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noteの小部屋  作者: 小椋夏己
20260723(木)「熱帯夜」からはじめるnote・シロクマ文芸部

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短編小説「熱帯夜の暑さより人情の厚さ」

「熱帯夜熱帯夜ってうるさい! そんなに言われなくても熱帯夜を思い切り体験してますわよ!」


 思わずテレビに向かってそう言ってしまった。


 世間は熱帯夜、私も熱帯夜。そう、おかしなことではない。だけど一週間前から部屋のエアコンが壊れてる熱帯夜ならいかがでしょうか。


 大学時代から住んでいるワンルームマンション。母の友人の親戚の持ち物だというここを紹介してもらい、環境も良くて卒業後就職した会社への連絡も良かったので、そのまま住み続けている。


 これまで何も問題なく暮らしていたのだが、先週、天気予報が赤から紫の酷暑というのに突入する時を見計らうように、いきなりエアコンが動かなくなってしまった。


 自分で付けたのではなく部屋の設備として付いているエアコン、大家さんに壊れたことを連絡すると、人はいいけどのんびりした大家のおばあさんが、


「あらあら、暑いのに大変だわ、すぐに電気屋さんに連絡するわね」


 とのんびりと言ってくれて、返ってきた返事が、


「今エアコンの工事忙しくて、一ヶ月ぐらいかかるって言ってたのを、二週間にしてくれるって」 


 だったのだ。


 にしゅ~うかん~


 頭の中が煮えるかと思ったけど、ニコニコした大家のおばあちゃんを見てたらそれ以上何も言えなかった。それでもおばあちゃんのコネクションで最短まで交渉してくれたっぽかったので。


 それから一週間、朝から夕方まで仕事に行って社内にはエアコンがあって問題なかったけど、帰る時にはいつもため息と共に帰ることになった。


 帰りに色々寄り道して、寝るだけの間だと我慢してたけど我慢しきれず、どこかのネカフェにでも泊まろうかと思ったけど、夜はどこも予約が入ってて泊まれなかった。


 泣く泣く帰って保冷剤抱えて寝てたけど、それでももう限界。


「実家、帰ろうかな……」


 そうも思ったけど、一人暮らしをするぐらいには離れた距離なので、毎日通勤するわけにもいかないし、これで有給も取りたくない。


 今日は金曜日、土日は休みだけどどうやって過ごそうか。休みだから実家に帰ってもいいんだけど、帰ったらもうここに戻れないかも知れない。そんなことを考えながら、熱帯夜真っ最中の部屋の中、冷蔵庫を開けてその前で涼んでいる。


「引っ越そうかな……」


 そもそもちゃんとした不動産屋を通してここに住んだわけじゃない。言わばお友だちの輪で初めての一人暮らし、大家さんちも近いからここにしなさいって親に言われて住み始めたようなものだ。


 確かに住みやすかった。だからこの春にもまた契約更新したんだけど、ちゃんとした不動産屋だったら、すぐに直してくれたかも知れない。そう思うと大家のおばあちゃんの笑顔さえ、なんだかイラッとしてくる。


「はあ……」


 中の物がだめになるので冷蔵庫を閉め、扇風機の前でため息をついたら、誰かが部屋のチャイムを押した。


「誰よこんな時間に……」


 時刻は夜の9時を回っている。疲れて帰ってきて、また汗だくになるだろうけどと水シャワーを浴びたところだ。


 ドアスコープを覗くと大家のおばあちゃんと、見たことないおじさん。誰だ?


 ドアを開けると、


「よかったわね、エアコン、直してくれるって!」


 話を聞くと、大家のおばあちゃんと懇意にしてる電気屋のおじさんが、


「あの部屋で二週間は厳しかろう」  


 と、忙しい仕事をなんとか終わらせて、時間を作って来てくれたらしい。


「ありがどうございまずぅ~」


 半泣きになりながら中に入ってもらい、作業が終わるまでの小一時間をうるうるしながら見つめてた。


「さ、これでいい。ちょっと動かしてみて」


 一週間ぶりの冷たい風。ああ、文明ってすばらしい!


 大家のおばあちゃんと電気屋のおじさんにお礼を言い、一週間ぶりに快適な夜を過ごすことができた。


 翌日、母に電話をしたら大家のおばあちゃんに即お礼の電話をしてくれた上に、地元の名物を送ってきた。


「お世話になった方々に」


 大家のおばあちゃんに届けて、電気屋さんにも渡しておいてもらうことにした。


「あらあら、そんなのいいのに」


 と言いながら、いつものニコニコ顔で受け取って、渡してくれると言ったおばあちゃんの顔はまさに仏様。


 その頃たまたまテレビで、


「この暑さでエアコンの故障が続き、修理に行けるまで早くて半月」


 と、大手の電気屋が言ってる映像を見た。新しいエアコンに関しては、機種によってはもっと時間がかかるとか。


 多分だけど、一週間というのはあの電気屋さんのおじさんにしたら、本当に最短、かなり無理をして時間を取ってくれたのだろう。


 工事をしながら、おばあちゃんが一生懸命頼んできた、あんなに頼まれちゃと笑いながら言っていたのを思い出す。そしてあんな暗い中で、自分が汗だくになりながら、一生懸命新しいエアコンの取り付け工事をしてくれていたおじさんの姿も。


「うう、熱帯夜の暑さより人情の厚さが身にしみる」


 快適な涼しい部屋で、しみじみとそう感じている。

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