更なる受難
ハーレム。
1人の男性に複数の女性が群がる様。
その創作内での需要は非常に高い。
一口にハーレムと言っても様々なの系統や形態を持っている。
優柔不断な主人公のハーレムを基調とし、特定の相手がいる上でのハーレムや、女子だけの環境に男が1人と言うハーレム、メンバー同士で殺し合うハーレムなんかもある
才斗もハーレム物が好きだ。
可愛い女の子達に囲まれた主人公がチートを使って更なるチートを持つ敵をご都合主義で倒していく。
そんな熱く、甘酸っぱく、笑えて、泣ける、そしてちょっとエッチな要素がある、そんなこの世に溢れかえっている作品が才斗は嫌いではない。
まぁ「また鈍感で難聴な主人公か」とか「こいつのどこがいいの?」等思う所はあるのだが、才斗の持論として、それは大抵主人公ではなくヒロインに問題があるんじゃないかと思っている。
なにせ「好きです。付き合ってください」と言わずに思わせ振りな言動だけとって、その好意に気が付かないと不機嫌になられても男は困るだろう。
それに例えいい雰囲気になってキスや告白をしようとして、そのタイミングに何らかの邪魔が入ったとしても、また後日すぐやりなおしたらいいじゃないか?とも思う。
そんな話を悪魔のゲーマー女性陣に話したら。
「ほんまプライドは女心のおの字も分かってへんな」
「さいとん一生童貞」
「あっ、あたしは別にムードとかなくてもおkよ?」
「お姉ちゃんそれは女としてやばいっす」
と言われたのだが今それはあまり関係ない。
つまり何がいいたいのかというと。
「きゃああ!楠君助けてええ!」
「ちょっ!楠君何とかしてよ!」
「痛い痛い痛い!マジで痛い!締まってる!そんな締め付けられると息できないから!なんならそのまま気絶か死亡しちゃう勢いだから!」
抱きかかえている少女達に首をすごい力で締め付けられるハーレムはヒロインが悪いと言う事だろう。
才斗は現在は8階層でダークミノタウロス3体と戦闘中である。
しかも才斗には珍しくかなり苦戦をしていた。
「くっそおおおお!普通こういう体制の時ってヒロインの胸の感触を味わいながら戦うのがお約束だよな!?痛みと苦しみでまったく味わえねぇよちくしょおお!」
自分の3倍以上のSTRを持つ少女達から強すぎる締め付けを食らっているからだ。
事の発端は30分程前に遡る。
「いいか?お前達を護衛する上で幾つか守って欲しい事がある」
「なっ、何かな?出来る範囲なら何でもするよ!」
「そうね……一応聞こうかしら」
「歩くときはオレの手を繋いでもらう」
「「………………」」
「いや待て!言いたい事は分かるからそんな冷たい目で見ないでくれ!」
歌羽達を守りながら9階層の最奥まで一緒に行く事になった才斗はそんな事を言った。
才斗の性格を多少理解している歌羽と灯からは、自分の強さを使ったセクハラを慣行してきたのだと思われ、酔っ払いが電車で巻き散らかした吐しゃ物を見るような目で見られるが、才斗は負けない。
「楠君セクハラはその……ダメだよ?」
「本当に見下げ果てた奴ねキモい」
「ちょ、本当に違う!セクハラをするならもっと派手にやるわ!このオレが手を繋ぐくらいで満足、手を繋げる……手を……満足するわけないだろうが!オホン!オレはあの伝説のプライド様の次に強い自信はあるが、オレ達みたいな真の天才は凡人を切り捨てる考えで今まで生きてきたから、その凡人を守る戦いに慣れてないんだ。もしも戦闘になったらお前達を抱えながら戦う。確かにかなりだるいが、スキルが使えない時に離れたところにいるお前達が突然現れたモンスターに襲われたら、流石に助けれないからな。そしてそれを迅速に行う為には手を繋ぐ必要がある!分かったか?分かるよな?お願いします!」
「「……お、おう……」」
少し釈然としない部分もあるが、そんな事態になって一番困るのは歌羽達だし、才斗が必死すぎたので流される形で了承した。
(きたあああ!本当にそっちの方が事故の確率が減るとは言えこれはデカい!出来ればヒロインの方からおっかなびっくり手を繋いでもいいですか?みたいな方が萌えるんだが仕方ない。さっ、ついにこれで俺もちゃんとした美少女と手を繋げる!戦闘になればハグまでいける!女の子の体の感触を楽しめる!やっふぅぅぅぅう!)
そう思ってたいた時期が才斗にもあった。
「ちょっ!ミキッって言ったぞ今!?体からなっちゃいけない音がなっちゃってるから!確かにしっかりつかまっとけよ?って言ったけど絞め殺せとは言ってないから!」
才斗に抱き着いている歌羽達は、目の前で巨大なモンスターの当たれば即死が確定してしまうだろう攻撃が自分達のすぐ横を通るという凄まじい臨場感を味わっている為、必死でしがみついているのだ。
ゲームであるMGOと現実であるMBOには多少のズレがある。
その1つはステータス値が現実に与える影響。
ステータス値と言うのはHPやSTRなどのキャラクター情報である。
これらはゲームをする上で非常に大きい意味をもつ数字であり、唯一才斗に欠落している数字だ。
その数値は攻撃力や生存力に直接関係している。
勿論才斗もMGOでは極限までその数値を上げていたのだが、今は違う。
最底辺からのスタートをしているし、その伸び幅も凡人のそれだ。
一度ステータス値をバグらせようと思った事もあるがそれもできなかった。
そんな自分に圧倒的に足りない能力がもし言葉通りの意味の力を発揮するのであればそれは相当厳しい。
例えば敏捷を指すAGRを限界まで高めれば光の速度で行動できる。
となってしまった場合、0、01秒以下の視認不可な発生速度を誇るフラッシュキャストでもスキルそのものを速く出来る訳では無い為比較にならないチートになってしまう。
そんなチートは流石の神も許さなかったらしく、ダメージ計算以外の現実での影響は戦闘では関係ないが生活するのにはやや便利くらいに抑えられいる。
それは他のプレイヤーを見たり自分のレベルアップの前後で何となく分かった。
例えばAGRはスキルのモーションスピードが上がるわけはなく、歩いたり走ったりする速度がやや速くなる程度で、戦闘では多少便利に働くがそこまでではない。
そして筋力を指すSTRでは現実に力が強くなる。
男だろうが女だろうがステータス通りの力を発揮してしまう為、二重職業者である少女達と才斗ではそのままの意味で力関係が逆転しているのだ。
もし女性に大の男が二人掛りで本気で締め付けたら死んでしまうだろう。
幸いな事に彼女達の締め付けは攻撃ではなく日常行動という事にシステム上処理されているらしくダメージは入らないのだが、痛みや苦しみはそのまま残る様だ。
そんな死んでも可笑しくない痛みの中、歌羽の豊満な感触や灯のスレンダーながらも柔らかい感触を味わうのは流石の才斗にも出来なかったらしい。
まぁそんな痛みに耐えながらしっかりとモンスターを完封している点は流石と言わざる得ないのだが。
ドバアアアアアン!サラサラサラ
「すごい!すごいよ楠君!流石だね!」
「本当に凄まじいわね」
「もうオレに抱き着かないでくれ……」
「酷い!言われなくても、もうしないよ!」
「最低ねこの男!自分で言ったくせに」
「仕方ないだろ!お前等に分かるか?見た目が超可愛いと思ってたら実はその娘がゴリラだった時の気持ちが!」
「「ゴリラ!?」」
最後のダークミノタウロスを一斉砲撃で消し飛ばしモンスター達を全滅させた才斗はげんなりしながらそんな事を言うと、少女達は恐らく自分達とは一生縁がないであろう罵倒を受け憤慨している。
「もう嫌だあああ!何でだ!?何でこの世界はとことんオレに厳しいんだ?陰謀か?女神の呪いのせいなのか!?折角登場したメインヒロインに抱き着かれてるのに、ガチで窒息死の苦痛味わうとかそれ何てエロゲだよ!?」
「灯ちゃんまた楠君が……」
「放っておきなさいそういう病気なのよ彼は」
そんなお喋りは洞窟内に反響する叫び声で中断された。
『キャアアアアアアアア!』
「「「!?」」」
才斗はその声に一気に緊張を高め少女達の腰にサッと手を回し、歌羽達はその事に一瞬ドキッとしたが、戦闘になるであろう事を察してさっきより幾分か弱い力で才斗を抱きしめる。
しかし全員の思惑は外れる事になる。
その叫び声の主であろう4人のプレイヤー達が全速力で走って来たのだが、何かに追われている様には全く見えなかったからだ。
それどころかそのプレイヤー達には目立った怪我すらない。
「おっ、おいあんた達、なんでそんなに慌ててるんだ?」
「は?いきなり何を気安く私達に誰だと思って…………プッ、プライド様!?」
「え?」
「もももも申し訳ございません!私の様な底辺がプライド様に無礼な事を!」
「ちょ!?おま!?急にどうしたんだ?え?なんで全員土下座してんの?」
そしてそのプレイヤー達は才斗に声を掛けられ、才斗の容姿と声を一瞬でプライドだと識別すると、あろう事か一瞬でひれ伏す様に土下座を慣行した。
あまりの事に流石の才斗も困惑し、歌羽達など呆気にとられ固まっている。
「私達の様なゴミ如きの顔でプライド様のお目を汚すわけには参りませんので!」
「すまん、意味が分からない。取り合えずあんただけでもいいから顔を上げてくれ。というか立ってくれ。そのまま会話するのは流石のオレでも気が引ける」
「はい!プライド様の気分を害した軽挙妄動、大変申し訳ございませんでした!」
いきなり土下座を慣行した4人のプレイヤーは全員女性であり、少しかみ合ってないものの唯一会話をしている女性は恐れ多いと思っていながらも才斗の言葉に従いすぐさま立つと大袈裟過ぎる謝罪を口にした。
他の女性は謝る事すら自分達にはおこがましいと思っているのか土下座の姿勢のまま小刻みに震えている。
「えっと、何があったかを聞こうとしただけなんだけど、それより気になる事が出来たからそっちをまず聞こうか。あんた達は何者だ?何でオレにそんな態度をとる?」
「わ、私とした事が申し遅れて大変申し訳ございませんでした!私達は『傲慢の箱庭』と言うプライド様を崇拝する事を目的としたクランの者でして、私はその中で四天王を務めている『アスタルテ』と申します!私達がプライド様を崇拝している理由はそれこそ無限に存在しますがあえて挙げるのであればその『神の如き強さ』と『神の如き振る舞い』でございます!プライド様はその圧倒的なまでの実力で奇跡すら可能とし、そのお言葉は全て正しく、そのなさる事は凡人の理解が及ばない!まさしく神でございます!」
アスタルテと名乗る女性は赤茶色の髪を胸まで伸ばし、端正な顔立ちをした20代前半と言った美女だった。
しかし才斗に対して神を連呼する顔はまるで危ない薬を大量にキメた狂信者の様でその美貌を完全に台無しにしている。
「『傲慢の箱庭』ってあの『傲慢の箱庭』!?」
「灯ちゃん何そのプライドガーデン?て?」
歌羽はどうも二重職業者であるにもかかわらずゲームに疎いらしく、その愛くるしい顔に疑問符を浮かべている。プライドと言う名前を聞いてもさっぱりと言った様子だ。
灯はと言うとそのクランの名前を聞いて戦慄し、その驚くほどに美しく整った顔を歪める。
「歌羽の物の知らなさは異常ね。いい?『傲慢の箱庭』って言うのはMGOで100人ていう少人数にも関らず3大最強クランの1角に数えられる集団よ。その全員が1億にいる人口のほんの一握りの最上位層1000人のプレイヤーで、尚且つプライドっていう最強のゲーマーを狂った様に崇拝しているプレイヤーで構成されているっていうプレイヤーの中では伝説みたいなクランなの」
「へっ、へ~。それって凄い?よね?」
「いえその様な大した物ではございません神子様」
「「神子!?」」
そんな凄いと思しき女性からの突然の神子扱いに歌羽達は声を揃えて驚く。
ついさっき目の前の人間が崇めている少年からゴリラ扱いを受けたのだが……。
「えぇ神子様でございます!プライド様の隣に立つ事が許されたのはプライド様に及ばないものの途方もない力を有したあの方々しかいないと思っていましたので、その様にプライド様に選ばれ寵愛を受けているあなた方はまさしく神子様に該当するお方です!」
そう言われて自分達が才斗に腰に手を回され、自分達もまた彼に抱き着いている状態に気が付くと、ほんの少し顔を赤くしその場から慌てて飛びのく。
「それをもっと顔を赤くして言い訳しながらやってくれれば満点をあげれたんだが」
「そんなツンデレみたいな事しないわよ!」
「え?秋峰ってツンデレじゃないのか?」
「人に二次元属性をつけないでくれるかしら!?」
「え?灯ちゃんちがったの?」
「歌羽!?」
そんな気安いやり取りを見て「何と……神子様ではなく女神様でございましたか」と呟いてるアスタルテに、才斗はこのままでは収拾がつかないと思い脱線した話を元に戻す事にした。
「それでアスタルテさんに聞きたいんだけど」
「プライド様、お心遣いは恐悦至極なのですが、どうかその様な凡人の真似事などせずにお心のまま振舞ってくださいませ。でなければ私は神を汚した大罪人になってしまいます」
(この人めんどくせえええ!)
どうやら才斗の年上っぽいし初対面だし美人だからやっておこうと思った出来る限りの丁寧語は、狂信者のアスタルテからしたら我慢のならない事らしい。
「あっそ。んじゃ簡潔に脱線せずに答えろよ?お前ら如き低PSの雑魚ナメクジが、オレの時間を余計な事を喋って減らすのは許されないからな。で何があった?お前達は一応最上位層プレイヤーの二重職業者なんだろ?どうしてそんな血相変えて走って来たんだ?まさかあんなステータスだけのモンスターにビビったわけじゃなよな?」
そう。才斗の様な事は無理でも、最上位層程のプレイヤーが4人も集まっているならば、ステータスが幾ら離れていても丁寧に攻撃を全て避けながら時間を掛けて戦えばいくら遥か上層のモンスターでも問題無いはずなのだ。
「その通りでございますプライド様。そして訂正さしていただくならば私達は二重職業者ではなく三重職業者でございます。故にあの程度のモンスターに後れを取る事は決してありません」
「三重職業者か、まぁそんなチートも予想してたよ。んで?」
二重職業者があって四重職業者があるなら三重職業者があるのも別に驚く事もないと言った様子で才斗は続きを促す。
「はい。私達4人は各々がPTを組まず4人が相互に護衛をする事で3つのレア職業を狙っていたのですが、運が悪い事に30体のダークミノタウロスと50体のダークトロールの軍団に囲まれてしまい、死を覚悟しました」
「ほうまぁ確かに流石にその数はちょっと厳しいわな」
「しかしそこに奴が現れました」
「奴?」
「伝説級モンスター『夜叉』」
「「「!?」」」
その夜叉と言う単語に才斗達一行は絶句する。
「灯ちゃん夜叉ってあの夜叉?」
「あの夜叉でしょうね……そんな化け物が何でこんなところに……異常すぎるわ」
ゲーマー事情に疎い歌羽でも流石に夜叉の存在は知っている様でガタガタと震えている。
「それでその夜叉がどうしたんだ?まさか倒したのか?」
「はい……倒したました。夜叉が80体全て」
「……は?意味が分からん同士討ちって事か?」
「そんな生易しい物ではございませんした。蹂躙、いえ蹂躙と言うには一瞬の出来事でした。夜叉は目で追えない速度の剣を振るい1瞬で全てのモンスターを斬り捨ててしまいましたから」
「ふざけんな!視認不可能の速度で同時に80体を倒す剣だと!?」
(おいおい……それじゃまるで……)
「フラッシュキャストとマルチスペルを使うモンスターがいるみたいじゃないか」
そんな小さな呟きは誰にも聞こえる事はなかった。
次回VS夜叉