5話 強敵
唖然とする。壁とはいえ、所詮は木なのだ。火を放てば一気に燃え上がると思った。だが現実は小さな焦げが一つ。普通だったらありえない。
「グンマもボーッとしてないで!」
言われてグンマは詠唱を始める。しばらくして突風が吹き荒れる…が、やはり木の壁を前に消え失せた。
「魔力で守られてんじゃね?」
リオンがつぶやく。珍しく声が眠そうじゃない。
「そうだね…どうしよう」
「魔法防御には物理攻撃。マーク、行ける?」
へー、リオンってちゃんと起きてるときは統率とったりできるんだ。意外。
「ごめん、無理!」
マークは上方への警戒で精一杯なのだろう。こちらを見もせずに答えている。
「どうする?」
魔力を防ぐ壁、こちらの物理アタッカーはそれどころではない。
「...私に考えがある」
今思いついた作戦をリオンとグンマに話す。
「やる価値はありそうか」
リオンが薬品を作り始める。科学者であるリオンが薬品を調合する光景は科学とも魔法とも取れない異様な光景だ。カラスが気づいて羽根を飛ばしてくるが、マークの守りはそう簡単に抜けるものではない。やがて薬品が完成する。ドス黒い液体がガラスの容器に入れられている。
「テレス!こっちは準備できたよ!」
「俺もいける」
そう言ってグンマは詠唱を始める。それが完成するかどうかというところでリオンが木の壁に向かって薬品の入った容器を投げつける…が届かない。地面に落ちようとしたとき、グンマの詠唱が完成する。たちまち突風が吹き荒れ、薬品の容器は飛ばされて木の壁に当たって砕ける。中から黒いネバネバした液体がどろりと流れ出す。ネバネバしていても液体は液体。木に染み込んでいく。準備は整った。私は詠唱を始める。
その形は定まらずしてその役は剣
汝あらゆるものを呑み込むべし
今総てを焦がし貪りつくしたまえ
第3階梯、豪炎
威力は第2階梯火炎の比ではない。途中にある地面を焦がしながら進む大きな火の玉は常識ではありえない熱量を持っているのがわかる。壁にぶち当たった火の玉は小さな爆発を起こし弾け散る。だが火は収まらない。火の玉が消えたあともますます勢いを増して燃え盛る。これはさっきの液体によるもの。さっきの液体は魔力を吸収し、可燃性の物質を生み出す、いわばガソリンのような役割をしていたのだ。
巨大な木の壁が焼け落ちようとしたそのとき、鋭い先の尖った木の根が壁を貫き私達を突き刺さんと迫ってきた。壁に注目していた3人は避けられたが、ずっと上空を警戒していたマークは避けられない。左足を木の根が貫き鮮血が舞う。
「ぐっ…!」
マークは苦悶の声を漏らしてその場に崩れ落ちる。そこに飛んできた刃のような羽をなんとか剣で叩き落とす。剣を振る力はあるようだが、自衛が精一杯だろう。つまり、もうマークに守りを頼ることはできなくなったのだ。
「テレス!結界魔法とか使えないの!?」
リオンが叫ぶ。
「無理!結界は相性が悪い!」
魔法には相性というものがある。人によって得意な魔法の系統があり、逆もまた然り。私の場合は攻撃魔法、特に炎が得意で、結界や回復、バフなどのサポート系は大の苦手だ。普通は苦手と言っても使える階梯に1つほど差ができるだけだが、私の場合はもっとひどい。全くと言っていいほどできない。つまり、自分の身は自分で守るしか無くなった訳だ。焼け落ちた壁の向こうの亀を先に倒そうと詠唱を始める。
その形は定まらずしてその役は剣
汝あらゆるものを呑み込むべし
あと1文で完成するというところで羽根が飛んでくる。慌てて避けたが詠唱は失敗。幸いにも上空から打ち出される羽は見てから避ける余裕はある。が、安心して詠唱はできない。魔法を使うには高度の集中が必要なため、避けながらというのは難しい。全くできないわけではないが威力が著しく下がる。つまり、私達は現状打点がないということだ。となるとグンマがマークの治療を終わらせるのを待つしかない。
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