第15話 筋肉賛歌! 己の道は筋肉で切り拓け!
筋肉回後編
前回の荒筋。
あらゆる説明は筋肉で解決する。
「心の弱さ……」
静かに放ったその言葉が何よりも俺のことを重く揺さぶった。
「たまたま洗脳されぬ者がいたおかげで持ち直すことができたのだろうが次もそうとは限らない。お主は神から与えられた力で無敵だと思っているだろうがその心までは強くない、それが唯一の弱点である」
俺の心を見透かされてしまった言葉に何も言い返すことができず黙り込んでしまった。
「ならば俺はどうすれば邪な気持ちを捨てることができるのですか!」
「ワタシが筋肉を受け入れるにはどうすれば!」
吹き飛ばされた2人が戻ってくるとマスキュリフォンが天を突くポーズを取り、叫んだ。
「己の筋肉と向き合い、ガムシャラに鍛えるべし! さすれば筋肉は道を切り開くであろう!!」
「うおおおおおおぉぉぉ!」
「やあああああぁぁぁ!」
「おらああああぁぁぁ!」
俺達は筋肉広場で友とガムシャラに筋肉を鍛えていく、ここでは筋肉の疲労とダメージは瞬時に治り無限に鍛えることができるのだ!
「駄目だ貴様ら! 筋肉が縮こまっておるわ!」
「おお、マスキュリフォン様が直々に指導なされているとは!」
「我らも負けてはいられぬ、筋肉1発!」
俺達の様子を見た他の男達がより激しく修行に励む。
それを見ると自分の心に火がつくのを感じた。
「おりゃあああああ!!」
「うむ、そのいきである!」
力が∞のステータスを持つ俺でも持ち上げるには本気で挑まなければならない謎のバーベルを持ち上げながら音速で動くベルトコンベアを走る。
上からは滝が流れ来て水と共に丸太や龍が降り注ぐ、この以上な事態にも関わらず俺の筋肉はまだまだと熱く燃えたぎっていた。
「休息である! 各自クールダウンを行いプロテインの補給をきっちりするのだぞ!」
マスキュリフォンが大型のタンク車を持ち運んでくるとマッチョ達は一斉に駆けつけ全身でプロテインを補充しだす。
「マサル、俺達も行くぞ!」
「早く行きましょう!」
「応!」
俺達も遅れてなるものかとタンクのもとに走り全身でプロテインを余すことなく浴びると疲労した心に力が戻り体に輝きが宿る。
「ええい! まどろっこしい! このぐらいせんか!」
ホースからかわりばんこに浴びていた俺達を見てマスキュリフォンが痺れを切らしたのかタンクに拳を叩き込むと中身を炸裂させプロテインのビッグウェーブが筋肉広場を押し流した。
「休息終了! 筋肉鍛錬に励むべし!!」
やっていることはハチャメチャで何の論理も科学的な根拠の無い事ばかり、なのに全員が顔と筋肉を輝かせ修行に励んでいる。
時間という概念のないマッスルワールドではもう何時間たったかわからない、もしかしたら何日、何ヶ月も鍛えているのかもしれない、ガムシャラに鍛えた俺達は1秒前より強く逞しい体と心になっていった。
「そろそろ良いだろう、最終試練だ、お主等でこのワシを倒してみよ!!」
今まで持ち上げるのにすら苦労していたバーベルでお手玉をし、光速を超え過去と未来へ行き来できるスビードのベルトコンベアを休みながら走り、滝から流れてくるものが全部リヴァイアサンになっても動じなくなった頃、マスキュリフォンがそう言った。
「では行きます!」
最初に動いたのはユリヤだった。
地を蹴ると地面が抉れ一瞬にして強烈な拳を筋肉神の腹筋に叩き込んだ!
「ハッ!」
間髪入れずにポピンがその逞しい脚で顔面に流星のような飛び蹴りを仕掛ける。
「どりゃあ!」
俺は瞬時に後ろに周り背中に肘打ちをかました。
この連撃にマスキュリフォンはたまらず崩れ落ちる。
「よく見るが良い!」
目の前にいるはずのマスキュリフォンが全く別のところに腕を組み佇んでいた。
それどころか3人で攻撃したのにもかかわらずそれぞれ別の位置にいる。
「あれは筋肉神様から放たれる筋肉の光が眩しすぎるために出る筋肉の影! これは心の闇が現れたものであり過去の自分自信と戦わねばならぬのだ!」
1人のモブマッチョがそう解説を入れると目の前のマスキュリフォンだと思っていた何かが黒い自分に変化した。
「なぜ俺は受け入れられんだ」
「な、これは!?」
「なんで皆ワタシを拒絶するの…。」
「ワタシ!?」
「俺は最強だ、最強なんだ!」
「俺の心の闇……」
「見事己の筋肉に潜む闇に打ち勝ってみせい!!」
目の前の黒い自分に対峙する。
闇は恨み言を呟きながら襲い掛かってくるが鍛えに鍛えた俺達の敵ではなかった。
「どうせ俺なんか……」
「倒れん!?」
闇はどんな決定的な一撃を加えても直ぐに立ち上がり再び襲い掛かってくる。
吹き飛ばしても粉々にしても瞬時に再生し迫り来る様は心のそこから這い上がってくる闇そのものだ。
「ワタシはこんなに苦しんでいるのに」
「……………。」
激しい猛攻を凌ぎながらユリヤに目をやると一切の抵抗を見せずに佇んでいた。
「ユリヤ! 危ない!」
今にも殺されてしまいそうなユリヤを助けに行こうとするが自分に遮られ動くことができない、せめて声をかけるが彼女は目を閉じ諦めたかのように見えたその時。
「もうワタシは目を逸らし逃げたりしません貴方と向き合います」
ユリヤが黒い自分を抱きしめ、そう言うと跡形もなく霧散した。
「そうか、俺もわかった。己が選んだ道に後悔はない! 俺はこのままの自分を突き進む!」
ポピンが影に拳を打合せるとまたもや消滅した。
「俺は最強なんだ、誰にも負けることなんてない……」
「違う、俺は弱いんだ。少し心が揺さぶられただけで参ってしまうほどに」
黒い俺が迫り襲い掛かってくる。
「だからもう俺達は惑わされたりしない、自分の大切な物を失わない為に」
自分に言い聞かせるように言うと黒い俺が笑みを浮かべたかと思うと消えてなくなった。
「見事也! よくぞ己の闇に打ち勝った! お主達はもう迷うことなどない! さぁお主らの世界に帰るが良い、道は切り開かれた!」
マスキュリフォンが手を広げ高らかにそう言うと視界がグニャリと曲がり、自分のベットの上で目が覚めた。
「お礼も言ってないのに……」
鍛え導いてくれた礼できぬまま帰されてしまったが、果たしてこれは現実だったのたろうか?
自身が見た都合の良い夢なのかもしれない、だが心に宿る熱い想いと確かな決意は幻なんかではないと思った。
「おはよー」
「おはようございますマサルさん!」
朝ご飯を食べに部屋を出るとユリヤがすでに準備をしていてくれた。
「昨日さ……あれ?弱体化の指輪はどうしたんだ?」
昨晩の夢について話をしようとした時ユリヤの指に何もついてないことに気が付く。
「マサルさんも見たんですよね? 自分を受け入れたおかげで指輪がなくてもコントロールができるようになったんです!」
そう言いガッツポーズを取ると、その腕だけが筋肉質なものに変化した!
「やっぱり女の子として全身ムキムキのままいるのは恥ずかしいですけどね」
「いや、ムキムキのままでもユリヤの良さは変わらないよ」
そう言うと照れくさそうに頬を染め後ろを向いてしまった。
「おおマサル、昨晩は……」
「ああ、凄かったな」
ギルトに入るとポピンが立っていた。話しかけるとやはり同じ夢を見ていたらしく改めて内容を語り合った。
「決めたよ、俺はゴリマッチョだなんだと言われてもこのままの道を突き進む」
「そうだな、それがいいよ!」
昨日のやけ酒をして取り乱していたポピンとは違い真っ直ぐな目をして語るその姿は前よりもいっそう逞しい男の姿がそこにある。
「あ、あのーポピンさんですか?」
楽しく食事をしてると可愛らしい女の子がポピンにおずおずと話しかけてきた。
これはもしかして?




