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『出来損ないの四男は、魔法を仕組みに変える』 ―― 辺境伯家の四男による異世界魔導革命  作者: トトト
◆ 第一部 辺境の灯火 / 第四章 辺境防衛戦

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第019話 魔導銃、試作

フェルゼン領が兵を集めている。

ヴェルナからその報せを聞いて以来、

俺は1つの避けられない問いと向き合っていた。

……爆ぜる火種盤では軍は止められない。

あれはあくまで魔物を怯ませ、盗賊を混乱させるための道具だ。

破裂音と閃光。

だが訓練された兵は一度、その正体を知れば怯まない。

ましてや、フェルゼンには焔を操る高位の魔法使いもいるはずだ。

今の俺たちの手札では――統率された本物の軍勢の前ではあの魔物の夜のようにはいかない。

もっと決定的な力がいる。

血統の魔法使いにすら、平民が対抗できる。

そういう武器が。

俺はその考えに至った自分に一瞬、ためらいを覚えた。

それはこれまで作ってきた、畑を潤す杭や、獣を追う火とは明らかに質の違うものだった。

……人を殺すための道具だ。


工房の会議台には3つのものが並んでいた。

古い騎士鎧の胸当て。

爆ぜる火種盤。

そして領境から届いたフェルゼン軍の装備図。

テオが木炭で数字を書き込む。


敵兵は少なくとも200。

後続を含めれば500。

革鎧が半数、鎖帷子が3割、板金の胸当てを着けた精兵が2割。

魔術師は確認できただけで12。

こちらがすぐ動かせる兵は160。

領内すべてから集めても200に届かない。


「火種盤を街道へ埋めれば」


若い職人が言った。

ヴェルナは首を振る。


「最初の列は止まる。2列目から盾を前へ出す。正体が音と光だと分かれば、訓練された兵は進む」


魔物との戦いには効いた。

盗賊との戦いにも効いた。

だが同じ成功を相手が違う場所へ持ち込めば、

それは戦術ではなく思い込みになる。

ルクスは胸当てを棒で叩いた。


「必要なのは、脅かす力じゃない。鎧の向こうへ届く力です」


言葉にした瞬間、工房が静まった。

誰もその先を聞き間違えなかった。

畑を耕す道具ではない。

魔物を追い払う道具でもない。

人間を殺すための道具。


「作らない選択は」


ティナが問う。


「ある」


ルクスは答えた。


「作らなければ僕たちは今ある武器で戦う。死ぬ人数は増えるかもしれない。でも、作ったものがこの先100年人を殺す可能性は生まれない」


「作れば?」


「今回生き残る可能性は上がる。その代わり、奪われれば敵も使う。真似されれば戦の形が変わる」


テオは黙って胸当てを見ていた。

彼には血統魔法がない。

剣の訓練も騎士ほどではない。

この道具が最も大きな力を与えるのはテオのような者だ。

だからこそルクスは彼へ簡単に賛成を求められなかった。

ヴェルナが言う。


「武器を作るかどうかと戦うかどうかは別です。敵はすでに兵を集めている。こちらが武器を作らなくても相手の槍は消えません」


「それでも一線を越えるのは僕たちだ」


「ええ。だから誰が命じ、誰が作り、誰が保管し、いつ壊すのか。先に決めてください」


武器の強さではなく扱う仕組みを先に作る。

ルクスは板へ4つ書いた。

領外持ち出し禁止。

製作は工房奥の指定班のみ。

使用は当主または防衛責任者の命令時のみ。

戦後は全数を回収し、帳簿と照合する。

ティナが5つ目を加えた。

不良品も部品も勝手に捨てない。

テオが6つ目。

撃った数、戻った弾数、壊れた場所を記録する。

ヴェルナが7つ目。


人へ向ける訓練は禁止。

試射の時も射線の左右と後方へ見張りを置く。

約束を書けば、

危険が消えるわけではない。

だが危険を名づけなければ、

止める者もいなくなる。


「名称は?」


テオが尋ねた。

ルクスは答えるまで少し時間を置いた。


「魔導銃」


農具のような柔らかな名をつけて、

ごまかしたくなかった。

それは銃だ。

人を撃つものだ。


---


だがためらってばかりもいられなかった。

俺は工房のいちばん奥。

ティナとごく限られた者だけが入れる一角でその試作を始めた。

原理は爆ぜる火種盤の延長にある。

マナを1点に収束させ、暴発させる。

爆ぜる火種盤はそれをその場で弾けさせるだけだった。

だが――もしその爆発の力を一方向に逃さず、まっすぐに押し出せたら。

俺は鉄の筒を思い描いた。

片方を塞ぐ。

筒の内側にマナを収束・加速させる紋様を刻む。

もう片方から小さな鉛の弾を装填する。

使い手がわずかなマナを流し込めば筒の中で暴発が起き、

その力が弾をまっすぐに押し出す。

……前世の銃と同じ理屈だった。


「……ルクス。これ、何を作らせる気?」


ティナが設計図を睨みながら、

珍しく硬い声で言った。

彼女は聡い。

この道具がこれまでの何とも違うことに気づいている。


「……武器だ」


俺は正直に答えた。


「これまででいちばん物騒なものだ。人を殺せる。……作りたくなければ断ってくれていい」


「そういうこと聞いてるんじゃないの」


ティナは鏨を強く握った。


「あたしが訊きたいのは……これがあたしたちの村を守るためのものか、ってこと」


「……そのために作る」


「ならいい」


彼女は短く言った。


「あたしは、あたしの村を守るものならなんだっていちばん上手く打つ。……ただの飾りの武器になんてさせないから」


その覚悟に俺は頷くしかなかった。

彼女もまた、この一線の意味を分かった上で踏み越えようとしている。


---


試作はこれまでのどの道具より危険だった。


暴発の力を筒に閉じ込める。

1つ間違えればその力は弾ではなく使い手の手の中で弾ける。

何度も筒が裂けた。

紋様が耐えきれずに砕けた。

俺の 『解析』 で、力の流れを1つ1つ追い、ティナがより頑丈な鉄とより精密な紋様で応える。

地味で危険な反復。


最初の筒は引き金を引く前に捨てた。

解析した魔力の流れが閉じた底の1か所へ偏っていた。

撃てば弾は前へ出るかもしれない。

だが同時に底板が後ろへ飛び、使い手の顔を砕く。

2本目は紋様へ魔力を流した瞬間に亀裂が走った。

3本目は弾が筒の途中で止まり圧力だけが残った。


「触るな!」


ティナの声で全員が伏せる。

筒は砂袋の中へ置き、長い鉤で水槽へ落とした。

しばらくして鈍い音と共に砂が跳ねた。

もし手で覗き込んでいれば顔がなくなっていた。

テオが失敗板へ書く。

3号。

弾詰まり。

原因、弾径のばらつき。

処置、筒口から棒を入れない。

水槽で失活。


「弾まで同じ大きさにしないと駄目なのか」


職人が呻く。


「筒の内側もだ」


ティナが答えた。

手で作る鉄筒にはわずかな歪みがある。

弾が小さすぎれば力が横から逃げ、大きすぎれば詰まる。

必要なのは名人の勘ではない。

同じ太さを確かめる道具だった。

ティナは2枚の鉄板へ穴を開けた。

ひとつは弾が通らなければ大きすぎる穴。

もうひとつは弾が抜け落ちれば小さすぎる穴。

2つの間に収まるものだけを使う。

筒の内径にも端から端まで通す検査棒を作った。


「これなら、あたしがいなくても外せる」


同じものを作る技術は強い武器を1つ作る技術とは違う。

4本目は撃てた。

ただし10歩先の板へ弾が横向きに当たった。

威力は弱く、板の表面を削っただけ。

5本目はまっすぐ飛び木板を貫いた。

しかし2発目で筒が膨らんだ。

6本目は10発に耐えた。

鎧には大きな窪みを作ったが貫通しない。

魔力を増やせば威力は上がる。

同時に破裂の危険も上がる。

ルクスは使い手が自由に魔力を注げない構造を選んだ。

火種盤と同じ規格の小さな魔力片を後部へ入れ、1発ごとに使い切る。

誰が撃っても込められる力は同じ。


「強い魔術師が持てばもっと強く撃てるのに」


テオが言う。


「それを許したら筒の限界を知らない人が壊す」


「使う人を信用しない?」


「恐怖の中でいつも正しい量を選べる人はいない」


戦場では焦る。

仲間が倒れれば、もっと強くと願う。

願いに応じて力が増す武器は最後に持ち主を殺す。

だから勇気や冷静さを要求する代わりに道具が上限を決める。

7本目で後部を二重にした。

8本目で紋様を筒から交換式の小板へ分けた。

9本目で撃針を引かなければ魔力が流れない遮断線を加えた。

10本目には銃口を下へ向けた時でも弾が抜け落ちない留め金がついた。

試作番号が増えるたび魔導銃は強くなるというより死ににくくなった。

ルクスはそれを正しい進歩だと思った。

試射場は工房から離れた石切場に作った。

入口を2つ閉じ見張りを4人置く。

的の背後には土壁を盛り、外れた弾がどこへ行ったか必ず探す。

試射の前後で、銃、魔力片、弾の数を読み上げる。


「1丁。弾1発。魔力片1枚」


テオが答える。


「射線よし。後方よし」


ヴェルナが旗を下げた。

そこで初めて引き金に指をかけることが許された。

そしてある日。

工房の奥の的に向かって――試作の筒が初めてまっすぐに火を噴いた。

乾いた鋭い破裂音。

的に立てた古い鎧の胸当てが耳障りな音を立てて貫かれる。

焔の魔法でも簡単には貫けない鉄の鎧。

それを装填し引き金を引いただけの――なんの才能もないテオの手が撃ち抜いた。

工房の奥の一角にしばらく沈黙が満ちた。


「……当たった」


テオが呆然と呟いた。

撃った本人がいちばん信じられないという顔をしている。


「俺が……あの鎧を……」


「ああ」


俺は静かに言った。


「君が、撃ち抜いた」


血統の魔法使いだけが扱えた、

鎧を貫く力。

それを今、下働きの少年が鉄の筒1つで再現した。

……戦の常識が揺らいだ音だった。

もう、「強い者」は生まれで決まらない。


---


だが俺の胸に広がったのは勝利の高揚ではなかった。

もっと重い何かだった。


「――ルクス様」


いつのまにか工房の奥にヴェルナが立っていた。

撃ち抜かれた鎧をじっと見つめている。

その横顔は戦士のものだった。

この道具が戦場で何を意味するかを誰よりも正確に理解している顔。


「これは……恐ろしいものを、作りましたね」


彼女は静かに言った。

責めるでも称えるでもない、

平らな声で。


「これがあればあなたの言う通り、才なき兵でも騎士や魔法使いを討てる。……戦のやり方が根本から変わる。

強さが、血から道具へ移る」


「……ええ」


「そして」


ヴェルナは俺を見た。


「それはこの道具が"敵の手に渡ったとき"も、同じだ。……分かっていますか、ルクス様。あなたは、この世界の力の底を抜こうとしている。一度、抜いた栓は、二度と戻せない」


俺は答えられなかった。

彼女の言葉は俺が心の底で恐れていることを正確に言い当てていた。

魔法を誰にでも配れる技術に変える。

それは俺の理想だ。

だが――その技術が人を殺す形を取ったとき。

それは弱い者を守る盾にもなり、同時にこの世界を際限のない殺し合いへと突き落とす刃にもなりうる。

目的のために俺はどこまでこの刃を握るのか。


「……分かっています」


俺はようやく言った。


「だからこれは決して外へは出さない。作り方もこの工房の奥から一歩も出さない。

……これは、俺たちの村を守るための最後の切り札だ。それ以上にはしない。いや――させない」


それが俺が自分に課した最初のそして守るべき"歯止め"だった。

ヴェルナはしばらく俺を見つめ、それから小さく頷いた。


「……その言葉忘れないでください。私はそれを見張る役目も引き受けますから」


テオは撃った直後、その場に座り込んだ。

反動で肩を打ったのではない。

穴の開いた鎧の向こうに人の身体を想像したからだ。


「これを、俺が人へ向けるんですか」


誰もすぐには答えなかった。

ヴェルナが胸当てを外し背後の土から潰れた弾を拾う。

指先ほどの鉛。

掌へ載せればただの黒い塊に見える。


「向けずに済ませるため、見せることもある」


彼女は言った。


「だが敵が止まらなければ撃つ。武器を持つというのは、その決定から逃げないことです」


「騎士は、怖くないんですか」


「怖い。初めて人を斬った夜、私は吐いた」


テオが顔を上げた。

強い者は迷わないと思っていたのだろう。


「怖くなくなる方が、私は恐ろしい」


ヴェルナは弾を記録箱へ入れた。


「だから命令と記録が要る。誰を撃ったか忘れないために」


ルクスは試作銃を手に取った。

鉄と木でできた短い筒。

これまでの発明は使う人の不足を補った。

火を灯せない者へ火を。

痩せた畑へ土の力を。

戦えない村へ爆ぜる音を。

同じ思想を押し進めた先にこれがある。

ならば便利さだけを自分の功績とし、殺傷だけを使い手の責任にすることはできない。


「最初に撃つ命令は、僕が出します」


「ルクス様」


ヴェルナが険しい顔をする。


「指揮官が必要なら僕が判断する。8歳だから作っただけだからと逃げない」


「では撃たない命令もあなたが出してください」


「もちろんです」


ティナが試作銃を取り上げた。


「その前に、こんな持ちにくいものを兵へ渡す気?」


銃床が短く照準もない。

鎧を抜けても当たらなければ意味がない。

そこから別の試験が始まった。

ヴェルナ配下の兵3人に空の銃を構えさせる。

肩へ当てる位置、頬の高さ、引き金へ届く指。

身体の違う者が同じ姿勢を取れるよう、木の台を削る。

10歩、20歩、30歩。

板へ円を描き命中した場所を記録する。

魔導銃は弓より覚えるのが早い。

半日の訓練でテオも兵も20歩先の胴ほどの的へ当てられた。

だが早いことは危険でもあった。

剣なら握った瞬間に達人にはなれない。

銃は無知な者でも引き金だけは引ける。

だから訓練では射撃より先に撃たない動きを教えた。


銃口を仲間へ向けない。

装填したまま移動しない。

命令前に指を引き金へ置かない。

不発の時はすぐ覗かない。

拾った銃を勝手に撃たない。


テオが絵札を作り、

読み書きのできない兵にも示した。

1日の終わり、

ヴェルナが言う。


「20丁あれば、小隊を止められる可能性があります」


ティナは首を横に振る。


「3日で作れるのは6丁。急いでも8。育土杭の炉を全部止めれば10」


「止めよう」


テオが言った。


「駄目だ」


ルクスは即答した。

戦が来るからと食料を生む仕事をすべて止めれば、

戦後に飢える。

さらに突然出荷を止めればフェルゼンへこちらの恐れが伝わる。

工房の表側では育土杭を作り続ける。

奥の班だけが魔導銃を作る。

銃身、紋様板、引き金、木台を別々の者が担当し、完成形を知るのはティナとルクスだけ。

部品には用途を書かない。

夜ごとに全数を数え、鍵を2つかける。

片方はティナ、片方はヴェルナが持つ。


「信用してないみたいで嫌だな」


ティナが言う。


「1人が脅されても開けられないようにする」


「だったら、もっと嫌だ」


それでも彼女は鍵を受け取った。

守るべきものが増えるほど、工房は以前のように開かれた場所ではいられない。

それが武器を作る代償の1つだった。

完成した最初の6丁には製造番号ではなく固有の名をつけず、一から6までの数字だけを刻んだ。

英雄の剣のように持つ者の誇りへ結びつけないためだ。


銃は人を選ばない。

だから人が銃との距離を選ばなければならない。

ヴェルナは保管箱を閉じる前に問うた。


「戦が終わったら?」


「分解します」


ティナが振り返る。


「全部?」


「防衛に必要な最低数を当主の管理で残し、残りは紋様板を壊す。次に作る時は、また皆で決める」


「敵が残していたら、こちらだけ弱くなる」


「だから回収する。できなければ、残す数を見直す。でも、恐れだけで増やし続けない」


完璧な歯止めではない。

状況が変われば、約束も試される。

それでも最初から歯止めを諦めた武器は必ず作った者の手を離れる。

ルクスは保管帳の表紙へ書いた。


『魔導銃管理記録』


その下にもう1行。


『目的――ファルケンハイト領内の生命を守るため』


未来の誰かがこの帳面を開いた時、

少なくとも出発点だけは誤魔化せないように。


---


魔導銃、

と俺はその道具を名づけた。

まだ、数はない。

試作がようやく形になったばかりだ。

だがこれで、俺たちは初めて、"血統の魔法"に真正面から対抗しうる、

牙を手にした。

そしてその牙を試すときは――思っていたよりずっと早く訪れた。

その報せが屋敷に飛び込んできたのは翌朝のことだった。

ヴェルナが血相を変えて俺のもとへ駆けてくる。


「ルクス様! フェルゼン領の軍勢が――ついに、動きました! 国境を越え、まっすぐ、こちらへ! ……戦です!」


来るべきものが来た。

内なる政争がまだ燻っている、

その最中に。

外なる、本物の戦がこの痩せた辺境へと雪崩れ込もうとしていた。

俺の"静かな革命"が――初めて、国と国の大きな戦の中で、

その真価を問われようとしていた。

急報を受けた後、工房の空気は一変した。

誰も叫ばない。

ティナが炉の班を分け、テオが保管帳を開き、ヴェルナが試射を終えた6人を呼ぶ。

決めておいた手順が恐怖より先に身体を動かした。


「完成6丁。試作2丁は使用禁止。弾は36。魔力片は40」


テオが読み上げる。


「1丁につき6発か」


ヴェルナの顔が険しくなる。


「増やせます。ただし、弾型の検査を省けば事故が出る」


ティナは譲らない。


「省かない」


ルクスが言った。

足りないからこそ、1発を確実にする。

撃てる数が少なければ、どこで撃つかが戦術になる。

敵の全員を倒す武器ではない。

指揮官、魔術師、突破口。

最も必要な場所へ集中させる。


「射手は?」


「テオを含め6人。全員、20歩で3発中2発以上」


「テオもですか」


ヴェルナが驚く。

彼は青ざめていた。

それでも逃げなかった。


「俺が最初に撃てた。詰まった時の処置も知ってる。なら、教える側にいます」


血統も身分もない少年が自分の知識を理由に役割を選ぶ。


魔導銃が変えたのは鎧の強さだけではない。

誰が戦場で意見を持てるかという秩序だった。

ルクスは6人を見回した。


「撃てと命じられても、味方が射線にいれば撃たない。不発なら銃を捨てず、合図する。敵が退けば追って撃たない」


「敵がまた来るかもしれなくても?」


1人が問う。


「背中を撃つために作ったんじゃない」


答えながら、ルクスは自分の言葉が戦場で守れるかを考えた。


恐怖の中では理屈が細くなる。

だから今、何度でも言う。

工房の外で、警鐘が鳴った。

1回、2回、間を置いて3回。

領境侵犯を示す合図。

箱が閉じられ、2つの鍵が回る。

人を殺す道具を作った夜、誰も勝利を祝わなかった。


ただ、守るべき名と撃ってはならない時を確かめた。

そして6丁の魔導銃は重い沈黙と共に初めて工房の外へ運び出された。

屋敷へ向かう途中、ルクスは畑の脇で足を止めた。

育土杭を打った畝には秋播きの芽が揃っている。

工房の火が同じ日に農具と銃を生み、同じ手が土を守る道具と人を倒す道具を作った。

技術そのものに善悪はない。

前世で何度も聞いた言葉だった。


だがルクスはその言葉を好きになれなかった。

技術に意思がなくても作る者には意思がある。

誰へ渡すか、何を狙わせるか、事故を誰の責任にするか。

選択を消して


「道具に罪はない」


と言えば、

残るのは力だけだ。


「怖い?」


隣でティナが訊いた。


「怖い」


「作らなきゃよかったと思う?」


「まだ分からない。使った後も、きっと分からない」


ティナは少し考え、土のついた靴先で小石を蹴った。


「あたしは、作ったことより、作ったのを平気になる方が嫌だ」


「うん」


「だから、平気そうにしてたら殴る」


「頼む」


2人は再び歩き出した。

前を行くテオが保管箱の取っ手を強く握っている。

ヴェルナは街道の先から目を離さない。

6丁では500の軍を倒せない。

それでも血統の焔しか届かなかった場所へ普通の者の手が届く。

その事実は戦の行方だけでなく、

この世界が力を誰に許すのかを変え始めていた。

遠くの丘に敵襲を告げる赤い狼煙が立つ。

試作の時間は終わった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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