参、俺と初めての御対面
<ありがとう>
ぺこりとほんの微かに顎をさげたのは、見目麗しく荘厳にして、尊大…………な?
「………」
妖精じみた小さい身体をした……
「え~と、どなたさまで?」
<雪の女神です>
非常に愛らしい仕草で小首を傾げた女神さま(?)が、俺の目の前にぷかぷか浮かんでいる。
その姿は非常に愛くるしく、どっかの町でマスコットとして置いとけば、観光収入が増えそうな……
そんでもって威厳とかより親しみやすさが前面に出てるせいか、微笑ましい光景が広がりそうな。
「…………」
そんな妄想が俺の中で急速に固まってきている。
けど、そんなことは想ってるだけ。
単なるイメージだから。
本当のところは疑っているわけじゃない……よ?
うん、まさか神様って柄じゃないだろう、使い魔って言われたら納得するけど
……なんて思っていませんよ?
ええ、ええ。ご本人が名乗ってるんだから、そうなんですよね。
なんか、精霊よりも存在感薄いんですが、そうなんですよね?
<ほんとうですよ?>
そうですよね!
ええ、ええ、そうでしょうとも!!!
涙目になって訴えてきた女神さま(?)を中心に、ぶわっと一瞬にして冷気が漂ってきたので
「お目にかかれて光栄です。」
とりあえず、慌てて呆けた面を引き締め丁重に跪く。
この力一つで神様である証明には、十分すぎる。
疑うべくもない。
ええ、俺は信じていましたとも!!
だあら、あの…………この極寒地獄は勘弁してください(涙)
<あなたのがんばりで漸く体調がよくなってきました。>
ほぅ。っと息をついて女神さまは、
「何か、身体が大きくなってきてませんか?」
さっきの妖精サイズがウソだったかのように、急成長を続けている。
そう、続けているのだ。
毎秒一回りぐらいの早さで、着々と大きくなってきている。
「どこまで、大きくなるんですか?」
そう聞きたくなる俺の心情は、間違ってないと思うんだ。
そして、
<あと2倍ぐらいは>
軽く言い放たれた言葉に、愕然と言葉を失くしたのも、しょうがないと思う。
だってさ、
「もう天井まで頭ついてますよ」
狭くない天井に頭すれすれになってるってのに、それの2倍!!
正直、逃げたいんですが。。。
<あら? 窮屈なのはイヤね。それじゃ~、えいや>
気合いも減ったくれもない声とともに、視界が真っ白になる。
その力の余波を受けて、俺の服は盛大になびき、急いで前かがみになってなければ、その辺の石ころとかと同じように洞窟の奥へと叩きつけられたに違いない。
その事実に血の気が引くが、血の気とともに踏ん張ってる足が浮いたらシャレにならん!
あれ?
前にもこんなことがあったような………
いやいや、そんなことを今は考えてる場合じゃない。
今はとにかく、踏ん張るんだ!
ここはぐっと、踏ん張るしかない!
<これで大丈夫ね>
そして、ひどく満足げな声に前を向けば、満面の笑みを浮かべて愛らしい顔のままの女神さまが洞窟の天井を粉砕し、仁王立ちしていた。
その頭上には白い世界が広がり、
「メチャクチャ、サムインデスケド」
猛吹雪でホワイトアウトした世界から、怒涛の寒さというプレゼントは全く嬉しくなかった。
<ああ、本当に助かりました>
ほぅ。さきほどよりもかなり満足げな吐息は、白銀の世界の中、唯一の美しさを醸し出している。
しかし!
「…………ソロソロ シニソウデス」
哀れ。俺は凍死寸前。
女神さまが一呼吸するだけで増量し、加速度的に寒くなっている気温に、がちがちに震えまくっている。
<あら、軟弱ね~>
いや、今の俺の格好を見てそれを言いますか?
ここは、今しがた突如豪雪地帯になったのだ。
俺は比較的に温暖な気候に適した格好はしているが、豪雪地帯向けの格好をしているわけじゃない。
長袖ではあるが、厚みのないぺらぺらの服装の俺が、こんな極寒の中で元気いっぱいでいたらおかしいだろう。
<もう、しょうがないわね>
そうやって心底楽しそうに言うのは、何か間違っている気がするんですが?
でも、文句なんていいませんから。
何も愚痴ったりとかしませんから、どうにかしてください!
もう、ヤバいです!
俺の視界が塞がってきています!
ああ、ヤ バ イ……
なん だ か ね む く
俺は抵抗空しくその欲求にあっさり負け、周りに広がる世界と同じように白い世界へと沈んで行ったのだった。