トイレに半日ですか?(2)
職員室は、ドアを開けるとすぐに目立つところに《禁煙》と大きく書かれた紙が貼られている。
今時はどこも、喫煙者が肩身の狭い思いをしているようで、先生たちも辛いようだ。
その結果、校庭の裏で先生がこっそりタバコに火をつけてしゃがみこんでいる姿を確認できる。その姿は昔の不良である。
「この間、担任が不良してるのを発見して、ジュースをゴチになった」
そういう場面は生徒には見せたくないものだが、禁煙できない(する気のない)先生にとっては致し方ないようだ。
「先生にたかるのは……ありだな」
「重吾もたかるもんな」
「たかるとは酷いな。平和協定を結んだだけだ」
「弱みに付け込んだんだろ」
「タバコは害だと身をもって教えただけだ」
「体に害と言うよりは、財布に害だな」
職員室に入りながらする会話でもなさそうだが、そんなことは関係ないのが中学生だ。
「お前たち、何を騒いでいる?」
担任が声を掛けると、他の先生が一斉に目を向ける。
この雰囲気はどうも好きになれない。
それでも、用事があって参った次第だ。踵を(きびす)返すわけにはいかない。
二人は担任の机へと近づくと、真面目な顔を作りながらお互いをつつきあった。
これは、『お前が言えよ』『いや、お前が聞けよ』と言う合図である。
「譲り合ってないで、さっさと言いなさい」
「譲りあうと言うよりはなすりつけあっているわけで」
健太が照れくさそうに言うが、そんなことは分かりきっている。
「先生、蜜芽は休みですか?」
重吾が言うと、先生が二人を交互に見た。
「どうして休んでるんですか?」
先生の顔が曇る。
「やっぱり、トイレから出られないほどのピーピーですか? だから、先生も理由が言えないとか」
どうも下痢から離れられない健太である。
「ピーピー?」
さすがにどこをどう押したらそんな回答が出てくるのか、先生の方が聞きたいようで、逆に聞いてきた。
「何で下痢だと知ってるんだ?」
「やっぱりゲリラ的なピーピーなんですね!」
やたら嬉しそうに『ピーピー(下痢)』を連呼する健太に、重吾が思わず後頭部を叩いてしまった。
「職員室で暴力を振るうとは、重吾も未来を捨てたな」
頭をさすりながら健太が笑っているものだから、先生も笑うしかなかった。
結局、健太の『下痢』という理由以外に収穫がないまま始業のチャイムが鳴り響いたのだった。




