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神様のお使い  作者: 花香
四ノ話
31/46

伍、俺と御褒美が齎すもの

ちょっと長めになってしまいました。

楽しんで読んでいただけたら幸いです。



「なぁ、アレ見たか?」


「ああ、アレだろ。見た見た。」


興奮した声が上がるかと思えば、


「おい、知ってるか? 今、各国の神殿から調査員が向かってるらしいぞ」


「俺が聞いた話じゃ、中央神殿の神子様、御自ら行かれるとか」


ひそひそと仕入れてきた情報を交換し合う者たちの声。

それに俺は無関心を装いつつ、内心恐々としていた。


「すごかったな、アレ」


「あなたはどこから見た? 私は派遣先で見たんだけど?」


「ぼく? ぼくは南で見たけど。君は派遣先ってことは北?」


「そうそう。すごかったわよね~」


興奮冷めやらぬ声は、マージナルを訪れている奴らだけではなく、内部の奴らも話している。

俺はそいつらに話かけられることがないように、こそこそと書類片手に人気のない場所へと移ることにした。


まじ、勘弁。


俺の今の心境はこの一言に尽きる。

いま、内でも外でも大変な話題になっている内容。

それが何かは知っているし、あまつさえその原因が何かも分かっている俺としちゃー正直、耳に入れたくもない話だ。

俺なんかに話しかける奴がいるとは思わないが、知ってる手前きゃっきゃと話している奴らを前にどんな顔をしていいのか分からん。

ポーカーフェイスで切り抜けられるとは思うし、俺のことなんか気にもされてないから、そもそもどうってことないんだろうが……


「早く収まってくれないかな……ってか収まってくれ」


そんで、誰の意識にも上らないようになって欲しい。

切実に!


はぁ。っと吐き出した溜息が存外大きいことで、結構精神的にきているらしい。

そのことを自覚して、また溜息が零れそうになった。

 

こんなにも俺が参っている理由は簡単だ。

その原因があの“雪の女神さま”に関係することだからだ。

どういうことかと言うと




~~~ かいそうちゅう ~~~



「うわぁ~~~」


俺は眼前を埋め尽くすように展開されたその光景に、ぽかんと大口を開けていた。


すごい!


ただただ、凄いという単純で、陳腐な言葉しか浮かばないぐらいそれは凄かった。


「神のカーテンだ」


北の終着点、極寒の地でしか現れないとされ、その光景を目にできる機会は何十年、何百年に一度と言われる極上の光景が展開されていた。

遥か上空から、(いろ)とりどりの光の帯が風に揺れるように揺蕩(たゆた)っている。

絶妙な光彩は神秘的の一語に尽き、我知らず涙が流れるほどの光景だった。

しかし、


「あれ?」


ここからが問題だったのだ。

ゆらゆらと揺れる光の帯から、きらきらと別の光が瞬いていた。

それは光の帯の影に隠れるように、淑やかに、けど確かな存在感を持って溢れてきていた。


なんだあれ?


じっと目をこらす俺。

そして、見計らったように女神さまは言った。


<これが、お礼よ>


ほうら。と実に楽しげに、軽々しく手を振った女神さまは光る粒子を俺の方へと一斉に飛ばしてくる。

そのあまりの勢いにギョッとして、感動の涙はすっかり乾いた。

ついで、飛んできた粒子の実態を知って、固まった。


迫りくるそれは、最早粒子と呼べるものではない。

粒子と粒子が急速に結合し、粒は粒ではなくなり、結晶となり、塊へと変貌を遂げる。


よく目を凝らさなくてもわかる。

それは


「精霊結晶石!!」


しかも雪の精霊結晶石と、神のカーテンを凝縮した光の精霊結晶石だ。

それも、小指の先ほどの塊ですら高値で取引されている最上級ランクの。

その塊が小指の先とかいうみみっちいレベルではなく、拳サイズでいくつも飛んでくる。


ぶつかれば、タンコブどころではない。

当たり所が悪ければ別の世界に旅立てそうな、そんな凶器レベルの塊が勢いよく俺に向かってきている。


「ちょっと~~~」


そーれ受け取れーーーっとばかりに次々と襲い来るそれらを、俺は勢い余って打ち上げた。


すぱーーーん


ってな感じで、未だ手に握りしめていた白銀の剣を振りかぶって。


<あっ!>

「あっ!」


女神さまのびっくりした響きと、俺のやっちまったって感じの声が重なり


<きれいに飛んで行ったわね>


大きな塊は、大きな弧を描いて遥か彼方。

御仁方からの剣であるからか、たった一度振り切っただけなのに、幾つもあったはずの結晶石は一つ残らず今や遠い空へ。

拳大とか、それ以上の塊だったものが、再び細かな塊になって勢いよく遥か上空へと打ち上げられた。


そして、それは起こるべくして起こった。


<きれいな流れ星ね>


「いや、むしろ流星群じゃないですかね?」


ぼけらっと見つめている先で、打ち上げられた結晶石たちが物凄いスピードで地上へと降下し始めた。

流れ星とかいう可愛いモノではなく、流星群として。

雪の結晶石と光の結晶石であるからか、偶に見る流れ星なんて目じゃないぜと言わんばかりの光の帯を引かせながら、それはそれは盛大に降り注いでいる。


きっとあの流星群の到達地点は、明日の朝を迎えるころには冒険者のみならず、各関係各所がこぞって向かうことだろう。

何せ、見る奴が見れば流星群の正体が精霊結晶石だとすぐに気づく。

運が良ければ、かなりの数の最上級ランクの結晶石が形をとどめているはずだ。

そこに宿る力は、魔法師、魔導師や魔術師といった異能者もさることながら、神殿とか各国の王族とか権力者たちが喉から手が出るほど欲しがるに違いない。


特に神殿は凄まじいだろうな。

ハイエナのようにたかりそうだ。


光の精霊結晶石も大変珍しいが、雪の精霊結晶石の稀少価値で言えば雲泥の差だ。

何て言ったって雪の女神さまが知れ渡っていないのだから、雪の精霊結晶石の存在も知られてはいないはず。

ってことは……


「新しい神の誕生とか言われるかもしれませんね」


<そうね。とっくの昔に生まれてるけど>


何てーこった!

今の今まで何らかの事情で知れ渡っていなかった情報が、こんなことで公になるのか!


「すっすっっっすいませーーーーーーーん!!!!」


土下座だ!

直ちに、速やかに、謝罪をせねば!


死ぬ?

俺、死んじゃうの?

今日命日ですか?


御仁方の、天上の事情が絡んでるのに、俺なんかのせいで知れ渡るとか!

天罰レベルの話じゃないよ!

何て事してしまってんだ! 俺は!!!!


テンパって焦りまくりの俺は、ひたすら頭を下げた。

もう、下げる以外の何をすればいいのか、皆目見当がつかない。

そんな俺に女神さまは、こう仰った。


<まぁ、いいんじゃない? なるようになるでしょ>


女神さまだ!

いや、最初っからわかっちゃいるが、女神さまがここにいる~~~~~


慈愛に満ちた表情の女神さまに、俺はひたすら感謝の意を伝えまくった。

もう、涙をだらだら流しながら感謝しまくった。


俺、生き延びた!

死なずにすんだ!


もう、俺の中はこのことでいっぱいだ!

だから、欠片も気付かなかった。

俺がぺこぺこしている姿に、女神さまが悪戯な笑みを浮かべていることを。

そして、


「よかった」


心底安堵してへたり込んだのは、俺の部屋。

ぺこぺこしているうちに、いつもの如く俺の部屋へと帰ってきたらしい。

生還を果たした俺は、暫くの間ぼんやりと中空を見つめていた。

そんな呆けまくりの俺の脳裏に、麗しく悪戯な声が響いた。


<今回はありがとう。お礼の品は粉々になっちゃったから、新しいのを用意しておいたわ。

 これは、わたしのことを全世界に告知したことを兼ねてだから受け取っといてね>


その声の主は、先ほどまで話していた女神さまで、言葉の端々が刺々しい。

そのことに背中を寒くさせながら、新しいお礼って何だと首を捻る。

そして、目にした。


「これは……」


煌めく光は虹を内包した、新雪の如き眩い結晶。

サイズは小指の先ほどだが、その内包した力は雪と光の混合結晶。

女神の祝福を溶かしこんだ、神具を彷彿とさせるっていうか、そのもの?

というとんでもないモノが嵌っている指輪が、俺の左の小指に嵌っていた。


宝石の類を付けない俺は、当然のことながら引き抜こうとして


「うぎゃっっっ」


唐突に訪れた痺れと、凍える寒さに固まった。


<あっ、そうそう。言ってなかったけど、それ外そうなんて思わないでね。

 ず~~~~っと付けてないと赦さないから。外そうとしたら…………>


うふふふふっと軽やかな笑い声が脳裏に響く。


どうやら、女神さまは少々御立腹だったらしい。

そして、<それとね>と続けられたお言葉に、俺は頭を抱えた。




~~~ かいそうしゅうりょう ~~~


足早に廊下を歩きつつ、俺は女神さまからの贈り物を視界に入れる。

そこにはあの日頂戴したままの姿では流石にと冷汗をたらし、必死に懇願した甲斐あって一寸見ただけでは分からない細工がされた、鈍い輝きをした武骨な指輪が嵌っている。


「これからが問題なんだよな~」


その指輪を見ながら、俺は重いため息をついた。

どうしてかっていうと、女神さまがこう仰ったからだ。


<その指輪、あなたが吹っ飛ばした結晶をあなたが近づいたら回収する(・・)ようにしといたからね。 そうしたら指輪の格があがったりするかもしれないから便利になるかもしれないわ。>


ウソだろ! 


……と咄嗟に叫ばなかった俺は偉いと思う。

近づくってどの範囲が含まれるんだとか、これ以上神器の格を上げてどうしようというのかとか色々言いたいことはあったが、もっとも大きな問題はこれ。

回収が強制的に行われること!


俺の頭の中で俺の意思とは全然、まったく、これっぽっちも関係なく、この指輪が勝手に結晶の欠片をひょいひょいと吸収か何かする光景が頭に浮かんだ。

もう、血の気が引くとかいうレベルの問題じゃない。


これから先、確実に世間を騒がせる代物がマージナルに一欠片も来ないなんてことがあるわけがないんだ。

依頼品として持ち込まれることもあるだろうし、鑑定品とか、換金用とか様々な理由で来るはず。

そんな品々が所持者の手から忽然と消えるということが起これば……


騒ぎにならないわけがない!

そんなことが続けば対策に乗り出すわけで、そうなれば誰かしらが気付くはずだ。


気付かれたらどうなるか。

想像しただけで怖ろしい。


「どうか、気付かれませんように」


廊下の窓から空を見上げ、俺は儚い希望を吐きだす。


これからどうなるのか?


みんなの口から話題に上る度、そんで欠片の情報が上がる度にこそこそと人気がない方へと逃げることに、うんざりする。

だけど、逃げる以外にどうしようもないから、尚更うんざりだ。


「いっそ、全部さっさと回収しに行こうかな~~」


なんとなく呟いたことだけど、なんか一番それがイイような気がする。

まぁ、もういろんな国、神殿、企業団体、冒険者とかが我先にと群がってるだろうから、


「いまさら無理か」


その考えは一秒も経たずに潰えたわけで。。。


「あ~あ。かみさまからの贈り物は碌なのがないよ」


空を見上げながら黄昏たって、仕様がないって思わないか?





四ノ話はこれにて「完」です。

次話をお楽しみに~

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