重さを操る侯爵令嬢は王太子の心をつかんじゃった
そこは薄暗くじっとりした地下牢。足元はジメジメしていて壁にはカビがびっしりと生え身体を寄せ預ける場所がない。普通の貴族なら貴族用の牢という名の簡素な部屋になるはずなのにまるで重罪人の扱いだ。
ヴァロス公爵は何故こうなったのか過去からの行いに思いを巡らせるも答えに当たらない。
「お父様、私こんな所に居たくないわ!早く出すよう仰って!」
「貴方、何故私たちがこのような扱いを受けなくてはなりませんの!」
「うるさい!うるさい!うるさい!お前達が揃って愚かだったからこんな事になったのであろう!」
怒号とヒステリーのぶつかり合いだ。
あまりの罵り合いに呆れ返った看守は
「ヴァロス公爵家の皆様、明日には王室裁判が開かれます。どうぞそれまでお静かにお願いいたします」
「・・・・・・・・・・・・」
一瞬、口を閉じた公爵たちだがその後朝までの醜い舌戦は終わらなかった。
そして王室裁判は始まる。
感情の昂りが冷めやらぬヴァロス公爵家の者は地位の高さに固執した偉そうな態度に一方的な釈明。とても公爵家らしい冷静さなど微塵もない。
一通り話を静かに聞いていた国王陛下は
「ヴァロス公爵、其方たちから弁明ばかりで無実を示す証拠も証人もない。そしてこちらは我がハワード王太子が国を周り見つけ出した其方たちの数多くの下級貴族領地に行った傲慢な脅しやおこないの証拠がある。
そしてジュリアン嬢の魔力暴走殺人未遂に神官の恐喝や殺人教唆をおこなった。公爵夫人は舞踏会やお茶会にて地位の低い貴婦人たちに暴力や暴言に気に入らぬ者は無実の罪をきせ領地から出られぬよう手を回した。ソフィア嬢は学園にて横暴な態度に友達を唆し下級貴族や平民を見下し暴力暴言と、、、ええい情けなくて読む気にもならん。ヴァロス公爵、公爵家はこの国にて大きな勢力を誇る。その公爵領を潰すということは大きな犠牲を伴う。しかし領地を統べる者がより正しくなければ領民が不幸になるのだ。よって公爵家の者は爵位を剥奪し公爵は数多の罪で斬首刑とし公爵夫人と娘は北の罪人修道院にて生涯悔い改めよ」
これにて長く続いたヴァロス公爵家が潰えた。
その後、罪を悔い改め贖罪の日々を送っていた神官は牢に繋がる罪人達の話を聞く職につき更生の手伝いをした。元気になった息子と共に。
また子爵家ロックフォローは領地の厳しい末端の仕事を一から努め上げ心改めることが復学の条件となった。
トロイオンス侯爵家でのその後の話
穏やかな風に温かな日差しが気持ち良い。ガゼボでのんびり目を瞑りすっぽり身体がおさまる大きな椅子に身を任せているジュリアン。
ポカポカ陽気と気持ちの良い風につい浅い夢をみていた。
(それはまだ子供の頃、これはまだ私の知らないあの子の記憶?)
あれ!あの子はみんなが探している男の子かな?
湖のそばで疲れた顔をしていたのが気になって隣にそっと座り様子を見る。男の子がホッとしたようで私も安心する。
暫くすると男の子は眠っていた。スースーと小さな寝息を立てて膝を抱えて丸まっている。
あー疲れているんだなぁーまだ私と歳の変わらない子なのにこんなに疲れて可哀想だなぁーと、ついジーと見つめてしまっていた。
その時、男の子がパッチリとマブタを開けた。目の前に広がる湖より遥かに美しい碧い瞳に私の幼い心が震えた。
そこで私はゆっくり目覚めた。
今見た浅い夢はこの子のとても小さな大切な思い出なのだわ。
あの子の一番大切にしていた思い出を見て私の心が温かさで満ちていた。
そんな時、草を踏む足音が近づく。そっと顔を上げるとハワード王太子様が近づいていらした。
私は慌てて席を立ちカーテシーをした。
するとハワード王太子様は
「ジュリアン嬢どうぞ、そのままお座りください。トロイオンス侯爵家の者に聞いたらガゼボにいると聞いたので寄らせてもらった」
王太子様はジュリアンの手をつなぎ跪き下から覗くようにジュリアンの顔を見る。
「ジュリアン嬢、覚えていないかもしれないが私が幼くとても疲れていた時に貴女が慰めてくれたことがあった。たった一度の出会いが忘れられず辛い時の励みにしていたのだ」
私は今まさに見た夢をハワード王太子様にお話しした。
(あの子の大切な思い出に触れ…また王太子様があの子の大切そのものだと思ったから…)
「なんと!」
ハワード王太子は意を決したように
「君も…思い出してくれたのだろうか。…たった一度の小さな思い出だがそれからジュリアン嬢が私の心を捉えて離さないのだ。どうか、どうかわたしと婚約してくれないだろうか?」
私は取り繕うことも出来ず真っ赤になった顔をハワード王太子に向け精一杯応えた。あの子だけじゃなく私の気持ちも乗せて
「ハ、ハイ。至らないこともあるかと思いますがハワード王太子様をお支えできますよう努力してまいります」
ハワード王太子は私をそっと立たすと
「ハワードだ!これからはハワードで良い」
「ハ、ハワード、様…」
「ん、様は要らないのだが・・・だが今はそれで良い。ジュリアン…いやジュリーと呼んでも?」
「ハ、ハイ!ハワード様!」
ハワードは身体中から湧き上がる嬉しさにジュリアンを思いきり抱きしめ額にキスを落とした。
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