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小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
ルール確認編
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3/23

3.ささやかなる村の掟

 ふと我に返ると、目の前にはパソコンのディスプレイがあった。そうか……、ここは二十一世紀なのだ。僕は背伸びをしながら、自室の薄汚れた狭い天井をぼんやりと眺めた。

 今、インターネットの向こう側では、ゲームに参加する十人の姿なきプレーヤーたちが僕を待っている。ここで、各プレーヤーが自己主張している十一人のキャラクター名を列挙しておこう。

 高椿たかつばき精司せいじ子爵と、その忠実なる小間使い東野とうの葵子あおいこ。亡くなった村長の一人娘である梅小路うめこうじ琴音ことねと、若き青年執事の大河内おおこうちたけし。旅館七竈亭の女将をつとめる柳原やなぎばら志乃しの、さすらいの行商人猫谷ねこや庄一郎しょういちろう、さらに、松本駐屯地に勤務する陸軍中尉の土方ひじかた晃暉こうき。蝋燭職人の菊川きくかわ六郎ろくろうと、自称霊媒師の宮田みやた鈴代すずよ。美しき未亡人、西園寺さいおんじ都夜子つやこ。そして、最後の十一人目となる僕の名前は、飯村いいむら和弥かずやである。


 ここで、僕が参加する『吸血鬼の村』なるオンラインゲームについて、簡単に説明しておこう。少々、内容が煩雑になってしまうが、本編で展開される真相にたどり着くためには、どうしても、ゲームのルールを正確に把握してもらう必要がある。読者の方には、ご負担をかけることとなるが、どうか、ご容赦願いたい。

 ゲームの内容は、大雑把にいえば、それぞれのプレーヤーが、ネット上に設置された伝言板に自由なメッセージを書き込んでいき、そこで交わされる会話のやり取りによって、相手の正体を暴露していき、自分が所属するチームの勝利を目指す、というものだ。ゲームはチーム戦で行われ、勝利条件をクリアしたチームが勝利を収める。チームは二つあり、村人チームと吸血鬼チームに分かれている。

 十一人の登場人物の中には、二人だけ人間にあらざる魔物が紛れている。それが吸血鬼だ。吸血鬼は、日中は村人の姿で大人しくしているが、夜になると活動を開始して、これと狙いを付けた村人の一人に襲い掛かる。襲われた村人は、失血多量で死んでしまうか、吸血鬼に感染してしまうかの、どちらかの運命をたどることになる。そのどちらになるのかは、吸血鬼側の攻撃のやり方で決定されるが、詳細は後述する。

 二人の吸血鬼の間には上下関係があり、上位の吸血鬼を、吸血鬼の王と呼び、『吸血鬼K』と表すことにする。下位の吸血鬼は、吸血鬼の女王ということで、『吸血鬼Q』と記述される。

 さらに、もう一人、吸血鬼チームに所属する人物がいる。それが使徒である。

 使徒は、本来は村人なのだが、不覚にも吸血鬼Kの姿を目撃してしまい、魅せられてしまった人物である。特殊能力は何も持たないが、ゲーム当初から吸血鬼Kの正体が誰であるかを知っており(吸血鬼Qの正体は知らない)、吸血鬼チームの勝利を目指してひそかに行動する。村人側からしてみれば、スパイみたいな存在であるといえよう。一方、吸血鬼Kと吸血鬼Qは、他の村人たちと同様、使徒が誰なのかを知らない。

 つまり、十一人のプレーヤーの中に三人だけ、吸血鬼チームの人物が紛れ込んでいるということになる。そして、吸血鬼チームの目的は、村を制覇することである。

 この恐るべき吸血鬼に対抗する手段として、村人チームは、毎日の夕刻に『処刑投票』を行うことができる。処刑投票は、生き残った全員で行われ、無記名で票が投じられる。そして、得票数が最も多い人物が、その場で処刑されてしまう。しかし、間違って吸血鬼でない人物が処刑されることも茶飯事である。


 ゲームが進むうちに、吸血鬼に攻撃されて、村人が吸血鬼に感染することがある。そこで本書では、ゲーム当初から登場する二人の吸血鬼(吸血鬼Kと吸血鬼Qのこと)を、『オリジナル吸血鬼』と呼び、ゲームの途中で感染させられてしまった村人『感染吸血鬼』と区別する。

 そして、具体的な勝利条件であるが、村人チームは、オリジナル吸血鬼の二人を抹殺すれば、その瞬間に勝利を収める。一方、吸血鬼チームは、生き残っている村人の総数(使徒は村人の一人として数えられ、感染吸血鬼は村人の数には数えない)が、生き残っているオリジナル吸血鬼の総数以下(同数になれば吸血鬼側の勝利)になった瞬間に勝利を収める。


 ゲームの中には、一日という概念があり、次のように進行する。

まず、朝になると、生き残っているプレーヤー全員に、前日の死者の確認がなされる(死因までは報告されない)。また、天文家は、前の晩の観測結果を確認することができ、片想いは想い先の相手が吸血鬼に感染していれば、それを察知することができる。探偵は、前日に調査した遺体が残したダイイングメッセージ(遺書)、を読むことができる。

 その後、舞台は日中に移り、生き残っているプレーヤーたちが思い思いの主張を語り合う議論が始まる(いうまでもなく、死んでしまったプレーヤーは、会話に参加することはできない)。探偵は日中の間ならいつでも、遺体と化した人物から毎日一人だけを選択して、その人物の正体を調査することができる。

 夕刻になると、生き残っている人物全員による無記名投票で、その日に処刑する人物を決定する。そこで最多得票を獲得した人物は、すぐさま、聖なる杭を胸に打ち込まれて処刑されてしまう。最多票の人物が複数生じた場合には、乱数によって、その中から一人だけが選ばれて処刑される。

 そして、夜を迎える。夜になると、いよいよ吸血鬼が活動をはじめる。まず、吸血鬼Kと吸血鬼Qは、生きていれば、他のプレーヤーたちに気づかれることがない秘密の会話を、互いに交わすことができる。吸血鬼たちは、日中の間は、掲示板に書き込む形でしか会話ができないので、内容は村人たちにも筒抜けとなる。だからこそ、夜の打ち合わせはオリジナル吸血鬼たちにとって格好の作戦を練る場となる。

 さらに、吸血鬼(オリジナル吸血鬼と感染吸血鬼の両方)は夜になれば、本能から来る習性によって夜空に飛び立ち、闇夜の村を徘徊する。そして、オリジナル吸血鬼は、夜間に狙った人物を一人だけ襲う。

 もし、生き残っているオリジナル吸血鬼が二人いて、同一人物を襲えば、その人物は即座に失血死する。また、オリジナル吸血鬼が二人いて、別々の人物を襲えば、上位の吸血鬼Kに襲われた人物が吸血鬼に感染する(この時、吸血鬼Qに襲われた人物は何も被害を受けない)。

 感染させられた村人(感染吸血鬼)は、感染しているという自覚症状はなく、翌朝からも通常の生活を営むことができる。しかし、感染吸血鬼は、ゲームの勝利条件における村人数にはカウントされない。


 特殊能力者が感染した場合、探偵は、翌日以降も、遺体の調査や遺言の確認を行うことができるし、片想いも想い先の感染の有無を察知することができる。

 しかし、天文家だけは、感染させられると厄介やっかいな問題を抱えることになる。感染した天文家は、その翌日の夜から、自分が観測しようと思っていた人物を襲撃してしまい、吸血鬼に感染させてしまう。いうなれば、みずからの意に反して、仲間を吸血鬼に感染させる恐ろしい魔物と化してしまうのだ。天文家としての観測能力も同時に失われてしまい、さらに翌々日の朝になって初めて、観測結果の報告がなされないことを自覚することで、みずからが感染した事実を知ることになる。

 なお、二人のオリジナル吸血鬼のうち、片方が死んでしまい、オリジナル吸血鬼が一人になった場合には、その吸血鬼はパワーアップを果たす。すなわち、吸血鬼は一人になると、襲い掛かった相手を必ず失血死させてしまう。これは現実的に考えれば、妙な話ではあるが、特殊なルールだということで理解してもらいたい。

 襲撃に関する要点をまとめると、生き残っているオリジナル吸血鬼の全員から襲われた村人は(使徒も含めて)、失血過多により即死する。一方、オリジナル吸血鬼が二人いて、別々の人物に襲い掛かった場合には、吸血鬼Kに襲われた人物のみが、吸血鬼に感染する(吸血鬼Qに襲われた人物は、何も被害を受けることはない)。

 また、天文家が吸血鬼に感染させられた場合、感染した翌日の夜から毎晩、自分が観測する予定の人物を襲ってしまい、相手を吸血鬼に感染させてしまう。


 このゲームに参加する十一人の内訳は、オリジナル吸血鬼がKとQの二人、それ以外に、九人の村人たちがいる。村人の中には特殊能力を持った人物が紛れ込んでいる。具体的には、探偵が一人、片想いが一人、天文家が一人、使徒が一人である。残りの五人は特殊能力を持たない無力な村人たちとなる。それでは、それぞれの特殊能力者についても、ここでまとめておこう。

 まず、探偵である。日中の間、遺体を一人だけ選択して、その調査をすることができる。そして、遺体の生前の正体を、知る能力を有している。もし遺体が、吸血鬼、天文家、片想いであった時には、探偵はその正体をそのまま確認することができる。しかし、遺体が片想いの想い先や使徒であった場合については、『村人である』としか確認できず、単なる村人の遺体と区別することはできない。また、確認した遺体が吸血鬼に感染していたかどうかまでは知ることはできない。

 さらに探偵は、日中に調査した遺体が残した遺書を、その日の夜になってから、見ることができる。もちろん、その時点まで探偵本人が健在であることが、調査が行える前提条件となるが……。

 遺書は遺体の主が殺された時に書き残した文章であり、生き残ったプレーヤーたちにとって、真相解明の大きな手掛かりになる可能性がある(実際のゲームでは、遺書は本人が死を自覚してから、すぐに書かれることになる。例えば、夕刻に処刑された人物はその夜のうちに遺書を書き残し、夜間に死んだ人物は翌朝の間に遺書を書き残すことになる)。探偵は吸血鬼に感染しても、その能力を失うことなく、翌日以降も調査することができる。しかし、みずからが吸血鬼に感染している事実を自覚することはできない。

 次は、片想いである。片想いは、(吸血鬼、使徒、本人を除いた)七名の村人の中から、自分とは異性である誰か一人に、ひそかに恋焦がれている(想い先の相手は、自分が想われている事実を認識してはいない)。そして、もし、想い先の相手が、夜間に吸血鬼から攻撃を受けて感染してしまうと、翌朝になってから、その事実を察知することができる。

 しかし、想い先の相手が処刑されたり、失血死した時には、事実を知った悲しみのあまり、その夜の間に、みずからも後追い自殺をして死んでしまう。

 片想いも、吸血鬼に感染させられた際、その特殊な能力を失うことはない。なお、片想いが先に死んでしまった場合には、想われている相手は、その遺体が片想いであることに気づくことはなく、当然のことながら、後追いで自殺をはかることもない。

 そして、天文家である。天文家は毎晩、プレーヤーの中の誰か一人を選んで、望遠鏡で監視することができる。これを『観測する』という。

 天文家が観測するターゲットは、夕刻までに、天文家の意志で決められる。そして、天文家の観測先が、オリジナル吸血鬼か感染吸血鬼であった場合には、夜の間に彼らが家から空へ飛び立つのを、天文家は目撃することになる。その時には、天文家はターゲットが吸血鬼であることを知ることができる。また、観測先が一晩中、夜空に飛び立たなければ、そのターゲットが吸血鬼ではなかったという事実を、確認することができる。

 しかし一方で、天文家自身が吸血鬼に感染させられてしまうと、天文家としての能力を失うだけでなく、翌日以降に、観測先にセットしたターゲットを、夜になると襲ってしまい、吸血鬼に感染させてしまう。感染した天文家は、翌朝になって昨晩の観測結果が確認できないこと知り、初めてみずからの感染事実を自覚する。翌日以降も毎晩、感染した天文家は村人の一人を、意に反して襲ってしまう。

 最後に、使徒である。使徒はゲーム当初から、吸血鬼Kが誰であるかを知っている(吸血鬼Qが誰なのかは知らない)。一方、オリジナル吸血鬼の二人は、使徒が誰なのかを知らない。つまり、吸血鬼同士はお互いを認識しており、使徒は吸血鬼Kを知っているが、使徒は吸血鬼Qを知らず、吸血鬼たちは使徒を知らないということだ。

 さらに、使徒は吸血鬼チームの勝利を目指す人物である。つまり、吸血鬼側が勝利すれば、使徒も勝利したことになり、村人側が勝利すれば、使徒は敗北したことになる。しかし、勝利条件のカウントでは、使徒は(感染していなければ)生き残っている村人の一人として数えられる。


 ああ、そろそろゲームが開始される時刻だ。

 さて、ここで読者のみなさんには正直に告白しておこう。このゲームで、僕こと、飯村和弥に割り当てられた配役は、『何の能力も持たないただの村人』である――。

 場面は鬼夜叉村の村長の屋敷――、眼前には、一見悲しげな表情をした村人たちが、村長の遺体があった場所を取り囲んでいる。


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