【第二章】第三十部分
「このランナーを返さないとマイナス一点となり、負けてしまうよ。」
焦っている美散を見つめていたマウンド上のエロザは、小さなボールを二個手に持って、小さな声を出した。
「ドレイクノハ、コレグライ大キカッタデショウカ?」
「な、何のことを言ってるんだよ!いったい、いつ見たんだよ?」
赤面した美散の知識と情報レベルは不明である。
ツーアウト、ランナー一塁で、バッターはランボウである。
「同じ手は通用しないぞ。」
ランボウは普通のバットを持ってバッターボックスで構えている。
「ソレデ、ワタクシヲ倒セルトデモ?イイデショウ。ソノ工夫ノナサニ、敬意ヲ表シテ差シ上ゲマス。オーホホホッ。」
全力で振ったら、米粒のように小さ過ぎてバットに当たらない。バットに当てるだけを意識して構えても、バットに当たれば被膜が剥がれるだけ。こうして何もしないまま、ツーストライクに追い込まれたランボウ。特別ルールで、あと一球でチームも敗戦となる。
「策がない!しかし、バット振らなきゃアウトだ、バット振らなきゃアウトだ。ままよ!」
エロザの投じたスモールボールに向かって、全力でバットを振ってしまったランボウ。
『ボク、ドラエロ悶。バッター、空振り、万事休す。』
ランボウはバットを振ったあと、その反動でからだも激しく回転していた。その勢いは風となり、キャッチャーミットの手元を狂わせた。
「ボールガ、コボレテマス、振リ逃ゲデス!」
キャッチャーはボールの行方がわからない。あまりにもボールが小さいからである。
「チャンスですっ!ホームまで走るですっ。ナッキーが初めて活躍できるですっ。うわ~ん。」
すでに泣きモードになったナッキーは、二塁を蹴って、ホームベースに突っ込んできた。しかし、キャッチャーは足元に転がっていたボールを見つけてナッキーにタッチにいく。
「タイミングはアウトですが、もう止まらないですっ!うわ~ん。」
泣きをさらに増幅させて滑り込んだナッキー。キャッチャーはしっかりとナッキーにタッチした。
『ボク、ドラエロ悶。ランナー、アウト!』
「ダメだったよ、キャプテン、ごめんなさいですっ。ううう。」
『ボク、ドラエロ悶。間違えた。セーフ。』
「いったい何が起こったんだ?」
すでに一塁ベース回っていたランボウは立ち止まってホームベースの戦況を見ていた。
キャッチャーミットからボールがこぼれていたのである。
『ボク、ドラエロ悶。ランナーの涙でミットがぬれて、ボールが滑った。』
キャッチャーは慌ててボールを拾い上げて、ファーストに送り、バッターランナーのランボウにタッチした。
「試合はどうなるんだ?同点ということ?」
美散の疑問に、ランボウは即答した。
「そうだ。延長戦に突入することになる。さあ、仕切り直しだ。」




