17話 攻防
先に動いたのは六腕の魔物だった。その槌が一番前に立っていた私の頭に迫る。
「…あっぶな!」
幸いあまり動きは素早くないようでバックステップで回避する。地面が凹んでいる。そのまま後ろに下がり、すぐに詠唱を始める。
猛りし炎よ以て総てを焦がし尽くしたまえ
まずはどの魔法が有効かを見極める。飛んでいった火の玉を六腕の魔物は左の何も持っていない手で受け止めた。いや、受け止めたというより手の中に吸い込まれていった。
「…え?」
あっけにとられていると六腕の魔物が次はこちらの番だと言わんばかりに何も持っていない右手を前に出し…そして火の玉を放った。私が打ち出したものより少し大きい。その火の玉はマークの大剣に当たり、弾けた。嫌な予感がする。
美の極致たる氷よ 出で来よ
今度は氷礫を放ってみる。今度は六腕の魔物の右手に当たり…そして一回り大きい氷塊が左手から放たれた。
「うっわぁ…」
氷塊を避けながら声を漏らす。恐らくはこういうことだ。この六腕の魔物は何も持っていない左右の手から魔法を吸収し、それを反対側の手で少し強化して放つことができるのだろう。失念していた。普通だったら外傷もなくこの狼が魔力欠乏を起こすわけがない。つまり、この狼の魔力欠乏はこの六腕の魔物によるものだったというわけだ。
「こいつの武器なら壊せない?」
呆然としているとマークが口を開いた。マークの言うことはもっともだ。恐らく魔力を吸収・放出できるのは何も持っていない手のみ。六腕の魔物が振り回している武器を破壊できれば一気に有利になる。一番脆そうな槍を狙って詠唱をする。
その光は疾く視を眩ます
その熱は邪を灼き魔を滅する
その閃雷以て刺し穿て
雷の第3階梯魔法、閃雷
伸ばした手の先が眩く光ったかと思うと電気でできた槍が超音速でとんでいく。
一般に雷魔法は他の魔法よりも難しいとされる。また、雷魔法には第1,2階梯が存在しない。高度な魔法である雷魔法を制御するのに2文程度の詠唱では不十分だからだ。
亜光速で飛んでいった電気の槍は六腕の魔物の持つ槍の穂先の付け根を正確に打ち抜いた。パキン!という小気味良い音とともに折れた穂先が宙を舞う。
「やった!」
快哉を叫んだのも束の間、その声は絶望に変わった。六腕の魔物が折れた槍を地面に突き刺した。そして引き抜いた槍の先には…穂先が日の光を浴びてきらめいていた。
「うっそぉ…」
なんなんだコイツは。魔物に再生能力を持つものがいるのは有名だ。だが、武器を再生するのは反則じゃなかろうか。
六腕の魔物が槌を振りかざしてマークに殴りかかる。マークの剣さばきも流石のもので、六腕の魔物の槌を真っ向から受け止めずにうまく受け流す。が、それでもかなりの力らしく、少しずつ押されていく。私は六腕の魔物が槍を巨体に隠すように持っていることに気がついた。すかさずペンダントに魔力を込め、無詠唱で閃雷を放つ。槍がマークの脇腹を貫くより一瞬速く、電気の槍が六腕の魔物の持つ槍を貫いた。
「サンキュ!助かった!」
マークが隙をついて何も持っていない腕を落とそうと剣を振るいながら言う。惜しくも腕を落とすには至らなかったが、傷をつけることには成功し、六腕の魔物が怯んで後ろに飛び退る。
六腕の魔物の出方を窺っていると後ろに気配がした。素早く距離を取り振り返ると、そこにはリオンがいた。だがその目つきの鋭さはまるで別人のようだった。まだ目が赤い。おそらくたった今まで泣いていたのだろう。
「リ…リオン…?」
「もう大丈夫なのか?」
リオンは答えない。代わりにただ一言、こう唱えた。
「ディセスト ・ルア」
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