四、俺と雪の女神さま
「あれ?」
真っ暗闇から浮上したら、そこには女神さまの笑顔がありましたとさ。
って、なんだ、それ。
自分に突っ込みを地味に入れつつ状況確認、状況確認。
あまりの寒さに気を失った俺は、本来なら洞窟内で凍死寸前だったはず。
でも、いまは何故か温かい空間にいるんだが。
ついでに周りは相変わらず吹雪いていているというのに、ドラゴンさえも飛べそうにない空中に浮かんでいる。
眼前の女神さまの微笑みを見るに、多分っていうか確実に女神さまの温情か?
<気がつきましたね>
俺がじっと女神さまを見ていたからか、目線が交差した。
おっと、いけないいけない。
いろいろ考えるのは後だ、後。
兎にも角にも、まずはお礼言っとかないと。
「ありがとうございます。おかげ様で凍死せずにすみました。」
たとえ目の前にいる女神さまのせいで死にかけたとしても、助かったのは本当だしね。
きっちりとお礼は言っとかないと。
心からの謝意を込めて。
深々と一礼。
その謝意を受け止めてくれたのか、女神さまが一層微笑む。
正直、ただの“一般人”の俺には過ぎた笑みだ。
そういう表情は、あなたを信仰している奴らに向けてやったらどうなんですかと言いたくなる。
きっと有頂天になって、より一層女神さまに傾倒するはずだ。
<うふふ。嬉しいことを言ってくれるわね。でも、わたしの顔を見られるヒト種はあなたぐらいよ>
「なんでです?」
<だって、わたしヒト種には知られていなかったはずだもの>
「そうなんですか?」
<ええ。地上種では竜種や幻獣たちぐらいしか、わたしを知らないはずよ>
はて? なんでまたそんなことになってるんだろ?
雪の女神さまについて、確かに俺も初めて聞いたが、俺が知らないだけで神官連中は知ってると思ったんだけどな。
全ての神を知っているとも言ってたし、知識の神だか、記録の神だかよく分からんが、そのへんのが神子を通して神さまのことを教えてるんじゃなかったっけ?
<……まぁ、いろいろあるのよ。>
いろんな疑問はその一言でスルーされた。
いろいろって何? と気になりはするが、そこは聞いてはいけないんだろう。
きっと何か俺にはよく分からん、やんごとなき事情があるんだろうし。
俺ごとき一般人が、おいそれと踏み込んでいいような領域でもない。
「それじゃ、今回お目にかかれた俺は相当ラッキーってことですかね。
神官連中に知られたら、さぞかし悔しがらせるんだろうな……」
って、場つなぎ的な発言でヤバイことに気付いた。
俺は神殿関係とは御仁方との件で既に睨まれてる。
そのうえで女神さまとのヒト種においてのファーストコンタクト的な立場って知られたら…………
ヤバイ!
軽く殺されるんじゃないか?
御仁方と会っているのは、バレる心配なんぞ皆無だからいいけど、神殿の神子が問題なんだよ!
時たま変な風に託宣を引っ提げて、ひょっこり現れるんだよ、奴ら。
「神の啓示が」とか、「神のお導きに従って」とか、何だかんだといちゃもんつけて現れちゃ~、神殿の厄介ごとを押し付けに来やがって!
いい加減にしろと叫びたい! でも叫べない、俺の弱い立場に泣けてくる。
ああ、やだやだ。
思い出しただけで厭になる。
絶対に、女神さまのことはばれないようにしないとな。
<ふふ。秘密の関係ってちょっと素敵ね>
ははは。
にっこり笑顔、ありがとうございます。
そんでもって、やっぱり全部筒抜けって悲しくなってくるんですけど。
<まぁまぁ。仕様がないじゃない。聞こえちゃうんですもの>
「……そうですか」
そりゃね。聞きたくなくても聞こえるんだろうから、仕様がないっちゃそうなんだろうけど。
<それにしても、う~~ん>
「どうかしました?」
<うん。どうしようかなって思って>
「なにがです?」
<治してくれたお礼よ。お・れ・い>
「いや、そんなウィンクつきで可愛らしく言わないでくださいよ。
正直、心臓が全力疾走しまくってて、きついんですけど。」
まじ、勘弁。
垂れ流し気味の女神さまオーラが厳しい。
血液が尋常じゃない早さで体を巡ってるし。
柄にもなく顔が真っ赤になってる自覚がある。
「お礼なんか別にいりませんから。」
手をパタパタしながら、必死に目をそらす。
お礼なんて本当にいいんで、そのオーラを何とかしてくれ。
いつもの空間の御仁方みたいにオーラを通常以下に抑えてください。
<もう。かわいいんだから~。でも、お礼なしは認めないわ>
認めないって………
<ええ。わたしの主義に反するもの>
えへんって、そんな胸張って宣言しなくても。
本当に気にしなくてもいいんだけどな。
御仁方のお願いごとなんだし、女神さまが気にすることもないと思うんだけど。
そんなことをつらつら考えているうちに、女神さまは閃いたとばかりに顔を輝かせた。
<決めたわ!>
そうして、驚くべき光景が広がるのは、最早確定事項。
女神さまのなさることに、驚かないわけがない。




