8話 逆転
「最初の時間稼ぎはユイに頼んだ」
「ん……ゴーレム、行って」
リオンの指示を受け、ユイがゴーレムにそう告げた。
途端、ゴーレムが空を蹴って走り出した。どういう原理か全く分からないが瞬く間に亀との距離を詰め、足関節にいきなり踵落としを食らわせた。さらに立て続けに拳と脚が亀を襲う。マークよりも速いかもしれない。が……
「ダメ……あの子じゃ効かない……」
「怒らせてるだけにも見えるけど…でも頑張ってもらうしか無いか。あとちょっと待ってて」
あとちょっとで薬品が完成するはずだ。その間に心を整え、私はさっき失敗した詠唱をもう一度始める。
その形は定まらずしてその役は剣
汝あらゆるものを呑み込むべし…
行使しようとするのは大魔法。もちろん詠唱も長く、集中を切らさないように神経を研ぎ澄ませる。薬品が完成したらしく、リオンはそれをユイに手渡す。先ほどとは違い、瓶には青い液体が入れられている。
「ゴーレム、戻って」
豪速で戻ってきたゴーレムにそれを手渡し、ユイは次の結界の準備を始める。それを横目に詠唱を続ける。
…地獄にありしは煉獄の炎
天にありしは神罰の炎…
ゴーレムが液体を持った拳で亀の頭部を殴りつけた。攻撃そのものは全く効いていないが、瓶がその衝撃で割れた。飛び散った液体が亀の顔にかかり、初めて亀が苦悶の声をあげる。いわゆる強アルカリ性の液体だったため、飛び散って目に入れば生物ならただではすまない。逆に薬品耐性の高い金属製のゴーレムには効かない。
「リオン! マークの回復終わった!!」
「分かった! 亀から少し離れてて!とどめをさしきれなかったらお願い!」
マークの治療が終わったらしい。完全では無いが、ある程度回復したようで、走ってこちらに向かってくる。同時、ゴーレムがまた高速で戻ってくる。私の詠唱も完成した。
…以て総てを焦がし貪りつくしたまえ
最後の1文を紡ぐと同時に、純白の炎が亀を包み込む。一般魔法の中で最も高位の第5階梯、神炎。
「ガアアアアァァァァァ!!!」
亀の苦悶の声が一段と大きくなり…やがて消える。魔力がゴッソリと抜けた感覚があり、少し疲れを覚える。
「……亀…甲羅焼き……蟹……食べたい……」
ユイがよく分からないことを呟いている。いつもの独り言なので無視だ。
「えげつないことしたね……」
改めてその様子を見たマークが呟く。同感だ。生きたまま蒸し焼きの亀…そう考えると可哀そうにまで思えてくる。
残ったカラスを見上げると、先ほどの空間に固定された羽によって逆に身動きが取れないようだ。一歩でも動けば体が傷だらけになるため、ただその場に浮かんでいることしかできない。だが、瞳には明らかに炎が燃え盛っている。
刹那、木の根が迫ってくる。亀が死の間際に撃ち放ったのだろう。
とはいえ、結界内で遅くなったため避けるのは容易だ。
壊滅的に運動の出来ない1人を除いて。
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