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断罪、追放、処刑? できるものなら、どうぞ  作者: 逆立ちハムスター


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1/8

画期的な打開策

私は悪役令嬢である。

その事実に気がついたのは、十歳の誕生日に熱病で寝込み、前世の記憶が濁流のように脳内に流れ込んできた瞬間だった。

この世界は、前世で私がやり込んでいた乙女ゲーム『救世の乙女と聖なる誓い』の世界であり、私はヒロインの恋路を邪魔した挙句、最後には国家反逆罪や暗殺未遂の罪を着せられて破滅する公爵令嬢、ロザリア・フォン・アルシュタットなのだと。


「……だからと言って、誰が大人しく破滅してやるものですか」


鏡に映る、いささかきつめの、しかし非の打ち所がない美貌を持った幼き日の自分を睨みつけ、私はそう呟いた。

転生者だと自覚したからといって、世間一般の「転生令嬢」たちのように、みんなと仲良くお茶会をして好感度を稼いだり、平民のふりをして街角でパンを焼くようなスローライフに逃げたりするつもりは、毛頭なかった。

そもそも、私は他人に媚びを売るような過度な馴れ合いが嫌いだ。そして、公爵令嬢という至高の地位と富を捨てて、わざわざ田舎で泥にまみれて暮らすスローライフなど、退屈以外の何物でもない。私は贅沢が好きだし、何より、自分の尊厳を脅かす存在すべてを見下してやりたいという強烈な自負がある。


だが、破滅フラグという名の強制力は恐ろしい。

ゲームのシナリオ通りに進めば、数年後に現れる「聖女」たるヒロインと、彼女を取り巻く傲慢な攻略対象たちの手によって、私は奈落の底へ突き落とされる。

この運命だけは、どうしても、何が何でも回避しなければならなかった。

しかし、そのためにヒロインに頭を下げて「お友達になりましょう」などと擦り寄るなど、私のプライドが絶対に許さない。私を害そうとする者がいるならば、排除するか、あるいは、彼らの攻撃が一切通用しない「絶対的な存在」になればいい。


そう。敵の攻撃がすべて無効化されるなら、破滅フラグなどただの紙芝居の演出に過ぎなくなる。


何か方法はないか。私は十歳の日から、血の滲むような試行錯誤と調査を開始した。

そしてある日、私はこの世界が、かつて遊んだあの乙女ゲームの「仕様」を奇妙な形で引き継いでいることに気がついたのである。


ここは現実の世界だ。ゲーム画面のようにステータスウインドウが開くわけでもなければ、傷ついたからといって食べ物を食べれば体力が回復するわけでもない。強い甲冑を着たとしても、関節の隙間を狙われれば死ぬ。至極当然の物理法則が支配する、生々しい現実。

しかし、この世界の「超常的な法則」――すなわち神から与えられる「神の恩恵ギフト」の計算式だけは、前世の乙女ゲームのプログラムそのものだった。


そのゲームは、低予算で開発されたいわゆる「インディーゲーム」の一種だった。

注目すべきは防御力に関する計算式だ。

一般的な、そして調整がしっかりされた近代的なゲームであれば、防御力は「除算型」と呼ばれる計算式が採用される。

例えば「ダメージ = 攻撃力 × (定数 ÷ (定数 + 防御力))」のような形だ。この方式であれば、どれだけ防御力を高めても、ダメージ軽減率は100%に限りなく近づくだけで、完全にゼロにはならない。ゲームバランスを崩壊させないための、極めてスタンダードな仕様である。


だが、あのゲームが採用したのは、開発の利便性を優先した極めて単純な「割合による乗算型(実際には加算による割合累積)計算」だったのだ。

システム上、特定の防具や「加護」が持つダメージ軽減率は、直接パーセンテージで表されていた。

簡単に言えば、「軽減率10は、受けるダメージを1割減らす」「軽減率90は、ダメージを9割減らす」という仕様だ。

そして、この異なる加護による軽減率は、個別に掛け算されるのではなく、単純に「足し算(加算)」されてしまっていた。


10% + 90% = 100%軽減。


すなわち、受けるダメージは「0」になる。

物理攻撃であろうが、大魔法であろうが、はたまた即死級の毒であろうが、神の加護の合計値が「100」に達した瞬間、この世界のシステムはすべての被ダメージを無条件でゼロと判定するのだ。

現実の物理法則にシステムが割り込み、「無傷」という結果を強制的に出力する。


「本当に助かりますわ」


私は、自身の部屋で一人、不敵な笑みを浮かべた。

この仮説を証明するため、私は長年にわたり、自分の体を使って検証を重ねてきた。

例えば、庭園に咲き誇るバラの鋭い棘。あるいは、自室の机から取り出した鋭利なペーパーナイフ。

まずは何もない状態で指先を突く。当然、赤い血が滲み、鋭い痛みが走る。

次に、私はある「雑草」を用意した。

ゲームの知識から、王都の裏山を自ら這いずり回って掘り起こした、名も無き雑草。ゲーム内では「ミルドの草」と呼ばれていたものだ。

この雑草は通常、白色をしている。しかし、数万株に一株の割合で、稀に「黄色」の花を咲かす個体が存在する。その球根が目当てだ。

ゲームにおいて、これはヒロインが序盤に手に入れる初期アクセサリーであり、装備すると「ダメージ1割軽減」という効果が付与されるものだった。ゲームではテキストで探す。確率入手だが、現実だと思ったよりも辛い。しかし私は高位貴族。その辺はなんとでもなった。


この世界において、ステータス画面は存在しない。しかし、その球根を革袋に入れて身につけた状態で、再びペーパーナイフを自身の皮膚に押し当ててみた。


――驚くべきことが起きた。

ナイフの刃先が皮膚に触れた瞬間、目に見えない「見えない弾力」のようなものが刃を押し返したのだ。力を込めれば皮膚は僅かに凹むが、どうしてもそれ以上深く刃が入らない。痛みの感覚も、明らかに普段の「一割」ほど間引かれている気がした。

さらに、私はこの効果の限界を調べるため、わざわざ領地の国境まで赴き、隣国との境界線を一歩跨いだ場所まで距離の実験を行った。

結果は明白だった。国境を越えた途端、球根は何の効力も持たないただの塊になり、ナイフは私の白い肌を容易く傷つけた。

やはりそうだ。この「神の恩恵」という名の元ゲームシステムは、このグランツ王国内の領土、すなわちゲームのマップデータが存在した領域内でのみ適用されるローカルな物理法則なのだ。


すべては実証された。

[ミルドの球根]による軽減率10。

ならば、残りの「軽減率90」を満たす何かを手に入れれば、私はこの王国内において、完全なる不死身――いかなる断頭台の刃も、いかなる暗殺者の毒も通さない、無敵の肉体を手に入れることができる。


破滅フラグの回収? 王太子への釈明? ヒロインへの懐柔?

そんな面倒なプロセス、すべてゴミ箱に投げ捨ててやる。

私を断罪しようとするならしてみせるがいい。その時、執行人が振り下ろした大斧が私の首に触れた瞬間、火花を散らして粉々に砕け散る様を見るのが、今から楽しみで仕方がなかった。


「お嬢様、出発の準備が整いました」


重厚な扉が音もなく開き、一人の男が部屋に入ってきた。

引き締まった長身に、漆黒の軽装鎧を身にまとった男。私の専属護衛騎士であり、この世で唯一、私がその忠誠を疑わない男――ルードヴィヒだ。

彼は無口で、感情を滅多に表に出さない。しかし、その剣技は王国でも指折りの実力を持ち、何より、私のいかなる奇行や理不尽な命令に対しても、眉一つ動かさずに従う「本物の狂信者」だった。


「ご苦労様、ルードヴィヒ。馬車の準備は?」

「はっ。表に。護衛は私一人、お望み通り他の一切を排してございます」

「素晴らしいわ。行き先は、北の果て、ファルネーゼの廃村よ」


ルードヴィヒは「承知いたしました」とだけ答え、深く頭を下げた。普通の騎士であれば、なぜそんな不吉な廃村へ行くのか、なぜ公爵家の正規兵を連れずに二人だけで行くのかと問い詰めるだろう。だが、彼は聞かない。私が「行け」と言えば、奈落の底へでも道を作るのが彼の役目だと理解しているからだ。


私たちは公爵邸を密裏に出発した。

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