表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第六感

アノウが注目したのは狙撃兵がいたとおぼしき八階建てビルの隣にある五階建てのビルだ。

少し距離があるが、重量の比較的軽いテリオンでオーグメントを使わず移動できるといえば、そこしかないだろう。

アノウはさっそく、無誘導短距離ミサイル(USRM)をビルの最上階に当て続け、同時に狙撃を回避するため周囲を機動する。


敵機(ターゲット)D(デルタ)五時の方向ファイブ・オークロック!」

わかっている(アイ・ニュー)

狙撃の回避行動の隙をついていくのは定石だ。

アノウでもそういうところにコマを置くだろうというところに中口径XPレーザー(XPL)をあらかじめ向けておいた。

融合炉がうなり、レーザーの放熱器が熱い気を吐く。


レーザーだから、ただの反動しかアノウは感じないはずだが、

アノウにとっては、それが人の命が突き消されたときの最期の怒りだと信じていた。

戦場に長くいると、あきらかに非現実な確信──本人もウソだと頭ではわかっているのに、肉体のおびえる元凶が自分にとりついて、ふりはらうことができなくなる。

妄想におびえて人間性を失っていったベテランは何人も見てきたが、どうやら、自分にもその御鉢が回ってきたようだ。


敵機(ターゲット)D(デルタ)無力化(ニュートライズド)

USRM(無誘導短距離ミサイル)の残数は」

「八発です、マスター」

「使い切るぞ」

アノウの目論見どおり、ターゲットのビルが崩壊をはじめた。

あたり一面におびただしい破片が落下し、膨大な塵、土煙がわきたつ。

有視界など皆無である。

まさに、巨大な煙幕発生装置だ。


アノウがたよりにしていたのは、視界ではなかった。

聴覚──音声。

そして、生死の境界たる戦場でしか研ぎすませられない、第六感とでもいうべきものだ。

「センサー故障、可視光センサー(VLS)赤外線センサー(IRS)紫外線センサー(UVS)使用不能アウト・オブ・オーダー

「いい感じだ」

この状況で光学系のセンサーがつかえないのは僥倖(ラック)……というより、あえてそれを狙った。

|虎穴に入らずんば虎子を得ず《ナシング・ベンチャード・ナシング・ゲインド》。

新兵のときに訓練教官から教わり、いまでも覚えている金言だ。

その教官は最後の訓練メニューの演習で、テロリストの奇襲を受けて、アノウたちを守って死んだ。

もはや虎穴(ベンチャー)に入るしか生き延びることはできない。

そのときアノウは確信したのだ。

だから、いまでもこうして戦場で肉体を保つことができている。


睡眠をとったからか、アノウの直感は回復していた。

セーマンドが探知するよりもさらにはやく、八時の方向に中口径XPレーザー(XPL)をすでに発射していた。

生死の境界線は、コンマ単位で仕切られている。

融合炉(リアクター)爆発音エクスプロージョン・サウンド確認(ディテクテッド)

さらに二時の方向に発射。

融合炉(リアクター)爆発音エクスプロージョン・サウンド確認(ディテクテッド)

そしてやや少し間をおいて、十時の方向へ。

融合炉(リアクター)爆発音エクスプロージョン・サウンド確認(ディテクテッド)


アノウの狙撃は、まさに神域のテクニックだった。

これと機動を組み合わせることで、いくたもの地獄から生還することができた。

噴推器(オーグメント)使用不能アウト・オブ・オーダーであっても、まだ両足が残っていれば十分だ。

戦闘能力(アビリティ)はブルー、遮蔽物の多い廃墟はホームグラウンド。

「対手をみくびってヒットマンをケチったな」

アノウは鼻を鳴らした。

「セーマンド、残弾も少ない。噴推器(オーグメント)も修理したい。付近に補給・修理できるところはないか」

「ここから北北東17キロの地点にオクテラ旧駐屯地があります。

軍はすでにこの施設を放棄していますが、周辺の住民の避難場所として使われてから、

生活可能のように整備され、テリオンの補給・修理も請け負う工場が存在しているとの情報があります」

「よし、そこへのナビゲーションをしてくれ」

了解(イエス)、マスター




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ