キジンとデス・イーターの章15
念通力!みたいな言葉ってあったか?
デス・イーターは無我夢中で噛みちぎろうとしている。あかきは、段々と痛みよりもイラつきを覚えてきた。いつまでやってるんだこいつは?足が空いている。振りかぶってーーーーデス・イーターの顎に膝を叩きこんだ。吹き飛ばなかったが、力が緩んだ。すかさず掴まれた腕をもぎ取り、デス・イーターの顔に手のひらを押し当てた。
「悪いな、キッピー。後でちゃんと治してやるから」
なんて言っていると、すぐにその手が払われてしまいそうだったので、間髪入れずに奇神の力を最大限に吐き出した。ボン!!!と大きな音が鳴り響き、宇宙船は震え、空気は灼熱と化した。それとともに、デス・イーターが後方へ飛んだ。これで、奇神の力は尽きた。気絶でもしてくれ。と思いながら、あかきは倒れたキッピーの元へ忍び寄った。
「もうおしまいでいいだろ、キッピー。もう疲れたぜ?ゆっくり休んでくれ」
あと2歩ぐらいのところまで近づくと、むくっと、キッピーが立ち上がった。それはキッピーなのか、それともまだデス・イーターなのか?・・・その眼は未だに正気を失っていた。
「ああ、まだなのね」
あかきがため息交じりにつぶやくと、二ーーーーーーーー。とデス・イーターが相変わらずのむかつく笑いを浮かべる。あかきは思わず叫んだ。
「しんごーーーーーー!!!!助けてくれーーーーー!!!!」
しんごは今、トウモロコシ畑で農場主と一緒に収穫を手伝っていた。手伝わされていた。
「ん?」
そのしんごに、あかきの叫び声が聞こえたのか、思い出したように宇宙船のほうに振り向いた。そういえば、戻ってくるのが遅いな。しんごは思い出していた。アッシュが「もしも、万が一、キックがおかしくなったら、無理やりにでもこれを飲ませて」と言っていて、カプセル状の薬を渡されていたのを。その薬を取り出すと、そこには『アッシュの薬』と書かれていた。『アッシュの薬』と書くから、逆に何の薬か忘れてしまっていた。正確には『キックの薬』だ。思い出せたからどっちでもいいが、もしかしたら今がこの薬を使わなくてはならない時なのかもしれない。
「ごめん。続きはあとで手伝うから」と畑主に一言だけ言って、しんごは走り出していた。虫の知らせを信じたのだ。もしくは、本当にあかきの言葉が聞こえていたのかもしれない。
「おい、こらまて。逃げるな」
「逃げないっての!」
しんごが、光に包まれ、消えたことを不思議がることよりも、しんごが逃げたことに腹を立てている畑主。まだ何か叫んでいるがその怒号は聞こえていない。
あかきは、本当に焦っていた。もう、鬼神の力がなくなったのだ。刀が消え、姿もあかきに戻っている。力ががくっと無くなり、湧き出てくるのは全身から大粒の汗だけ。キッピーがそのことに気が付き(気が付かない者はいないが)、またもニーーーーーー。と笑い顔を浮かべる。蛇に睨まれた蛙。デス・イーターに睨まれたデス。怖くて怖くて、あかきはすぐにでも降参したかったが、降参しても殺されそうな雰囲気は変わらず、それに、キッピーを止めなくてはいけないという責任感は、まだ心の底に残っていた。
デス・イーターが近づく。ただ歩いてきているだけ。ただ、歩いてきているだけなのに、わざとゆっくり歩いてきているように思えてしょうがなかった。デス・イーターが拳を握る。下からゆっくりと、その拳が突き刺さる。あかきはただ突っ立っていたわけではない。頭では躱していた。意識では捌いていた。感覚ではデス・イーターの拳を防いでいた。だが、左わき腹に深々と拳が突き刺さっていた。酸素が絞り出され、続いて唾液、胃液、内容物、最後に血液が吐き出された。デス・イーターがそれを上手に躱した。憎らしいな。浮かび上がる体にさらに下から拳が襲いかかり、食らいついた。跳ね飛ばされた体は、天井にぶつかり跳ね返る。転がるあかきには、もう起き上がる力はなかった。
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