デスの章10
倫理観は共通の正義
「う・・・動いたぞ」
チュカカブラは当然のように、牧場のほうへ足を向けた。そのあとのチュカカブラの動きに、ヒーローだけでなく、そのモニタリングしていたデス全員が驚愕した。動きは自動で追尾しているから見えているが、デスたちは誰もその動きに付いていけなかった。早い。あまりにも速い。チュカカブラの動きはあまりにも想像から逸脱していた。
「あ・・・あの」
やっと、自分たちの犯した過ちの重みに気が付いた。この生物は、生み出してはいけなかった。このまま回収して殺すこともできた。でも、誰もやらなかった。やれなかった。見てみたかった。もう後悔した。後悔したのだから、その先を見とかなくては損だ。今やめれば何にもならない。恐怖心と好奇心の均衡をなんとか保ちながら、その均衡が壊れるまでモニタリングをやめてはいけなかった。未来はどうなるのかわからない。ならば、やらずして、やらずして結果を決めつけてはいけない。
「何も言うな。継続だ」
その言葉を言おうか言うまいか、本気で考えていたが、答えを出す前に口から出てしまっていた。それがもう答えだ。ヒーローの一言に、デスたちはみんな黙りこくり、モニタリングを続けた。
2キロほど先にある牧場には、あっという間に到着していた。みんな、固唾を飲んで見守っていた。チュカカブラは、思いのほか、そこからの動きは慎重だった。ノミがいくら大きくなっても、牛はやっぱりデカかった。それに、逃げられるとめんどくさそうだ。なんてチュカカブラはそんな考えで動いているようだった。その動きを見て、一つの懸念を抱いた。知識が・・・知能が備わっている?
「そろそろ、襲いそうですよ」
牛は、5匹ほどいた。その1匹もチュカカブラには気が付いていない様子だ。座って尻尾を回している。今からそう時間もかからないうちに、こののんきな牛たちは全部、死ぬ。見ていなくとも分かった。ここからは、すべてヒーローが予想した通りの出来事だ。まず、チュカカブラに一番近くにいた牛が餌食になった。瞬く間に起こった。数人のデスはその瞬間を見逃した。それほど一瞬の出来事だった。
チュカカブラが牛に体当たりをしたかと思うと、その瞬間に牛の首の骨が折れて、その牛は絶命していた。ほかの牛たちが一瞬、何かに気が付いた様子で顔をあげたが、すぐに何事もなかったかのように座りなおした。そのときすでに、チュカカブラの舌が牛の心臓付近に食い込み、刹那、牛の体からは血液・・・いや、体液そのものがすべて吸い尽くされていた。
それは、あまりにも静かな、静かすぎる夜だった。デスたちだけが騒ぎ出す。まったく信じられなかったのだ。
「死んだ?」
「死んだのか?」
「今ので殺したのか?」
デスたちが騒ぎ出す。牛は、まるで眠っているように座ったまま。ただ、眠ってはいない。死んでいるのだ。数秒前まで確かに生きていた。それが、こと切れるとはまさにこのことだ。生命が切れてしまっていた。すべてを吸い尽くされ、中身は空っぽだ。
あとの牛たちも同じように殺されていった。どの牛も自分の死に気が付かず、仲間の死にも気が付かず死んでいった。まさに、化け物。デスたちが再びざわめき出す。
「あのチュカカブラ・・・どういたしますか?」
「どうするもこうするも、一応回収しなくちゃならないだろ」
そういうと、デスたちは騒ぎ出した。「マジかよ」や「ほっとけばいいんじゃない?」など勝手なことを言い始めた。挙句の果てには「人間や地球なんてどうでもいいだろ」と言い出すものまで現れた。それに賛同し始める一同。
「待て!!!!」
もちろん、叫んだのはヒーローだ。周りの自分勝手な言い分を聞いていい加減、頭に来たのだ。
「お前ら、科学者だろうが!自分の、ワレワレの実験だ。最後まで責任を持て!人間や地球や動物、生命。そんなことは今は関係ない。ワレワレが好奇心から始めたことだろ!そのままほっておいて、ワレワレは何のためにここにいるというんだ!あいつらとは違う考え方の下、この時代の地球に来たのだろう!それを忘れてどうする?責任は、責任はとれ!!」
ヒーローの一括にデスたちは静まり返った。そして、全部のデスが、ヒーローの言葉に反省した。地球、人間・・・種族や生まれは全く異なる生命体だけど、ワレワレの行ったことを勝手に押し付けるわけにはいかない。何も変わらない。恥をかいた。ワレワレは自分の種族に対して泥を塗った。あいつらとまるで同じだ。それこそ、ワレワレは自分たちで自らを侮辱してしまった。
「すみませんでした。もう、あのチュカカブラを回収しましょう。そして、そのあとのことを考えましょう。それがどんな結果をもたらそうとも、ワレワレがけじめをつけましょう」
みんな、その言葉にうなずいた。本当に悲劇が起こるとも知らずに。もし、結果を知っていたら、ヒーローはどう決断していただろう?
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