのパワーやタイヤのグリップ力の差が小さくなる。

 雨中の杉山はまさに、水を得た魚であった。


 杉山のレース一年目は、八戦中二勝だった。

 初心者としては十分な成績であったが、永島が鍛えて抑えつけての二勝だった。


 並のドライバーなら、勝てるレースを落とし続けることに耐えることができないが、杉山の心が折れることはなかった。

 杉山の精神面の強さに、永島は将来への更なる可能性を感じていた。

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