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そういえばオネエだけどイケメンだったね

「みなさんにとって、何か夢中になれるものを見つけてください。私達も、みなさんと送る高校生活を楽しみにしています。 これで、祝いの言葉を終わります」


 これは誰だ。

 紺色のブレザーをびしりと着こなして、ふわりと王子様スマイルを浮かべるイケメン。

 そこかしこできゃあきゃあとピンクのざわめきが起きているが、それを少しだけ困ったように笑いながら壇上から見下ろして……一瞬、目が合うと、柔らかく微笑まれた。私は引き攣った笑みしか浮かべられなくて、そっと目を逸らす。


 高校の入学式。


 肩に切りそろえた髪を優しく撫でて、高校の制服姿がとっても似合うよって笑ってくれたオネエなお兄ちゃんはそこにはいなかった。

 イケメンの生徒会長。うん。誰がどう見ても、リア充だ。女装趣味があるだなんて誰も予想出来ない、イケメンの中のイケメンがいた。

 私は目の現実が上手く処理できなくて、思考回路が焼き切れたまま……気付けば入学式はあっという間に終わって、ぞろぞろと列に続いてクラスへと移動していた。



 お父さんが再婚してから数週間。中学最後の春休みが終わって私は高校生になった。

 偶然と言うかなんというか、新しく家族になったお兄ちゃんと同じ高校だ。

 偶然、じゃないよね。特に将来の夢とかもまだ決まってなかった私は、お父さんが勧めるままの高校を受験した。つまり、新しい家族を紹介される前から、少しずつ外堀を埋められてたってことだ。

 思い返せば、仕事の同僚さんとか部下が結婚しただとか、再婚しただとか、そんな話題が増えていた気がする。


「ねえ、ここの生徒会長って超イケメンじゃなかった?」

「うんうん! 彼女とかいるのかな?」


 イケメンだけど女装趣味だよ。

 彼女はいないけど、そこらの女子より女子だよ。


 ホームルームが終わって、ざわめきの中から聞こえてきた声に心の中で言葉を返す。

 入学式の後は簡単な自己紹介と、必要事項の伝達を受けて、ずっしりと重たい教科書を貰う。

 古典一に古典二、現代社会に歴史の教科書……英語も二種類ある。なんでこんなに分類化されてるわけ?

 素直に全部持って帰る気にもなれなくて、一人一つ、クラスの一番後ろにロッカーを貰えている事だし、今日は全部置いて帰る事にする。

 私は引っ越してきたから中学が被ってる子は一人もいなくて、しかもなんとなく初日の話題に乗り遅れたというか、乗れなかったというか……残念な事に友だちは出来なかった。

 出来れば、乙女ゲーム友だちが欲しい。萌えを語り合いたい……慎重に探さないと。


 ぶっちゃけると、部活には入りたくない。だってゲームやイベントに参加する時間が減るから。

 友だちは欲しいけど、流行のファッションだとかドラマやらアイドルとか興味ないから分からない。

 オトモダチになりたいから、自分とは違い過ぎる人達に合わせてそれらに時間を割くっていうのも嫌だ。

かと言って、一人で過ごしたいわけでもないのだ。

 つまり適度に話せる大人しめのグループに所属出来れば良い……出来るかな。中学の時は美術部だったから、同じ部活の子と漫画の貸し借りとかから仲良くなって、お互いの押しキャラをそれとなく……とかあったけど。


「ま、なんとかなるか」


 深く考えても仕方ないと思考を切りかえる。

 家に帰ったらさっそく先週購入した乙女ゲームをしようと頭の中で家に帰ってからのスケジュールを組み立てながら鞄に手をかけて……クラスメイトに名前を呼ばれて顔を上げて、固まる。


「お、お兄ちゃん」


 どこからどうみてもリア充。

 爽やかイケメンがいた。


 何故、だとか、どうして、だとかいう疑問がぐるぐると頭の中を渦巻いて行く。

 ぱちぱちと瞬いてみるけれど、教室の出入口に困ったように笑って群がる女子の対応をしているイケメンは消えない。


「なあ、お前だよな? 呼ばれてんぞ?」

「あ、うん……ありがと」


 まだ名前を覚えていないクラスメイトにお礼を言って、けれどもそこに留まる。

 あの中に……入れと? 無理。死ぬ。


「あ~。イケメンの兄ちゃんだと大変だな。でもほら……早く行かないと、ずっとあのまんまだぜ?」


 生ぬるい眼差しを向けられて、曖昧に頷く。

 ギャルよりのたくましい肉食系女子に囲まれた兄は、それでもふんわりと王子様スマイルを浮かべて上手にあしらっている。

 誕生日や血液型、おまけに携帯のメールアドレスや番号なんかの質問攻めをさらりとかわして……そうして、私を見つけると柔らかく微笑んだ。


「ひっ」


 その笑みの先に、周囲の女子の視線が集まる。

 当然、その視線の先とは私だ。


「おお、すげ……怖え~」


 無責任にそんなことをぼそりと呟いて一歩下がった男子に、心の中で盛大な罵倒を送る。

 私だって他人事のように一歩下がりたい。

 それでも、そんなことは出来ない……私は私の命、つまり高校生活が惜しい。


「お兄ちゃん!」


 女子の視線には気付いてません!

 私は敵ではありません!

 彼女でもありません!

 妹! 妹です!


 そんな思いのもと、もう一度大きめの声でお兄ちゃんと呼んでお兄ちゃんを中心に群がる女子の輪に突撃して言った。




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