表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第三話 痒い所に手が届かないダンジョン仕様

毎日投稿(1日1話とは言ってない)。

完全な読み切りカテゴリなんで扱いが色々雑です。

夥しい量の血溜まりの中心で、蓮は満足気な笑みを浮かべて立っていた。

その禍々しい光景に頭痛を感じながら、華は大部屋へと入るギリギリまで近寄っていく。


「ん? ……ああ」


部屋に入ろうとしない華に一瞬訝しげな表情を浮かべた蓮だったが、直ぐに納得したように頷き、木刀を振るった。

すると凄まじい衝撃が大部屋を駆け抜け、床に広がった血溜まりを壁際へと押し退ける。

血溜まりの中を歩きたくないという、華の心情を察しての行動だった。


「あ、ありがとな……」


一瞬で深紅に染まった壁を出来るだけ見ないようにしながら、華は連に対して礼を言う。ただそれでも、中々に衝撃的な光景だった為か、盛大に顔は引き攣っていた。

まあ、蓮は戦闘以外では大雑把な性格な為、華の表情など全く気にしていなかったが。


「んにゃ。別に礼を言われるような事でもねえよ。血液なんて何が仕込まれてるか分からんしな。触ろうとしないのは正解だ」

「その割には、お前は普通に血を浴びてなかったか?」

「氣を纏ってるんだよ。こうすると大抵の液体は弾けるようになる。まあ、合羽みたいなもんだ」

「お前本当に出鱈目だよな……」


事も無げに【氣】という概念を持ち出してきた蓮に、華は大きくため息を吐いた。だが、実際に軽く身震いしただけで、全ての血を落としてみせた姿を見るに、蓮の言ってる事は事実なのだろう。

一応、ダンジョン発生以降、魔法や氣功といった特殊技能は世界に広まりつつある。どうもダンジョン内では魔力や氣といった特殊な力が満ちており、資質のある者なら稀にその手の才能が開花する事があるようなのだ。

また、ダンジョン由来のアイテムには【スクロール】という物が存在する。これは一回きりの使い捨てではあるが、【スキル】と呼ばれる何らかの特殊能力を使用者に与えるとんでもない代物だ。

これらの要因によって、ファンタジー的な特殊技能者は、探索者を中心に着実に増えていっているのである。


「アタシだって一応氣は使えるけど、まだ全身に纏う事すら出来ないんだぞ。それでも、周りと比べりゃ十分進んでるっつーのに」


……とは言え、それ等はまだ発展途上の技術である。ダンジョンが発生してから、まだ五年も経っていないのだ。ダンジョンについての研究が進む事で漸く確認された特殊技能など、年数的に言えば生まれてから一・二年というレベル。発展途上という言葉すら過剰かもしれない。

蓮基準で言えば、漸く氣功の入門編に入った華であっても、世界的な基準で見ればかなりの使い手なのだ。蓮のような極一部の例外を除いた場合、入門編にすら辿り着いていない者しかいないのが現状だ。


「嘆かわしいよなぁオイ。氣功はモンスターと戦うなら必須技能だってのに。俺は使えないが、魔法だって似たようなもんだろ」

「無茶言うなアホ。魔力や氣なんて意味不明な力、そう簡単に扱えるようになるかってんだ」


やれやれとため息を吐く蓮の意見を、常識という観点から華は跳ね除ける。

特殊技能は、すべからく習得難易度が高いのだ。魔力や氣の資質が無ければそもそも習得する事は出来ず、仮に習得出来たとしても、教えてくれる師などいないので基本的に手探りで習練しなければならない。未知のエネルギーを扱う上でそれなのだから、色んな意味で致命的と言えるだろう。

ではスクロールならどうかと言う話になるのだが、アレはあくまで1つのスキルを与えるものだ。 【跳躍】や【鑑定】といった明らかな特殊能力の類なら兎も角、魔法や氣といった技術体系が見え隠れするものだと勝手が違ってくるのである。

例えば【水魔法:アクアランス】というスクロールがあるとする。そのスクロールを使用した場合、覚えられるのはアクアランスという魔法のみ。他の魔法の類は一切使えないし、習得者の魔力が足りなければ発動も出来ないという微妙な結果になる。謎の超感覚を備える蓮曰く、スクロールというのは肉体改造に近いそうで、魂的なサムシングに強制的その機能を植え付けているようなものらしい。

しかしながら、例外も存在する。それは【〜魔法:基礎】と呼ばれるスクロール群だ。これらのスクロールは他の【技系】と分類される魔法系スクロールと違い、魔法を行使する為に必要な最低限の知識と能力を与えるというもので、自らの修練の素質次第で発展させることが出来るのだ。また、基礎系のスキル所有者が同属性の技系スクロールを使用した場合、習得までの道程も漠然とではあるが理解できるという副次効果も存在している。なので現在は、スクロールで単発の魔法を覚えるよりも、基礎系のスキル所持者に技系のスクロールを与え、得られる知識を繋ぎ合わせ体系化させる為に使用するというのが主流となっている。知識を与えるスクロールの使い方としては、ある意味正しい使い方をしているのかもしれない。

……だが、これはあくまで国が掲げる方針であり、現場の探索者たちからすると事情が違ってくる。なにせスクロールを使えば、1種類であろうと手っ取り早く大技を覚えられるのだ。命懸けでダンジョンに潜っている探索者からすれば、例え使えない可能性があったとしてもスクロールは貴重な戦力増強手段。幾ら国が相手であっても、そう簡単に手放すことはない。

そんな訳で、何としてでも手に入れたい(その費用は抑えたい)政府と、絶対に手放したくない(値段次第では売っても良い)探索者たちによる交渉が激化しており、中々体系の確率が進んでいないというのが現状だったりする。


「そもそも、ちゃんとした魔法体系を確立させんのには、早くても十年近くは掛かるって言われてんだぞ。スクロールのある魔法でそれだ。未だスクロールの見つかってない氣なんて、下手すりゃ何十年単位だぞ」

「俺は八歳で氣は一通り使えたけどな」

「そりゃお前が規格外なだけだ! てかマジで、何でダンジョンが出来る前から特殊技能を扱えてんだよお前は!?」


サラリととんでもない事を言う蓮に、華は頭痛が悪化したような錯覚を覚える。

しかし、相手は蓮である。荒事に関する感性と能力は異常で、それ以外の面では大雑把かつマイペース。どう言い繕ってもダメ人間という評価に落ち着く相手の言動に、いちいち反応していては身がもたない。

落ち着けと心の中で唱え、大きく深呼吸をする事でなんとか華は冷静になった。


「……はぁ。色々と言いたい事はあるが、まあ良い。アタシが一番、蓮の力の恩恵を受けてる訳だし、どうこう言うのはお門違いだろうしな。宿儺の件に関しても、蓮が規格外だから倒せたって考えれば、悪い事じゃない」


蓮が原因で宿儺に挑む事になったという件から必死に目を逸らしながら、華はなんとか蓮の規格外さを肯定してみせる。

とは言え、華の言葉は客観的な事実でもある。華が蓮の戦闘力に依存しているというのは、単に蓮が戦闘、華がサポート件雑務と役割分担の結果なので一概にどうこう言えないが、宿儺に関して蓮以外が出会えば瞬殺されていたと断言出来るのだから。

蓮に戦闘を任せているとは言え、華とて数々の修羅場を潜ってきた探索者。蓮のような一部の例外を除いた場合、日本でも上位に入る戦闘力を持つ。そんな華だからこそ、宿儺の脅威を正確に分析出来ていた。

華の見立てでは、宿儺の強さは日本中の探索者を結集させても返り討ちに合うレベル。そもそもあの鬼神は、人間が挑むべき相手では無いというのが最終的な結論だ。

宿儺の簡単に説明すると、推定五メートルの巨躯で、局地的な地震を引き起こす剛力を持ち、その癖残像を生む程に素早く、達人と呼べる程度の技量を持った異形の鬼。

もうこれだけで、生身では話にならないというのが分かるだろう。もし宿儺が地上に出現した場合、自衛隊を総動員し、更に被害を気にせず兵器を使用して漸く対処出来るだろうと言った所か。

そんな怪物を大した被害も出さない内に討伐出来たのだから、掛け値なしに大手柄だろう。


「えーと、さっき会った奴らの話じゃ、死者は最低でも六人出てるんだよな……」

「あー、あの情報くれたパーティーか。一瞬で六人パーティーが全滅したのを遠くで見掛けて、全力で逃げてきたって言ってたな」

「あの時程、お前の性格を恨んだ事は無かったぞ」


華は先程の光景を思い出してしまい、再び頭が痛くなったきた。

あれは華と蓮が今日の探索を終え、ダンジョン内を瞬間移動出来る【転送陣】で帰宅しようとした時の事である。丁度この階層の転送陣を利用しようとした時、タイミング良く宿儺から逃げてきたパーティーと出会ったのだ。そのパーティーの尋常ならざる様子に華がどうしのかと問い掛け、内容を聞いて興味を持った蓮が、必死に止めるパーティーを無視して動き出してしまったのだ。


「あの時のバカを見る目と、同情の眼差しは正直かなり堪えた……」

「別に他人なんだから良いだろ、どう見られたって。それに犠牲者が少ないうちに倒せたんだから、普通に考えりゃ万々歳だろうが」

「……まあ、な。犠牲者が出てるし、良かったとは口が裂けても言えねえが……。それでも相手があの怪物って事を考えると、犠牲が少ないうちに倒せたのは、不幸中の幸いって奴か」

「もし宿儺が出たのが【浅層】の何処かだったら、阿鼻叫喚になってたろうしなぁ」

「うわぁ……」


蓮の語るifは、華からしてもゾッとしない話であった。

蓮の言う【浅層】とは、ダンジョンで最も人が多いエリアの事であり、初心者から中級者程度の実力の者が犇めくエリアである。

何故そうなっているのかと言うと、ダンジョンの仕組みが関係している。まず大前提として、ダンジョンは奥に進む程出てくるモンスターが強くなる。そして五階進むごとに【門番】と呼ばれるボスが現れ、そいつを倒さない限り次に進む事が出来ないのだ。これらの事から、ダンジョンは五階で一階層と区切られて考えられるようになったのである。……なので、ダンジョンにおける【階層】と【階】は違うものだったりする。探索者がダンジョンの階層などについて語る時、大体は【〜層〜階】という風に喋る。まあ、余談である。

で、そんなダンジョンの階層を、更にモンスターの強さから分類分けしたものが、【浅層】【中層】【深層】という考え方である。考案したのは、ダンジョン発生当初に突入した自衛隊だ。


【浅層】:ダンジョンによって差はあるが、大体一層〜三層ぐらいを指す。近接武器で対応可能な強さ。


【中層】:大体四層〜七層ぐらいを指す。安全に探索するには小火器が必要。


【深層】:大体八層以降を指す。重火器並の火力がなければ探索は困難。


とまあ、分かりやすく説明すると大体こんな感じである。

因みに深層の分類が若干曖昧なのは、そこまでが探索の限界であったからだ。公式では、被害状況と必要となる費用の問題から、自衛隊は八層以降の探索は断念したそうだ。

なので探索者の間では、戦略兵器が必要となる強さのモンスターが現れる、【超深層】が存在するのではと噂されている。……宿儺の強さを考えると、あながち間違いでは無いのではと華は考えていた。

さて、ここで話を戻そう。浅層に初心者から中級者が多い理由だが、単純に戦闘で小火器が要求されるレベルに耐えられないからである。逆に浅層ならば、そこまで危ない事をしなければ命の危険は無く、それでいてやり方次第ではそこそこ稼げるので、探索者の大半がメインの狩場にしているのだ。

そんなバイト感覚の学生や、趣味でダンジョンに潜るアマチュア探索者、中層に辿り着けない実力の専業探索者が大量にいる浅層に、推定超深層レベルの宿儺が現れたらどうなるのか。


「下手すりゃ、一日で浅層にいる探索者は狩り尽くされるな……」

「んで、危険性からこのダンジョンは閉鎖されてたかもしれん」

「有り得ない仮定にしても、縁起でも無いぞそれ……」


嫌な想像をしたと華はゲンナリするが、蓮は更にそこへ爆弾を投じた。


「いんや。案外有り得ない仮定じゃねえんだよこれ。宿儺は明らかに最近聞くようになった特殊個体だし、特殊が何するかは全く不明だ。モンスターは発生した階層から移動しないっていう原則はあるが、それすら無視してもおかしくなかった」

「はぁ!? ……いや、確かにそうか。なら、放っておけば浅層に向かう可能性もあったって事か?」

「ああ。あくまで仮定だがな」


蓮の言葉を聞き、華は身体が冷えていくのを感じた。

先程までも仮定の話をしていたが、今挙がった仮定はそれとは種類が違う。

先程までのは、事故の映像を見て、面白おかしくifのパターンを想像していたようなものだ。だが今挙がった仮定は、目の前で事故が起き、つい有り得ないifを想定してしまった感じに似ている。

蓮もまた、神妙な顔で華を見つめていた。


「だから、宿儺は絶対に見逃す訳にはいかなかった。被害を増やす前に、俺が倒さなきゃいけなかったんだ」

「いやそれは嘘だな。即行で戦いたかっただけだろうが」

「あ、バレた?」


無駄に格好つけた台詞を吐いた蓮を、華はジト目で睨みつけた。


「分かるに決まってんだろ。お前が他人の命を気にかけるタマかよ。ダンジョンは殺し合いの場なんだから、何が起きようが自己責任っていっつもお前言ってんじゃねえか」

「あー、そっかぁ。折角上手い具合に話を持ってけたと思ったんだが」

「んな変に誤魔化そうとしなくていいっての。単に起きもしないifを考えんのに飽きたんだろ? 小芝居挟むんじゃなくて直接言え直接」

「また男前だなぁ」


妙な関心をする蓮を見て、華は大きくため息を吐いた。

伊達にこのダメ人間とコンビを組んでいないのだ。蓮の意識が会話から他へと移っていた事など、最初から気付いていた。

戦闘時ならば兎も角、基本めんどくさがりで薄っぺらい性格をしている平時の蓮が相手なら、察しの良い華にある程度考えが読めるのである。


「んで、気分屋の蓮は次は何が気になってんだ?」

「いや、そろそろ宿儺が消えるかなと」

「ああ、なるほど」


ダンジョン内のモンスターは倒すと何故か塵になり、魔石と呼ばれる特殊な鉱石と、稀に魔石以外の何かを残すのである。

蓮はその予兆を感じとっていたようだ。

そしてそう言われると、華の方も気になってくる。


「蓮は何を残すと思うんだ? 」

「どうせ魔石だけだろ」

「まあそうか」


そんな風に予想にならない予想をしていると、宿儺の身体が一瞬輝き、塵になった。

そして、宿儺の死体があった場所には、拳大の黒い宝石と、真紅の液体の入った巨大な瓶が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] スクロールが成果物だけのショートカットで、下手に覚えるとそれはそれで影響があるのいいですね。 [気になる点] 宿儺が出たのって何階層なんでしょうか。 一般的な氣を使える人ってどのくらい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ