【第二章】第九部分
「こうなったら、ミスターヌメリックのようなイリュージョン魔法を使うわ。」
ミスターヌメリックは魔法使いではなく、マジシャンである。
「こうすれば、玲駆はエロザから離れていくハズよ!ヨイショッと。」
智流美は、背中の大きな荷物から黒いビニール袋を取り出した。
「う~。気持ち悪いわ。こんなの、早く手放さないと。ぶわ~!」
ビニール袋をエロザの背中に向けて投げつけた。体力は十分な智流美であり、投下物体は見事にエロザに到達した。
「きゃあああ!」「虫よ!」「それも節足動物の多足類主体だわ!」「キモイ~!」
エロザの周りにいる女子たちは一斉に悲鳴を上げた。
「やったわ。これで『エロザ・彫り物背中統合体』分離に成功したわ!」
エロザたちは断じて統合などしていない。
虫は生きている限り動く。虫たちは地面の脇に次々と消えていった。
エロザは虫よけした時、玲駆の手を離した。玲駆はひとりでさっさと前に進んでいった。
その場に立っていたエロザは、智流美に向かって言い放った。
「ワタクシハ、貴女ノ彼氏デアル宍戸玲駆ヲ、奪ウコトヲ、此処二宣言シマス!」
「いい根性してるわね。ならば正々堂々とかかって来なさいよ。横綱相撲で土俵の外に追い出してあげるわ。」
睨みあっていた状況から、くるりとからだを回転させて、自分の後方に向かって声を発する智流美には、すでに敗者のオーラが影を落としていた。
『中日山』という名前の小高い山への遠足は始まった。
玲駆とエロザを先頭にして、後ろに大量の生徒たちが二列になって追随するという構図。二人一組の相手と列におけるポジションが抽選で決まっており、玲駆とエロザが先頭のペアとなっていた。
大きな荷物を抱えながら、玲駆の5メートル後ろを歩いている智流美は、不快な思いも背負っていた。智流美は相手がなく、ひとりで、今の場所になっていた。偶然とは思えず、やはりボッチ本能がフル稼働していた。しかし、智流美は強気をキープしていた。
「エロザにはサラリと大勝利するハズなんだけど、その前にこのモブたちをどうにかしないとね。どうしようっかな。」
首を傾げる智流美の耳に、遠くから轟音が聞こえてきた。平坦な道から山道にさしかかったところで異変が起こったのである。
「きゃあああ!モンスターが出てきたわよ。白い刀を二本持って暴れてるわ!」
後方の女子から悲鳴に近い声が聞こえてきた。
「モンスターだって?アタシの魔法で魔界から召喚したのかしら。きっとそうに違いないわ。」
モンスターは玲駆の方に向かって走っていった。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「宍戸くんが危ないわ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
女子たちは我先に助けようとするが、モンスターに威力に弾き飛ばされてしまう。
「逃げろ、俺に構うな。」
玲駆は大声で叫んだ。しかし、さかりの付いた女子たちには、『逃げるな、俺を庇ってくれ!』と聞こえていたため、多くの女子たちがモンスターに立ち向かっては、無残に倒されていった。
あたりには敗戦兵士の女子の残骸が溢れた。やがてモンスターはいずこかへ消えていった。
モンスターの出現で、約半分の生徒が回収され、消えていったが、行事は続行された。
「イノシシが出たらしいわよ。」
モンスターの正体はイノシシであり、召喚魔法ではなかった。




