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コンラートという個体

「――じゃあこれ、テトラの火器なんで、奴ごと訓練場に連れて行ってください」

「承知しました!」


 金髪のお姉さんが敬礼しながらマガジンと重い銃を手に取った。


 片足の巨匠と別れてから4年になった。

 あと4か月で俺はここを退所し、俺の発明品も実地投入されることとなっている。


「時間は早いもんだな」

「なにいってるんだ、こどもか?」

「子供じゃねーよ」


 藍色の髪と真っ白な八重歯を見せた溌溂(はつらつ)な少女「フィーア」がスナイパーを肩に背負いながら俺の秘蔵品をまさぐっていた。


「おい、何してる。そこは俺のプライバシーゾーンだぞ!」

「コンラーのプライバシーはうちらのプライバシーだ!」

「何言ってやがる、少女の君には見せられないものがあるの!」


 ちなみに外装がタバコのような形をしたソレは未だ使っていない。

 というか、使えない。

 この施設、なんか大きな声を出せないことになってる。

 理由はよく分からない。


 発明品第4号がなにやら布切れを取り出す。


「あっ! なにこれ! 女の?!」

「それは俺の下着」

「なーんだ、きったね」

「おい、汚物扱いすんじゃねぇ」


 首根っこをつかみ、収穫するかのように引き抜く。

 「やーめーてー」と可愛げに悲鳴を上げるが、パンツはその手にしっかりと握られていた。


「それ俺の一張羅だから」

「じゃあうちのものね!」

「しょうがねえ、今回だけだからな。次やったら罰金な」

「へーい」


 俺の秘蔵地から遠ざけたとこで、胸元に挟まっていた一通の手紙を取る。


「いやーん、コンラーのえっち」

「バカ言うな、胸が育ってから言え」


 アンドロイドなので育つはずがないのだが。


 手紙には演習の予定が書かれていた。

 差出人は、「アイン」9番目の発明品だ。


「なあ、アインなんか他に言ってなかったか?」

「んー、コンラーと一緒に射撃訓練がしたいって言ってたきがする」

「やべ、テトラを送り込んじまった」

「なにしてんだぁ」


 俺はさっきの金髪のお姉さんを思い出し、


「エマさぁーん!!」


 届くはずのない大声を出して、隣の研究員に怒られた。


☆☆☆


「むっすー」

「ごめんって」

「そうよ、ボスだって謝ってるじゃない」

「お前はややこしくなるから引っ込んでろ」


 平謝りするのをよそに、腰に二丁のサブマシンガンを装備したショートカットの黒髪美人が、


「べつにいいですよ、アイが言ってるのは、誠意を見せてくださいってことです!」

「誠意って、なにすればいいんですか……?」

「えー? そうだなぁー。どんなことでもいいんですかぁ?」

「急にデレデレするじゃん」


 やっぱアインはツンデレなのだろうか。


 悩んでいるので俺はロッカーからスナイパーを取り出して、フィーアの隣に位置して、発射態勢をとる。


「コンラー、勝負ね。先にあの飛翔体を打ち落とせたら勝ち、よーいドンッ!」

「ちょま……っ!!」


 言い終わる前にソレを模した物体を打ち落とした。


「すげー、さすがはうちのエースだ」

「えへへ」

「ぼすぼす、私のも見てて」


 銀色の髪の試作一号機テトラがアサルトライフルを装備して、奥行き200メートルもある対象を連続斉射で4枚ともなぎ倒す。

 直後に「えっへん」と声と共に自慢げに自慢してきたので俺は拍手で、


「テトラは射撃の達人だな」

「だしょー」


 この二人は実戦投入でも上手くやっていけそうだ。

 それに比べて……


「あっ、じゃあ、今夜アイと一緒に寝てください!」


 聞こえなかったふり。


「い、いやー。フィーアもテトラもうまくなってきたなー」

「ほめてほめて」

「とてもすごいと思うヨ、」

「おーい、聞こえてますー?」

「これならもっと重い装備も行けると思うナ」


「おい」

「ハイ」


 指詰められそうになったので首を縦に振る。


「アインさんとならいつでも寝ていいです。いいから銃突きつけるのやめて」

「じゃあ今日一緒にお風呂も入りましょう」

「それはちょっと……」

「ア?」

「全然大丈夫です。いつでも入りましょう」


 うんうん、と笑顔で頷きようやく銃をしまう。

 これが脅迫ですか。



 アインの重い愛(?)が一段落したところで、俺はみんなを集めた。


 なんか水臭いな、と思いながら、


「みんな、今の生活に満足しているか?」

「してるー!」


 テトラが大声を出す。


「じゃあ、なんでここにいるか分かるか?」

「しらない!」

「だよな。今日は課外授業と題して、君たちの存在意義について話そうと思う」


「そんざいいぎ?」


 フィーアがこてん、と首をかしげる。


「存在意義ってのはお前たちがなんで生まれたかっていう意味だ」

「そんなのボスの作りたいものを作っただけでしょ」

「いやまあ、そうなんだけど……」


 頭を掻きながらどう言っていいか考える。


「この世界はちょっとおかしい」


 イマイチ変な導入だった。


 彼女らが首を傾げ、何か言おうとするが、制止する。


「どれくらいかっていうと、人が互いに信用できなくなっているんだ」

「それって、なにがわるいの」

「信用できないと、食べ物も食べられないし、お喋りなんてめったにできなくなるんだ」


 だから、内・外向的思考を持たないアンドロイドという機械を求めた。


「だけど、そんなのいやだろ?」

「うん」

「だから俺はお前たちに考える力を持たせた。楽しく生きて欲しいから」

「でも、それって人間と同じになるんじゃないですか」

「確かにそうだ。だけど君たちは人間と同じ未来を辿ってほしくない」


 18年前、太陽系に一つの生命体が不時着した。およそ、人間語には形容しがたい物体で、形容詞を全て組み合わせると、グロくてベチャベチャしていてカサカサ音を立てて動き回って全身が何らかの粘液でできた虫のような人のような、海中生物ともとれる生命だ。

 そんな気持ちの悪い物体は長らく気持ち悪いという理由で放置されていた。


 俺たちが向かう任務は彼らを掃討するものだ。

 でも、娘たちがそんな嫌な思いをしながら生きるのはやめて欲しい。


 だから……


「だから、逃げたいと思ったらすぐ逃げろ」



 僕の娘たちは目を輝かせて、頷いた。



☆☆☆


 さて、そんな水臭い会話からもう3か月ほどの時が流れて、実地投入の準備に追われる日々が始まっていた。

 もうこの頃になると、彼女らの精神も成熟してきて、ある程度の上下関係は覚えたし、詳しい指示も通るようになってきた。


 と、言うことで作戦本部は俺たちを投入研修と言う形で、現在攻防が続いている木星に向かわせる決断を下した。



「――なあ、コンラー。敵ってどんなのなんだ?」


 その、研修地に向かう宇宙戦艦のラウンジでミルク片手に聞いた。


「敵って言っても、気持ちの悪い、としか表現できないぞ」


 うねうねしていて、人型だが、触手攻撃もしてくるし、最近では飛行する変異型も登場したとかなんとか。

 とにかく、気持ち悪い。


「つまり、キモいやつを徹底的に撃てばいいだけってことか」

「うん、まあそうだね」


 今は、そのぐらいの認識でいいだろう。


「ボス、機関長から電文です」

「ありがとう」


 標準的な女性用軍服に身を包んだアインは売っていてもおかしくないほどきれいに仕上がっていた。


「アイン、テトラを連れて来てくれ。多分食堂にいるはずだ」

「はい」


 トンボ返りさせて申し訳ないが、一番優秀なのはアインなのだ。


 指令は11時方向に敵を発見したから遊撃せよとのこと。

 今回は、停止中の友軍の補給船団の護衛任務である。

 また、航空支援はあるものの、地上降下戦力は電導銃士分小隊一つだけとした。


 優勢に傾いている情勢で補給をたったの4人に任せるとかどんな気狂いが上にいるのやら……。


「ボス、連れてきました」


 アインが両頬をパンパンに膨らませながら食べ物を溜め込んでいるテトラを連れてきた。


「おい、そんなに食っても胸はデカくならないからな」

「ふぉんなこといわんでよぉ」

「もっと小さくされたくないならさっさと飲み込め」


 頬を押し込みながら咀嚼し、ものの2秒ほどで胃に流し込んだ。


 カンカンカン、とけたたましい警報が響き渡ると艦内放送がかかり、


『対地戦闘用意、繰り返す対地戦闘用意』


 突如、エアーロック越しからも届くほどの船員たちの必死の階段の駆け上がりが聞こえた。


「俺たちも行くか」

「おー」


 俺たちはメインシャフトに通じるドアを通り、艦底(かんてい)付近の備品室に入る。


「ボス、今回って揚陸艇は出るんですか?」

「いや、そもそも木星がガス状の惑星だし、人類が作った足場も奴らに乗っ取られたままだ」

「じゃあ、空中戦ってことですか」

「そういうこと」


 強襲降下装備に着替える。

 これが中々に面倒で、浮遊するためのプロペラを足とふくらはぎに装着するのだが、とても重い。

 それに、生命維持装置が背中に乗っかるので、まともに立てなくなる。


「これは飛行しながら戦う羽目になるぞ」

「厳しいたたかいだ」


 もっともらしくフィーアがつぶやく。


 2分ほどして、装備が完了した。


「よし、行くぞ。銃は持ったな?」

「「「はーい」」」


 エアーハッチのボタンを押す。


 俺たちは、吸い出されるように暗闇の中に放り出された。


☆☆☆


 宇宙って言うのは文章にあるとおり、ちょー危険である。

 そのなかで遊ぶ、なんてもってのほか。自殺行為にも等しい。


 そう、死ぬようなものなのだ……


「ヒャッホー! なんだこれ、水の中みたいにチョー浮くんだけど!!」

「めっちゃおもしろーい!!」


 うちのバカ筆頭とアホ筆頭が遊んでいた。


「おい、死にたくなかったらちゃんと訓練通り動けよ」

「わかってる、わかってるってぇ~!!」


 絶対分かってない。


 すると、アインが自分の銃を取り出して、遠慮なしに打ち込み始めた。


「――ちょいちょいちょい――!」


 ダダダダッという音というか振動音が通話回線を通じて伝わった。


「ボス、二人が死んだら一緒に帰りましょ?」

「なにそれ怖い」


 骨の髄が凍死するような感覚で言わないで欲しい。


「コンラー、分かったうち、ちゃんとする。死にたくない」

「ボス、私もちゃんとやるます」

「どうした二人とも、急にやる気出しやがって」


 アインが強かった。



 ――さて、おふざけはここまでにして、敵の方向を見る。


「すでに、艦隊は攻撃開始している、と。そして――」

「結構押されています」

「まずいじゃねーか」


 どっかの誰かが時間喰ったからだろ。


「とっとりあえず、フィーアは距離3000から精密狙撃を開始、俺たちは中距離から撃ちに行くぞ……っ!」

「りょーかい」


 三角陣を組み、俺たちは艦隊の下側面に位置した。


「敵視認っ!」

「総員、射撃開始!」

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