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小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
出題編
4/23

4.腹の探り合い(初日、日中)

 村長の壮絶なる死のどたばたも冷めやらぬ中、村人たちは後片付けに追い立てられ、ようやく区切りが付くと、時刻は丑の二の刻(午後一時半から午後二時まで)になっていた。やむを得ず、村人たちは屋敷の数多あまたある部屋に、それぞれ分かれて泊まることにした。精も魂も尽き果てた彼らは、そのまま深い眠りに落ちていった。

 翌朝になると、十一名は、さらに凄惨せいさんな光景を目の当たりにすることになる。村長の様態をずっと診て来た、鬼夜叉村で唯一の医者である久保川先生が、屋敷の中で遺体となって発見された。あろうことか、その遺体は血の気が全く失せていて、こげ茶色に干乾びていた。さらに、死の間際に受けた恐怖のためだろうか、顔面は粘土細工のようにいびつにゆがんでいた。尋常ならざる事態を察した村人たちは、ふたたび大部屋に集結して、今後の対策を検討することにした。

 そして、この瞬間に、十一人のプレーヤーによる、熾烈しれつなゲームの幕が切って落とされたのだった――。


高椿子爵「ゲームマスターから告げられた情報の確認を行いましょう。今回のゲームは参加者が十一名で、その中に吸血鬼は二名います。それから使徒が一人いて、村人側の特殊能力者は、天文家が一人、探偵が一人と、あとは片想いが一人ですね。残りの五人は何の能力も持たない無力な村人であります。我々はこの事実をもとに、これから推理を進めていくことになります」

小間使い葵子「ご主人さまの仰せの通りだとすれば、吸血鬼が行動を起こす夜がやってくる前に、わたくしたちは何か対抗策を講じなくてはなりません」

霊媒師鈴代「今、ここには村の衆がみなそろっておる。われらの手で、忌まわしき鬼どもに聖なる杭を打ち込んでやるのじゃ!」

令嬢琴音「お父さまをあやめた悪い鬼たちを退治しちゃうんね……」というと、少女はかわいらしい口もとに不気味な笑みを浮かべた。

執事大河内「ちょっと待ってくださいよ。処刑を執行するといっても、いったいどうやって、肝心の吸血鬼を見つけ出すのですか?」

行商人猫谷「たとえ、見つけ出すのが困難であっても、日が暮れるまでに、こん中の誰かを処刑しなければならねえ。吸血鬼が一旦行動を起こせば、九人の村人なんて、あっという間に全滅させちまうからな」

土方中尉「いずれにせよ処刑は全員の了承を得なければならない。これからの議論で、憎き吸血鬼をいぶり出すのだ!」

書生和弥「だけど、吸血鬼がみずから『僕は吸血鬼です』なんて告白するはずないし、誰かを吸血鬼と断定するなんて、実際、不可能じゃないかな?」

後家都夜子「おっしゃる通りですね。今のところ、わたしたちに吸血鬼を判断する明確な材料は、何もありません」

女将志乃「だったら、それを作り出すのよ! これからの話し合いでね」

行商人猫谷「ふふっ、こりゃあ面白い一日になりそうだな……」


 唐突に、白装束の霊媒師が烏帽子えぼしをかぶったこうべをあげたかと思うと、

霊媒師鈴代「つまらん話し合いなど無用じゃて……。わしにはわかっておる。邪悪の根源は――、ほうれ、そこにのうのうと居座っておる、そいつじゃ!」と叫び、ゆっくり指を動かした。

女将志乃「まさか……、和弥さんが?」

書生和弥「ちょっと待ってくださいよ。僕は、今日、この村に来たばかりですよ。鈴代さんとは、これまでに一度も面識はないし……、どうして僕が吸血鬼だなどと、いいかげんな発言ができるのですか?」

霊媒師鈴代「ええい、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ――! みなの衆、こやつの口車に乗ってはならぬ。未来を予知できるわしには、こやつの思うとることが手に取るように見えるのじゃ」

高椿子爵「まあまあ、お鈴さん。まだ、和弥君が吸血鬼である具体的な証拠は、何もありゃしません。あなたの霊視能力には敬意を表しますが、残念ながら、それは我々凡人には理解不能であります。我々にも納得できるような明確な証拠を、これからの話し合いで探していこうじゃないですか」

行商人猫谷「しかしなあ。話し合いといっても、何を議論するんだい。このままじゃあらちあかねえぞ。まさか、銘々が順番に自分の正体をここで白状しろとでもいうのかい?」

女将志乃「そうねえ、案外いい考えかもしれないわ。みんなが正直に自分の正体を暴露するのよ」

執事大河内「そんな無茶な……。失礼ながら、わたくしめには、吸血鬼が自分の正体を正直に告白するとはとても思えません。きっと、彼らはみずからの正体を隠し、嘘を吐くことでしょう」

女将志乃「いいじゃない。望むところよ。仮に吸血鬼が『わたしは天文家である』などと嘘の告白をしたとするわよね。でも、あたしたちの中には本物の天文家もいるのよ。当然、彼も自分が天文家であると主張するから、天文家がふたり現れることになるわ。そしたら、その後の供述でどちらが本物なのかは、すぐにわかっちゃうから、結果的に吸血鬼を引きずり出せるというわけよ」

高椿子爵「ちょっと待ってください。志乃さん、あなた今、天文家のことを『彼』といいましたよね。何かご存じのことがおありなのですか?」

女将志乃「あらあら、あたしとしたことが――。うっかり口から出ちゃっただけ。何となく天文家は男性だと思ってしまったのよ。いわれてみれば、女性かもしれないわよね……」と、女将は反省する素振りを表した。

高椿子爵「わたしはむやみに全員が自分の正体を暴露することには反対です。しかし、このままでは、議論自体も停滞してしまいます。そこでどうでしょう? 正体を告白しても、村人側にとってさほど痛手とはならない特殊能力者だけに、みずからの正体を告白してもらうのです」

土方中尉「ふむ、村側にとって痛手にならない能力者とは……?」

高椿子爵「まず、天文家の告白はありえません。そんなことをしたら、即行で吸血鬼の餌食えじきになってしまいます。天文家はひそかに夜の観測をすることが肝心ですからね。

 同じ理由で探偵であることの告白も、今日の間はしない方がよろしいでしょう。したがって、告白することができる人物はただひとり……、片想いをされている方です!」

土方中尉「しかし、片想いが正体を暴露してしまえば、当然、今晩の吸血鬼たちの格好のターゲットになってしまうのではないか?」

高椿子爵「その通りです」と、子爵がきっぱりと断言した。

土方中尉「な、な、なんと……。それでは片想いに、わざわざ殺されるために名乗り出よ、といっておるのか?」

高椿子爵「まさに、中尉のおっしゃる通りです」子爵は平然として答えた。

行商人猫谷「俺には高椿の坊ちゃんがいっていることはわかるな。片想いなんて、相方が吸血鬼に感染した時のみ、それを認知できるというだけで、そうでなければただの村人となんら変わりはない。さらには、相方が失血死すれば、後追い自殺をして犬死にするだけだ。

 もし、片想いが名乗り出て吸血鬼に襲われれば、結果的に、村側にとってより重要な職業である天文家と探偵の両方の命を救うことになる。天文家と探偵は二日目以降にならないと能力を発揮しないから、初日に殺されてしまっては、その損害は計り知れん」

土方中尉「なるほど、そういうことなら、余も納得できる」

女将志乃「でもねえ、自分を犠牲にして村を救うというの? そんな英雄、果たしているかしらね」

高椿子爵「お願いです。この中にいる片想いの方。ぜひ、今、名乗り出てください」

後家都夜子「無理ですわ! 誰だって命は惜しいものです」

小間使い葵子「わたくしは、ご主人さまの名案に賛成です。片想いの方は正直に申し出るべきです。ただ、想い先のお相手のお名前は暴露してはなりません。それこそ、吸血鬼に目標を教えてしまう愚かな行為だからです。そして、わたくしからまず先に告白いたします……。わたくしは片想いではございません」

高椿子爵「さすがは葵子だ。冷静な判断だね。それでは続いてわたしも告白するとしよう。わたしも片想いではない。すなわち、今、恋などしてはいない」

女将志乃「それならあたしも告白させてもらうわ。あたしは、もう恋なんて卒業しちゃったのよね。つまり、あたしは片想いではありませーん」

土方中尉「ふむふむ……、そういうことなら仕方ない。余も告白するとしよう。余も今、恋愛などという悠長なことに携わっている暇はない」

書生和弥「僕も告白します。残念ながら、今、僕は恋をしておりません」

行商人猫谷「俺も片想いなんてしていないぜ……」

 吐き捨てるように行商人が宣言した。

高椿子爵「これで一気に六人が、自分は片想いではないと告白したみたいだね。残るは五人だ。まずは、菊川さん――、あなたはいかがなのですか?」

蝋燭職人菊川「ふん、くだらない」

高椿子爵「ええと、それでは答えになっていませんよ。菊川さん。あなたは片想いされていますか?」

蝋燭職人菊川「発言を拒否する。片想いを告白することが村側のためになるとは、思えないからだ!」

高椿子爵「いいでしょう。でもあなたが発言を拒まれたという事実は、今後の議論で一つの状況証拠ともなり得ますからね。じゃあ、琴音お嬢さまはいかがですか?」

令嬢琴音「まあまあ――。うちは年頃の娘なんよ。そんなこと、恥ずかしくていえへんわ」

高椿子爵「わかりました。それでは、都夜子さんはどうですか?」

後家都夜子「恋はしていません……」

高椿子爵「了解です。あなたが恋をされていないと聞いてほっとしている男性は、おそらく、わたしだけではないでしょうね」

霊媒師鈴代「わしは、恋などという下劣なものは、断じてせん」

 最後にじっと隠れるように押し黙っていた大河内青年が、渋々口を開いた。

執事大河内「わたくしは、片想いが名乗り出ることに関しては、依然として反対です。しかしながら、わたくしの正体が片想いであると疑われてしまうのも、はなはだ本意ではありません。ですから、ここに宣言いたします。わたくしめも、恋はいたしておりません」

行商人猫谷「これで十一人のうち九人が片想いではないと告白したことになるな。残りはたったの二人だ。令嬢か、蝋燭職人……、果たしてどちらが片想いなのだろうね?」と、下あごをさすりながら、したり顔で猫谷が呟いた。

女将志乃「まあ、いいじゃないの。琴音お嬢さまか、菊川さんか、いずれかが片想いをなさっていらっしゃるということで……」

 すると令嬢が背筋を伸ばしてすっと立ち上がった。

令嬢琴音「わかったわよ……。片想いをしているのは、うちなんよ。でも、憧れのお方のお名前をここでいうのは、勘弁してね――」

高椿子爵「おお、ついに告白してくれましたか。お嬢さんの勇気ある行動に感謝いたします。ところで、菊川さん。琴音さんのただ今のご発言は聞かれていましたよね。何か反論がございますか?」

蝋燭職人菊川「ふん――。何も……、ないよ」

令嬢琴音「菊川のおじさんは、うちのこと考えて、告白を拒否したんやと思うわ。もしもおじさんが片想いでないといえば、必然的に、うちが片想いであることがばれてしまい、今宵、うちが吸血鬼のターゲットとなってしまうからね」

高椿子爵「それでは、琴音さんがただひとり、ご自分が片想いであると告白されました。他のみなさまに最終確認です。琴音さんに対抗して、自分が片想いであると、あらたに告白される方はみえませんね? よろしいでしょうか?」

 子爵がぐるりと見回したが、誰一人、声を発するものはいなかった。

高椿子爵「琴音さんが片想いであるとすれば、吸血鬼たちは当然のごとく、相手の男性の失血死を狙ってくることでしょう。琴音さんを襲うことは簡単ですが、それでは琴音さんのご遺体が一人出るだけです。でも、お相手の男性を首尾よく殺すことができれば、琴音さんも想い余って後追い自殺をしてしまいますから、犠牲者は一気に二人。吸血鬼にとっては、まさに一石二鳥というわけです」

執事大河内「すると、今晩狙われるのは男性でございますか……?」

 怖気づいた執事が訊ねてきた。

土方中尉「もし余が吸血鬼であれば、まずは天文家の感染を狙うであろう。天文家を生かして感染させることができれば、感染した天文家は、翌晩から村人を襲い続けるから、そうなれば、一晩に二人の犠牲者を生み出すことが可能となる。吸血鬼たちにすれば、天文家の感染は勝利のための大きな躍進なのだ!」

蝋燭職人菊川「感染した村人は勝利条件にカウントされないから、鬼たちにとって、失血死と感染はどちらにせよ、健在な村人を一人減らしていることになる。だから感染天文家は、鬼たちにはこの上なく好都合な存在だな」

書生和弥「万が一、天文家が感染させられると、何が起こってしまうのですか?」

蝋燭職人菊川「まず、翌日の夜になって観測ができないことを知り、自分が感染させられてしまったことに気付く。それと同時に、観測先に指定していた人物を襲撃してしまい、相手を吸血鬼に感染させてしまう。しかも、そのまた翌日以降も、自らの意に反して、夜になると観測先を襲ってしまうから、村側にとって消さなければならない厄介な存在となる。

 しかし、吸血鬼がせっかく感染させた天文家をわざわざ殺すわけがないので、みずから名乗り出て、感染を告白し、処刑されることが、唯一の村に貢献する行為となってしまうのだ。悲しい運命さだめだな……」

書生和弥「でも、肝心の天文家を、吸血鬼たちはどうやって探し出すのですか?」

土方中尉「それは……、直感しかないであろう。ただ、余が主張したいのは、吸血鬼たちの狙いが、お嬢さまの相方の失血死だけだという意見には、必ずしも納得できないということだ。吸血鬼たちが天文家の感染を狙って来る、ということも十分に考えられるからだ」

小間使い葵子「そういうことになると、吸血鬼が感染を狙う相手は、逆に女性だということになりますね!

 天文家が男性なのか女性なのかは、今のところ全く情報がありません。しかし、吸血鬼側が、感染狙いでうっかり琴音お嬢さまの想い先を感染させると、たちまちお嬢さまにその事実を悟られてしまいます。そうなれば、お嬢さまと想い先の男性の両名が白(村人側の人物)であると、はっきり確定するわけです。この情報は、村側にはとても貴重であり、吸血鬼たちにとっては極めて厳しいものに違いありません。ですから、吸血鬼たちは、男性を感染させる行為をとりあえず控えると思われます――」

後家都夜子「つまり、今宵の吸血鬼たちは、失血死狙いなら男性を、感染狙いなら女性を襲うというわけですね?」

行商人猫谷「潜伏している天文家が、男だと村側の脅威は小さいが、女であるとすると……、かなり厄介だな」

高椿子爵「片想いのお嬢さんは、今晩に限っては、案外、吸血鬼たちから襲われないかもしれませんね」

令嬢琴音「子爵さま、それ信じていいの?」

高椿子爵「さあ、どうでしょうね? しかし、そうならば、村側の勝利の鍵となる天文家を守るためにも、もう一つの特殊能力者である探偵の告白が必要になってきましたね……」

蝋燭職人菊川「ちょっと待て! あんた、どうかしてるんじゃないか? さっき片想いを告白させといて、今度は探偵の告白を強要するなんて」

 いきどおった菊川が、こぶしで畳をドンと叩いた

高椿子爵「冷静に考えて、当然の成り行きだと思いますがね。たとえ、めくら鉄砲でも獲物をしとめることはあります。万が一にも今晩、天文家が被弾してしまっては、元も子もないでしょう?」と、子爵はすまし顔だ。

令嬢琴音「いけにえ候補のうちがいうのもなんだけど、今日、探偵が告白するのはよくないと思うな。天文家を吸血鬼たちが探し当てるのは難しいと思うし、探偵にはこれから働いてもらわなきゃならんし……」

女将志乃「あたしもお嬢さまの意見に賛成ね。わざわざ探偵が名乗り出るのは、リスクが多過ぎるわ……。

 ところで、猫谷さん。話は変わるけど、この前お願いしておいた塗り薬をいくらか調達していただけないかしら。もうちょっとで切らしてしまうのよ」

行商人猫谷「ええっ、よりによってこんな時にかい? わかりましたよ。いかほどご入り用で?」と、猫谷は突発的な申し出にかなり面食らっていた。

女将志乃「そうねえ、とりあえず二缶くらい――。お代は後で渡すわ。そうそう、うちの庭にきれいなほおずきの実がなっているから、ついでにそれも持って行ってあげましょう」

行商人猫谷「ほう、ほおずきとね……?」

女将志乃「そうよ。何の役にも立たないけど、きれいにいっぱいなっているわ。ちょうど、あたしみたいだわね。ふふふ……」

 すっかり話題が世間ばなしに飛んでしまったので、見かねた将校が顔をしかめて発言した。

土方中尉「余は探偵の自白に賛成である。やはり、探偵より重要な天文家を守ることこそ肝心だと考えるからだ」

霊媒師鈴代「何を愚かなことを……。村側の守り神たる探偵の居場所をばらしてしまうは、たたりこそあれ、何のご利益もありゃせんわ」

執事大河内「わたくしは探偵が名乗り出ることに賛成です。能力者が複数名乗り出ることで、吸血鬼たちも混乱するでしょうし、的を絞らせない意味でも効果は大きいと思います」

後家都夜子「執事さんのおっしゃることは、全然わかりません。片想いと探偵では、鬼たちにとって、厄介な度合いが異なります。探偵の正体がばれてしまえば、どう考えても、鬼たちは探偵を今晩の餌食とすることでしょう」

小間使い葵子「そうとも限りませんわ。例えば、何も能力のない村人が、『自分は探偵である』と偽ることも可能だからです。つまり、誰かが探偵であると名乗りを上げても、吸血鬼側からしてみれば、それが真実かどうかを確かめるすべはない。だから、何の能力もない村人が偽れば、その方は殺されてしまいますが、そのおかげで、探偵と天文家の両名を救えます!」

行商人猫谷「なるほどね。みずからが殺されても村側にさほど影響がない無能力の村人が偽りの告白をすることもあり得るわけだ。でも、そんな献身的な英雄が、果たしているのかねえ?」

高椿子爵「とにかく、議論が滞ることをわたしは危惧します。それではわたしから告白いたしましょう。わたしは探偵ではありません!」

霊媒師鈴代「ふむ、そういうことなら、わしも探偵ではないぞ」

土方中尉「余も探偵ではない。推理小説にはすこぶる興味があるのだが……」

令嬢琴音「いうまでもなく、うちは探偵じゃあらへんよ」

行商人猫谷「俺も探偵ではないよ」

蝋燭職人菊川「待て、待て――。これ以上、探偵の非告白をしてはならない。吸血鬼どもに無駄に情報を提供するだけだ!」

執事大河内「わたくしめも、探偵ではございません」と、青年執事はここぞとばかりに発言した。

後家都夜子「わたしは菊川さんのお考えに同意します。したがって、探偵に関してわたしはノーコメントです」と、美貌の未亡人はりんといい放った。

書生和弥「僕は……、どうしたらいいんだろう? うん……、僕は探偵ではない」

小間使い葵子「わたしも探偵ではございません」

霊媒師鈴代「これで何人が探偵でないと告白したかの? ええと、わしに子爵、中尉にお嬢さま、猫谷に執事と小間使い、それに、呪われた若僧か――。残りは三人じゃな。すなわち、蝋燭作りに七竈の女将、それに都夜子じゃ。さあ、誰から白状するね!」と、鈴代が歯を見せて笑った。

女将志乃「わかったわ。そろそろ潮時ね……。あたしが探偵よ! だから、今日の夕刻の処刑投票では、絶対にあたしは外してくださいね」

 七竈亭の女将が、観念して色白の右の腕をゆっくりとさし上げた。


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