トイレに半日ですか?(1)
学校は蜂の巣を突いたように騒がしい。
それもそのはずで、どのグループも夏休みの計画をたてることで盛り上がっているからだ。
「夏休みにうちでスイカ割りしようと思うんだけど、みんな来ない?」
親が聞いたら、スイカではなくボールでも叩いていろと言われそうだ。
「旅行に行くんだけど、親にハワイがいいって言ったら、スルーされたよ」
どこの親でもスルーするだろう。
「オレは親戚の家に遊びに行くよ。北海道なんだ、いいだろう」
そりゃ結構な話だ。
「プールに行こうよ。市民プールだったら、お父さんが車出してくれるよ」
親も大変な努力である。
まぁ、そんなこんなの計画が飛び交っている。
授業開始のチャイムが鳴っても気がつかない生徒もいるくらいで、先生に怒鳴られるという一幕まである。
生徒が席に着き、授業が進む。
まともに先生の声を聞いてノートを取っているかと思えば、ノートの端に絵を書いてパラパラとやっている者がいたり、ノートを切って手紙を書いている者もいる。
消しゴムを必死に削って、カスを集めて練り消し作りに余念のない者がいたり、先生には見えないだろうと、机の中にマンガ本を忍ばせて、勉強している振りに全力を注いでいる者までいる。
いつの時代も子供のやることは変わらないのだ。
先生はと言えば、分かっちゃいるがうるさく言っても仕方が無いと思っているのか、諦めているのか、これと言って何も言わずに授業が過ぎていく。
重吾と健太もそれなりに、授業が流れていくに任せて暑さの中で、なんとなく鉛筆を走らせているのだ。
もちろん、重吾は一応黒板に書かれた文字を書き写し、健太は教科書に落書き中である。
その落書きは、完成と同時に隣の生徒に披露されるのが常だ。
これが結構面白くて受けがいい。
(これだけ受けるんだら、ネットに載せようかな)
などと、考えていたりする。
そういったことには労力を惜しまないのだからおかしなものだ。
ところで蜜芽はというと、未だに登校してきていない。
午後になり、健太の一番好きな給食も終わると、さすがに不安が増してきた。
「おい、重吾。蜜芽は未だにトイレの中かな?」
それはないだろう。
「半日もトイレに入っていたら、尻に便器の跡がつくぞ」
そいう問題でもないだろう。
「洋式ならあるだろうが、あの団地は未だに和式だ」
「そうか、蜜芽の家も和式のままなのかな」
「なんでだ?」
「今は洋式の便器がアタッチメントできるじゃないか」
「そういえばそうだな」
「和式で半日は辛いだろう。足が痺れて立てなくなるぞ」
「半日もトイレに入っていたら、家族からブーイングの嵐だ」
「確かに、オレの家でそんなことをしたら、母ちゃんがトイレに乱入してくる」
「おまえ、鍵を閉めないのか?」
「トイレの鍵を閉めていたら、大地震が来たときに逃げ遅れるじゃないか」
「そんな心配より、急に開けられることの心配をした方がいいぞ」
「それは慣れてるから大丈夫だ」
「健太の母ちゃんは最強だな」
「しかしだ、和式で半日は……さすが蜜芽だな」
「それはさすがにないと思うから、先生に聞きに行ってみるか」
「何を?」
「蜜芽が休んでいるわけだよ。先生なら分かるだろう。無断欠席って事もないだろうから」
「蜜芽がトイレに入っているから、休んでいるのかを確認しに行くのか?」
どうしてもトイレにこもっていることにしたいらしい。
「その話はおいとけ」
と言うことで、二人揃って職員室へと向かうことにした。




