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デスの章9

実験もほどほどに

牛の死骸も、人間も地上に帰し、今日の実験は終了した。それにしても、今回の実験はあまり何の成果も得られていない気がする。でも、人間、動物、地球の生態を知るには必要な実験なのだ。書物というやつを読むのもいいが、百聞は一見にしかずってことで、ワレワレは地道に実験を繰り返していた。どうせ何もすることもないし。

ワレワレの仲間の一人が面白い話を聞いてきた。どこで聞いてきたのかはわからないが、とにかく、その話がワレワレの運命を最悪な方向に導いてしまった。

「人間たちの話によりますと、あのノミという生物が人間ぐらいの大きさになると、ものすごいジャンプ力を持つと言われているんです。それ、やってみませんか?」

ヒーローは少し考えた。危険すぎやしないか?それに、見た目もグロすぎる。想像するだけで嫌になる。でも、面白そうだ。でも、危険な気がする。ヒーローはしばらく考え、沈黙する。そこでワレワレの生きる意味を考えた。無理やり、ほかの星にまで来て、侵略する仲間の所業に頭に来て、付いていけず、過去に来たはいいが特に何もしない。そうじゃない。ワレワレを動かしているのは過去も今も未来も好奇心だ。それだけは絶対に忘れてはいけなかった。ならば、やろう。それ以外の答えはない。ないはずだ。

「わかった。面白そうだな。それにしてみよう。・・・ただし」

「ただし?なんですか?」

「あの容貌だけは少し変えてくれ。せめて、人型にしてくれ。あのままの形で大きくしたら、始末するのはそのノミだけではなくなるからな」

「ははは、おっかないですね、それは。分かりましたよ。じゃあ容姿を変えて、大きさも変えますね」

ヒーローはそれで承諾した。が、よく考えたら、その遺伝子操作の実験にはヒーローも加わるんだった。だから、ほかの仲間に言わなくても、自分でやればいいんだ。

ノミは、実によく育ち、みるみるうちに巨大化していった。実験には一応3匹のノミを使用したが、全部が全部、大きく育った。ノミ本来の能力をそのまま巨大化できるように遺伝子を操作して、念のため繁殖能力は奪っておいた。2日ほどで、人間ほどの大きさになり、最初の工程は終了した。

「この2日、食べ物を与えていないのですが大丈夫ですかね?」

「それは平気だろう。まれに食事を与えずにいると短時間で死んでしまう生き物もいるようだが、このノミはそれも平気だろ。でも心配なら、明日、早速地上に降ろしてみよう。このノミがいったいどんな動きをするのか」

このノミの名前を『チュカカブラ』と名付けた。(余談だが、あの『チュパカブラ』と名前が似ているのは本当に名前を間違えていたためだが、1980年代には『チュパカブラ』は目撃されていないとのことで、たまたま偶然的にものすごく似た名前になった。シンクロニシティーが働いたのだ。ということで)

チュカカブラは思った以上に食欲旺盛だった。適当に1匹だけ地上に落した。ある程度の高さから落とすも、チュカカブラはでかい音を立てて倒れるも、すぐにむくっと立ち上がった。その様子を見て、ヒーローは只ならぬ恐怖を覚えた。戦慄を感じていた。それを感じたのはヒーローだけだった。とんでもない化け物を・・・生み出してしまったのかもしれない。もう止められなった。止めようがなかった。成り行きを見守ることしかできない。

起き上がったチュカカブラはにおいを嗅ぐような素振りをし、周りの様子をうかがう。確実に獲物を探していた。本能だ、それは。チュカカブラの投下された場所の約2キロほどの所に牧場があった。それ以外は畑や農場。一応人間のいるところに行かないように、上空から見てこの場所を選んだ。巨大な地図を見ているようで、探しやすかった。

「チュカカブラは、順調に獲物のところに行きますかね?」

と、誰かが間抜けなことを言い出した。そんな心配は無用だと思っていても、ほかにもそんな間抜けな不安の声を上げる奴がいたが、ヒーローは何も答えなかった。チュカカブラの動きが怖くて、モニターから目が離せなかった。これからどんな動きをするのか。本当に心配だった。でも、それ以上に好奇心に心躍らせていた。その気持ちは、この怪物を見守りたいという純粋な気持ちからなのか、それとも罪悪感が強すぎてただ単に現実逃避をしているだけなのだろうか?わからない。知りたくはない。


読んでくれてありがとう。次もよろしく!!

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