美少女救出作戦?(2)
裕也、健太、重吾。三人が犯人の悪趣味に大笑いしていると、階段を上ってくる乱れた足音に少女たちが怯え始めた。
今まで、少女らしく華やかに笑っていたのが、一斉に表情が固くなったのだ。
崩れた団子のように、一箇所に集まっていた少女たちの体が、ぴったりと硬く寄り添った。
「蜜芽は団子にならなくていいのか?」
健太が言うと、蜜芽が『ふんっ』と鼻で笑った。
こんなときぐらい、恐怖におののいてくれたら、少しは可愛気もあるというものだ。
さて、犯人が二階に到着するのも間もなくだろう。
男として、三人は少女たちを守ろうと身構えた。
「何を騒いでいるのかなぁ」
少女を誘拐した凶悪犯人にしては、言葉つきが優しい。
優しいというよりは、女っぽいと言った方が正解かもしれない。
最初の犯人が部屋に入ってきた後に、残りの二人が部屋に顔を出した。
そして、固まる。
その表情には、犯人でありながら、逆に怯えているようだ。
「お・お前たちは誰だ!」
どう見ても犯人よりもかなり若い侵入者に対して、異常なまでの怯えようだ。
しかし、どんなに犯人が怯えても、中学生の健太と重吾はやはり怖いのだ。
恐怖を飲み込むように、じっと相手を見据えていた。
裕也はというと、さすがは大学生だ。
中学生の二人よりは落ち着いて見える。
「誰でも構わないよ。こいつら、不法侵入で警察に突き出してやろうぜ」
後ろから首を出していた犯人が、警察にと提案すると、残りの一人が大きく頷いて『さすがにカッちゃんは頭がいいなぁ』と笑っている。
どうやら、『カッちゃん』と言うのは、犯人の名前らしい。
すると、最初に部屋に入ってきた犯人が『お前らは、本当にバカだな』と嘆いている。そりゃぁ、嘆くだろう。
「なんでオレたちがバカなんだよ」
「オレたちが警察を呼んでどうするんだよ。このキュララたちをどう説明するんだよ」
どうやら、誘拐したことが犯罪であることは理解しているらしい。
「そんなの大丈夫だよ。このガキどもを縛り上げて、玄関に縛って置くんだよ。そうすれば、警察はキュララたちを見ることなく、このガキどもだけを連行していくだろう」
なるほど、その手があるのか。と、犯人は三人で喧々諤々(けんけんがくがく)である。
「とにかく、まずはこのガキどもを縛り上げようじゃないか」
話しこんでいたおかげか、犯人たちの恐怖心も落ち着いたようで、言葉の震えもなくなっている。
それと同時に、裕也たちの方も落ち着きを取り戻していた。
というよりは、どうみても漫才をみているようで、余裕すらでてきたのだから、感謝である。
「よし! お前たち覚悟しろよ!」
まるでセリフを読んでいるように叫ぶと、三人がじわじわと攻めてくる。
それを見て、少女たちが一斉に恐怖の悲鳴を上げた。
泣き出す子がいたり、頭を抱えて震える子がいたり、大変騒々しい。
そんな中で、犯人三人と中学生&大学生の正義と悪の戦いが始まろうとしているのだ。
しかし、片方が一歩近寄れば片方が一歩退く。
いつまでもにらみ合いが続き、どこまでも格闘には及ばない。
このままでは埒が開かないと思ったときだった。
犯人が『ぎゃ!』と悲鳴を上げたかと思ったら、なぜかバタバタと倒れたのだ。
「どうなってるんだ?」
倒れた犯人三人が床の上で重なっている、その姿を見て裕也が首をひねった。
何か悪いものでも食べていたのだろうか。
「私がやったのよ」
その言葉に振り返ると、両手を腰にため息を吐いている蜜芽が立っていた。
「どういうことだよ」
健太が蜜芽と犯人を交互に見ながら聞くと、蜜芽が言った。
「いつまでたっても闘う気配が無いから、このままじゃどうにもならないじゃない。だから、私が倒したのよ」
「どうやって!」
今度は重吾が叫んだ。そりゃぁ、叫びたくもなるだろう。
「どうやってって、わかんないよ。ただ、こいつらが倒れるように、イメージしただけだもん」
「じゃあ、玄関の鍵もイメージで開けたってことかよ」
「そうよ、やってみればできるものよね」
かなりのドヤ顔の蜜芽である。
「そんなことができるんなら、さっさと犯人を倒して、勝手に帰ってくればよかったじゃないか」
健太がため息を吐きながら、蜜芽を睨んだ。
確かにその通りで、それができるくらいなら、さっさと帰ってくれば、誰もこんな大変な真似はしなかったのだ。
「こんなことができるなんて、私だって知らなかったんだから、しょうがないでしょ!」
凄みを利かせて怒鳴る蜜芽。怒鳴られると、つい体が硬直してしまう。
さすが蜜芽パワーである。
その時、遠くの方からサイレンが聞こえてきた。
「あ! やっと来たね」
裕也が遠くから聞こえるパトカーの音に耳を澄まして言うと、蜜芽が怪訝な顔をした。
「ここに来る前に電話したんだよ。果たして警察がオレたちの話を信じるかどうか分からなかったけど。もしも、犯人が本当に凶悪犯で、オレたちが捕まってしまったら、今度こそ逃げられないからね」
「なるほど。それで、警察が動いてくれたってわけね。これが、健太が電話してたら、子供のいたずらと思われるところだったわね」
蜜芽が笑いながら言う。すると、少女たちも緊張が緩んだのか、クスクスと笑った。
「ちぇ。助けに来たのに、なんだよ」
「これでTV局もくるかな」
裕也が髪の毛を整えるように撫でながら言うと、重吾が思い出したように叫んだ。
「あー! ズル休みしてることがバレる!」
「ヤベー! 母ちゃんに怒られる」
親に怒られるのは最大のピンチに匹敵するらしい。
「後は警察に任せて逃げよう!」
重吾と健太が慌てだすと、裕也が惜しそう『TVに出るチャンスなのにー』と叫んでいる。
「じゃぁ、裕也さんだけ一人で残りますか?」
重吾がどちらでもいいですよっと突き放すと、裕也が慌てて言った。
「いや、いいよ。一緒に行くよ」
一人残ったところで、どうやって犯人のアジトが分かったのかと聞かれたときに、どう説明していいのか困ってしまう。
本当のことを言ったところで、誰も信じてくれないだろう。
裕也は、大きくため息を吐くと、チャンスの女神に別れを告げ、窓を開けた。
「ここからあの物置の屋根に飛び移ろう」
裕也の言葉に、重吾が悲鳴を上げた。
「そんな……無理だよ」
泣きそうである。
確かに、運動とは縁の遠い重吾には無理があるかもしれない。
「ここで親にズル休みがばれるのと、勇気を出すのとどっちがいい?」
ということで、三人は窓に近寄ったのだった。
「それなら入ってきた裏口から出るって手もあるだろう」
重吾が涙目で訴えている。
「そりゃそうだ!」
健太がぽんと手を叩く。その言葉をあわてて否定したのが裕也だった。
「それはダメだよ! ここで、裏口から出るために、階段を下りているところで警察とバッタリなんてことになったら、どうするんだい?」
何を慌てているのか。それは、裕也の心中にある。
(ここで、階段を下りたんじゃ、格好良さが薄れるだろー!)
もう、すぐ近くまでパトカーが来ている。
猶予は無く、健太そして重吾の順に窓から飛び出した。
「じゃ、お嬢さんたち。また会いましょう」
と裕也がウインクすると、少女たちがその爽やかと格好良さに、一斉に黄色い歓声を上げた。
サイレンが大きくなり響き、家の前に止まるとチャイムが鳴り響いた。
幾度と無く、チャイムが鳴らされ、次にはキュララの主題歌が家中に響き渡った。
しかし、少女たちはもう体を硬直させることは無かった。
蜜芽が少女たちに笑顔で言う。
「犯人はみんなで倒したことにしてね」
少女たちは蜜芽の笑顔にニッコリと頷いた。
《end》




