【第一章】第二十八部分
翌日の早朝。トンネルを抜けると、自然に人間大の制服姿に変わっていて、そのまま学校へ行く智流美。
制服はからだが変化したのではなく、白黒の影が支給してくれていたのである。この前は追いかけられていたので、その事実に気づかなかっただけである。智流美は、白黒影にはそういう役割があるのだと解釈した。
いつもの通学路を歩く智流美。
「アタシは初めて歩くんだけど、美散の記憶通りだから新鮮味はないわね。周りの生徒がみんなモブていうか、野菜が歩いてるように見えるわね。」
美散は決してそのような見方をしていない。魔法人格が本人のコピーではないことが完全に立証された。
「あっ。あの背中、玲駆だわ。昨日見たのと似た筋肉、骨、皮膚、体毛だわ。」
同一人物なのだから、当然同一体である。玲駆までの距離は5メートルだが、智流美の動態視力はバツグンであるらしい。服の下まで透視できているのかどうかは不明。
「よし。じゃあ、ミッションにチャレンジするわよ。当たって砕け散っても問題ないわよね。うんうん。」
命令を遂行する気があるように思えない状態で、玲駆にアプローチする智流美。
しかし、想定外にも、玲駆が先に智流美に話しかけてきた。
「美散、久しぶりだな。軽く不登校するって話だったけど、意外に早く戻ってきたな。元気そうで何よりだ。少し筋肉がついたか。」
玲駆は智流美の胸元をチラ見した。慌てて胸をカバンで隠した智流美。
「べ、別に変わってないわよ。」
会話はこれにてあえなく終了。しかし、智流美は自分の胸を押さえたままだった。貧相さを隠しているのではない。
(カ、カッコイイわ。正面から見ると全然違うわね。こんな男子がいるなんて聞いてないわよ。アタシ、もっと玲駆とお話ししたい、彼のこと、知りたいわ。)
智流美は胸のドキドキを他人に聞かれないために、カバンを防波堤にしていたのである。
「あれ?イケメンの姿が見えないわ。」
智流美がモジモジしているうちに、玲駆はさっさと学校へ行ってしまったのである。残念ながら、ふたりのドライな関係はキープされていた。
トボトボと力なく足を進めていた智流美の前を、赤いランドセルを背負った、おさげふたつの幼女が歩いていた。幼女の横にはアパートの建築現場があり、早朝で組立作業は行われていなかった。しかし、突然強い風が吹いて、柱が一本抜けて、幼女の方に飛んでいった。幼女は飛来音に気づいたが、時すでに遅く、柱は幼女の頭上を襲った。
「きゃああ!」
『ドン!』
恐怖のあまり、顔をしかめた幼女の悲鳴は、衝突音に打ち消された。道路に土煙が舞った。
「た、助かった?」




