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*3  



 無抵抗の詩音に、掴み掛かろうとしていた衛兵も、一斉にその声に目をやった。

「シオン……遅れて済まない」

 少しだけ汗ばんだ男が詩音に歩み寄る。容貌は淡い金髪で瞳は紫。スラリとした美しい男性だった。

「な……何者ですの!?」

 その男が何者か分からないのか、婚約者の令嬢は睨んだ。国の一大事だというのに、要らぬ口を挟んできたのだから。

「公爵家の令嬢が……私の顔も分からないとは……笑わせる」

「なんですって!?」

 男にバカにされて、噛みつかんばかりに睨む令嬢。そんな令嬢を小バカにした様に、男の脇から他国の男が二人出てきた。

「このお方は、バルセーナ王国が王子……アルタール様であらせられる!! 態度を改められよ!!」

 と男がわざとらしく、声を張り上げ皆に聞こえる様に言った。正装こそしてはいるが、がたいの良さから兵士だろうことが推測出来た。



「バルセーナのアルタールが何故に……この国に……」

 国王が瞠目していた。色々あり過ぎて頭が追い付かないのだ。

「もちろん、シオンを迎えに……ですよ……国王陛下」

 と形式的に一礼してみせた。

「ど……どういう事だ」

 話が分からず困惑する国王。詩音をなぜ隣の国の王子が迎えに来るのだと。

「以前、そこの王子の誕生祭にお祝いに来た時、シオンに会って……色々と事情を聞いたのでね?」

 アルタール王子は思わせ振りに微笑んだ。そう、詩音はもしものために保険をかけていたのだ。

 聖女として役目を終えた時、厄介者として最悪処分されるかもしれなかったから。だから、祝賀パーティをしている時に迎えに来て欲しいと。

 ただ、代償はある。助けてくれたら"聖女"として、バルセーナ国の瘴気の浄化を手伝うという約束。

 そう……瘴気に溢れているのはこのダインダースだけではないのだ。アルタール王子はその条件をのみ、こうして助けに来てくれたという訳である。



「……読んだようなタイミングじゃない?」

 それにしては、タイミングが絶妙だと詩音は笑った。とはいえ心底ホッとしていたのだ。いくら保険としてアルタール王子に助けを求めたとしても、来てくれる保証は何処にもないのだ。ある意味"賭"だった。

「悪い……聖石を割るとどうなるのか……興味が……」

 ハハハと苦笑いしたアルタール王子。大分前からいた……と言う事だ。そして瘴気が放出するかもしれないその行為を、止めもせず見ていたと言う。

 他国の事なので、どうでもいいと言うのなら、彼もイイ性格をしている。

「イイ性格しているわね?」

 思わず言わずにはいられなかった。普通止めるだろう。

「俺の国の事じゃないし。シオンを傷つけた代償は必要だろ?」

 アルタール王子はウインクした。詩音の正当な怒りを、止めるすべは自分にはないと言いたいらしい。

「アルタール王子……」

 そんなやり取りを1人の兵が止めた。そして、アルタール王子に何かを耳打ちした。あまりここに長居すると、魔物が多くなり自国に戻るのが難航する……と。



「では、シオン。そろそろ行こう」

 それを聞いたアルタール王子は、詩音の手をダンスを踊るかの様に、優雅にとる。

「ど……どこに……行くのだ!」

 今まで黙って見ていたこの国の王子カイルが、今さらながら口を開いた。

「アルタールの国、バルセーナよ」

 とチラリとだけ見て微笑むと、アルタール王子の手をとった。

「な……なぜ!?」

 理解したくないのか、出来ないのか声を上げた。

「だってこの国にいたら、何されるか分からないじゃない」

 詩音は心の底から呆れていた。自分を捕らえようとしたこの国に、留まるバカはいないだろうと。

「…………っ」

 さすがのカイル王子も絶句した。何もしないとは、もはや言えない状況が起きていたからだ。



「こ……この国は……どうなるのだ!!」

 この場を去ろうとする詩音の背に、誰かが言った。瘴気を放たれた上に聖女まで失い、この先どうなるのか危惧したのだろう。

「しらな~い」

 詩音は片手をヒラヒラと振った。自分を見捨てた国の事など知らない。むしろナゼ助けなければならないのか。

「そんな……瘴気を放っておいてか!!」

 また誰かが叫ぶ様に言った。

「元に戻しただけ、私が放った訳じゃないわよ」

 酷い言いがかりである。そして、この状況でも、まだ詩音の方が悪いと思うその神経に呆れきっていた。

「そんな事より、ボケッとしてていいの? 魔物が出始めると思うけど?」

 と外を指す。瘴気が元に戻り蔓延したため、雲は紫がかり始め、遠方では瘴気特有の紫色の霧が見えていた。いつまた魔物が出て来てもおかしくない状況である。



「……なっ……しっ失礼する!!」

「わ……わたくしも!!」

 状況を真っ先に理解した貴族達は、国王陛下達を無視し会場を足早に去っていく。魔物がいなくなっていたので、金の掛かる警護兵を解雇したばかりだったからだ。

 屋敷に残した家族、あるいは領地の平民を思って慌てて立ち去ったのであった。




 ***




 聖女がいなくなり、国王がした事が明るみになると、ダインダース国は次第に廃れていった。そして……数年後、ダインダース国は滅んだのである。



 いや……正確には国が滅んだのではなく、ダインダースという名の国がなくなったのだ。



 詩音がいなくなり、瘴気に苦しんだダインダースは隣国、バルセーナにいる"聖女"詩音に助けを求めた。

 図々しい要求に詩音とアルタール王子は、国王に1つの代償を求める事にした。助ける代わりにバルセーナ国の支配下になる事を、要求したのである。もちろん、そんな代償を国王や貴族達は頷けなかった。だが、反発してみたものの、疲弊しきった国にもはや余力はなく、要求をのむしかなかったのだ。



 そして、ダインダース国はバルセーナ国に統合され、領地の名前こそ残るが国は滅んだのである。



 詩音を裏切った王家は滅び、貴族達はその大半がお家取り潰しとなったのだった。ダインダースの王家、貴族達は1市民として静かに暮らす姿があったといわれているが……さだかではない。



 一方詩音は、自分を助けてくれたアルタール王子達と共に、バルセーナ国、ダインダース国の瘴気を浄化する旅に出た。1度は浄化したダインダース国は、思いの外簡単に浄化でき、10年はかかるだろうと考えていた2つの国を、たった数年で浄化させる事に成功したのだ。

 そして、寝食を共にしたアルタール王子と結婚し、統合されたバルセーナの初代王妃になったのである。


 初めは同情から始まったアルタール王子も、一緒に旅をして詩音と過ごす内に、同情が恋情……そして愛情に変わっていき、プロポーズしたのだ。詩音は、嘘偽りのない彼の心を信じそれを受けた。



 それから……バルセーナ国には、いつまでも仲睦まじい国王夫妻の姿があったという。アルタール国王は、詩音をこよなく愛し、国民もまた瘴気から救ってくれた詩音を、慈しみ大切にしてくれた。

 瘴気の無くなったバルセーナ国は、賢王と呼ばれたアルタールと、慈愛に満ちた詩音により、世界で一番繁栄した国となったのである。



 





 **Fin**





 お読み下さりありがとうございました。

 もしよければ、連載中の

【聖女じゃなかったので、王宮でのんびりごはんを作ることにしました】も是非一度見に来てくれると嬉しいです。ヾ(・◇・)ノ♪

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