9 ちょっと、君。付き添いの人?
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「ちょっと、君。付き添いの人?」
「あー、そうです。そうです。それで、どうなんでしょう。監督は、無事ですか?」
「んー、今のところ、意識が戻るかどうかの境界でね、何とも言えなんだけれど、んー、その、怪しいところがあって、精密検査をするよ。」
「怪しい所って、命に係わることですか?今、最後のシーンが明日で、大変なんです。監督がいないと、絶対いないと、ダメなんです。」
「ああ、映画監督って言ったね。その、あれ、そういった業界では、多いと聞くけれど、その、良くない薬っていうか・・・。」
「何ですか?監督、薬は好きじゃないです。結構年いってるんで、風邪ひいても気力で治―す!とか言う方の人です。昔かたぎっていうか、職人肌っていうか・・・。」
「うーん、そっちの薬じゃなくて、その、犯罪の方。」
え?という顔のまま、僕は、しばしぼうっとした。ピンとこない。あんまりに畑違いだけど、ああ、意味が分かった。テレビで芸能人が捕まるやつだ。人間やめますか?ってやつだ。そんな・・・。
「ま、や、く?監督が?」
「そうだね。もう、警察には連絡済だよ。君を含めて関係者には、精密検査を受けてもらうよ。おや、なんて目で僕を見るんだ。自分でまいた種って奴だよ、発見した医者を恨むなんて筋違いってもんだよ。」
僕は医者に抱き付いて、懇願した。監督がそんなことするはずがない、とか、もともと人間じゃないのにやめる必要がない、とか医者の胸をドンドンと叩きながら、涙でくぐもった声で、監督の無実を訴えた。医者はあんまり僕が熱心に監督を思っているので、こりゃ自分が心無い言い方をしたと思いなおしたのだろう。僕の手を取り、さすりながら、なだめるように優しく言った。
「すまなかったね。どうも業界関係者だと思って、決めつけていたようだ。」
「
君たちが熱い師弟愛で結ばれていると、よく分かったし。そもそも無実の人はそんなに恐れることじゃないんだ。検査で疑いを晴らせばいいんだよ。だから、そんなに嘆かなくていいよ。もうすぐ、警察が来るから、もう一度、監督のことを話すといいと思うよ。」
医者は、僕の背中を優しくなで、低い落ち着いた声で丁寧に説明してくれたので僕は徐々に落ち着いてきた。
そこへ、二人連れの刑事がやってきた。安そうなスーツを着た普通のサラリーマンみたいだ。書類カバンを持っていないところが、どこか手持ち無沙汰な印象を醸し出している。二人は、僕に近づくと、胸ポケットに手を入れた。僕は、緊張しながらも、どこか人ごとのように、ああ、それはやるんだ、本物も、と思ったりしていた。
思いのほか、甲高い声で背の高い方の刑事が、手帳をひらひらさせながら、
「えー、あなたが安川さん。」
僕は、そう聞かれると、分かっていたのに、なんだか急にしどろもどろになって、
「えーと、はい。そうでございます。悪いことはしていません。」
と、完全に怪しい受け答えをしてしまった。刑事たちがちょっとだけ、顔を見合わせて、目配せをしたように見えた。ああ、なんか疑われてる。
「あの、そんな風に身構えなくても大丈夫ですよ。とりあえず、署まで来てもらえるとありがたいけど。どうかな?」
「いえ、どうもこうも、悪いことはしていませんから、行きたくないですけど、刑事さんたちに勝てるほどの武術も身についていない状態ですし、逃げると余計に疑られるというのも、テレビで散々学習していますし、このような場合、署をお断りすることは良くないと、私は分かっています。」
ああ、疑われてると思うと、自然に両手を前に出しそうになってしまう。
二人の刑事は僕の背中にそっと手を添え、パトカーに案内した。そして、パトカーはサイレンを鳴らさずに警察署へ・・・僕の意識は、その辺は閉じていたらしい。気が付いたら、取調室1と書かれた部屋の前にいた。一人の刑事が椅子を手前に引いてくれて、椅子に座るよう促された。、背の低い方の刑事から、自分は幸田で、こっちが仙田だと紹介を受けた。幸田と名乗ったちょっと偉そうな刑事は、僕にたくさんの書類にサインするように指示した。しっかり読んで同意したら、自分の名前を書くようにという割に、次の書類を渡すペースが速い。結局、国家権力を信用して、ろくすっぽ読まずにどんどんサインすることになってしまった。ちょうど、サイン攻めが終わるころ幸田刑事が口を開いた。




