日記帳Ⅱ 会いたくて
「——って訳なんだ」
「うん、波瑠の言いたいことは分かったよ」
うちは同じ部活の同級生、中村顕子こと「あっこ」に、幼馴染の優太から聞いた話をした。そう、8ヶ月前に亡くなった後輩(しかもそれがうちの従兄弟)と回葬電車なる電車内で会って、ミサンガをもらったという話だ。
どうしてもその話は信じ難いっていうか……現実味がなさすぎた。だけど後輩(うちの従兄弟)からもらったというミサンガはちゃんと存在しているから実話のはず。そんなことを考えていたらだんだんよく分からなくなってきて、誰かに聞いて欲しくなった。それに、あっこはこういう話をしやすい相手だし。
あっこにこういう話をしやすいのには、ちゃんと理由がある。
実はあっこは、"現世"の人と"間の国"の人の血を引いた人物らしい。
間の国は、妖怪や幽霊、死の国に行けなかった魂や不思議な力を持つ人々が住む世界のこと。確かお母さんが間の国の人で、その人の血を引いているから、あっこは不思議な力が使える。何回かその力を目の当たりにしたことがあるから、きっとそれは本当のことなんだろうと思う。その代償なのか、目は見えないけど。
あと、母親が異世界出身だから、異世界にも詳しい。異世界といっても、ネット小説にありがちな怪物や魔物がいる世界じゃなくて、さっき言った"間の国"みたいなものらしいけど、うちはよくは知らない。
「……どう思う?」
全てを話し終えた後、困った顔をしているあっこに聞いてみた。あっこはしばらく考え込んだ。
「回葬電車の存在は確かだよ。だけど……」
あっこは浮かない顔でうーんと唸った。
「回葬電車には……車掌なんていないはずだよ?」
「そうなの?」
「うん……うちの記憶が正しければね」
うちは思わず、ため息をついた。
「……そうなんだ」
あの話は、嘘だったのかな。
でも、もし嘘ならあの傷痕は? ミサンガは?
だんだん分からなくなってきた。
「——会いたいの?」
唐突にそんなことを言われ、どきりとする。
「……なんで?」
「そんな感じの声してたから」
あっこは目が見えない。でもその分、他の器官は発達しているのかな、なんて思う。普通に、なんてことない風に話したつもりなのに。
「……うん。会いたい」
——本音が、バレるなんて。
「ごめんね、波瑠」
「ん?」
「生者が死者に会うことは、出来ない」
——音が消えた。
「例外はあるよ。だけど今回は、例外には入らない」
——あっこが言うなら、間違いない。
だけど。だけど。
分かっているけど。
予想はついていたけれど。
でも。
でも。
「……例外って?」
諦めきれない。
「死者が死の国に入る前に現世に戻ってきたいと願った時。生者が誤って花畑に迷い込んだ時。死者が死の国には行かないと決めた時。大体は回葬電車とかそういうのに乗っている死者は死の国に入ったことがあるから……多分、無理だよ。
——多分、ちりかちゃんだっけ? 彼女はきっと、現世に戻ろうとは思わなかったと思う。だから死の国に行って……話を聞く限りだと多分、もうすぐ死にそうな人を死ぬ前に現世に戻すために、回葬電車に乗るようになった」
「でも、花畑に行ければ……」
食い気味に問うたうちに、あっこはゆるやかに、首を振る。だめだよ、と言うように。
「死の国に行った人は、花畑には戻れない。それに、生者が花畑に行くなんて、よっぽどのことだよ?」
「……そっか……」
ひとつ、深呼吸。
「教えてくれてありがとね、あっこ。またね」
「うん。またね」
そして、あっこに別れを告げた。




