美少女救出作戦?(1)
やたらと草が生い茂り、前に進むのも気持ちが悪いくらいだ。
雑草の中を歩くなど、小学生の頃以来だ。
三人は、草の匂いにむせる思いを堪えながら、やっとのことで勝手口に到着した。
ドアノブに手を掛けると、確かに鍵は掛かっておらず、簡単に開けることができた。
しかし、何度考えても納得がいかない。
勝手口の鍵を開けられるのだから、そのまま逃げればよいというものだ。
それなのに、なぜ逃げずにいるのだろうか。
そんなことを考えるのは、健太だけでも裕也だけでもない。
誰もが思うことだろう。
三人は計画通りに台所を抜けると、二階へ通じる階段へと進んでいった。
家の中は静かで、居間に続くドアは固く閉ざされている。
ドアの隙間から冷気を感じるところを見ると、室内はかなり冷やされているようだ。
三人の目が合う。
そして、頷く。
無音の家の中、足音を殺しながら階段を上る。
それは、逆にどんな小さな音でも自分たちの耳に届く。
普段なら、まるで気にしないような小さな足音がやたらと大きく感じ、今にも犯人がドアを開けて駆け上がってくるのではないかと、恐怖で余計に足に力が入ってしまう。
何とか階段を無事征服した三人は、深い息を吐くと周囲へと目を向けた。
意外にも二階は狭く、二部屋しかなかった。
ドラマなどでは、二階というのは結構な部屋数があったりするものだが、現実は自分の家と変わらない。
この件については、後に爆笑ネタとしていろいろな角度から掘り下げることになるのだが、今はネタどころか何も考えられない状態である。
さて、二部屋あるうちのどちらが監禁された少女たちの部屋なのだろう。
裕也が目で重吾に問うと、重吾も目で応える。
応えたその目は、しっかりとひとつの部屋へと向けられていた。
裕也が『よし!』と気合を入れるように頷き、ドアノブに手を掛ける。
グッと力を入れノブを回す。
「……回らない」
小さな声でドアに鍵が掛かっていることを告げると、重吾が困惑したように顔を引きつらせた。
今の状況で、部屋に鍵が掛かっていては、助けようにも助けることができない。
それどころか、いつ犯人が気づいて階段を駆け上がってくるか分からないのだ。
心臓が早鐘のように鳴り響き、口から飛び出しそうだというのに、どうしたらいいのか全く分からない。
「おいっ。蜜芽は中にいるんだろう。蜜芽に鍵を開けてもらえばいいじゃないか」
と健太が小声で言うより早く、中で鍵の開く音がかすかに聞こえた。
しかし、残念なことに必死になっている三人には、その音は全く聞こえることがなく、力の限りドアノブを回し、全体重をドアに預けていた。
ということは、書くまでもなく鍵が開きドアが自然と開いたと同時に、裕也の体は室内へと倒れこむように導かれたのだった。
しかも、ご丁寧に床に倒れこんだのだから、その音の大きかったことは階下にいる犯人に聞こえないはずがないほどだった。
「どん臭いわね。さっさと入りなさいよ」
部屋の奥の方で、団子のようにまとまって座っている少女たち。
その少女たちの前に仁王立ちになっているのが蜜芽だった。
三人の視線が一斉に蜜芽に注がれた。
その姿は、いつものボーイッシュな蜜芽とは雲泥の差があった。
ショートヘアにウイッグを付けたのか、かなり長めのツインテールになっている。
服装は、超ミニスカートでキュララのコスプレであることは一目瞭然というところだ。
他の少女たちもキュララの仲間のコスプレをさせられているが、どの子もかなり可愛い。
他の少女たちの可愛さの中で、どうしても許せないのが蜜芽である。
健太と重吾は笑いを堪えきれずに大爆笑をしてしまった。
その頃階下では、二階の騒々しさに気がつきだしていた。
「なんだぁ? なんで、あんなに笑ってるんだ? それにやけに騒々しいな。可愛いキュララたちに何があったんだ? 見に行ってくるか」
そう言うと、パソコン画面に映っているキュララを停止させ、立ち上がった。ドアを開けると、室内が冷蔵庫並みに冷えているだけに、どっと汗が噴き出す。
「暑いなぁ」
暑いといっても、まだ夏が来たわけでもないのだ。
それなのに、情けない犯人である。
ボサボサの長髪をひとつに結んでいるが、汗で首筋に髪の毛がまとわりついている。
その髪をいらだたしそうに、肌から拭い取る。
「これだから夏は嫌なんだ。でも、今年はリア・キュララと一緒だから、少しはいいけどね」
何がいいのか分からないが、階段の手すりに手を掛けた。
ちょうどその時、家中に音楽が鳴り響いた。
「うわっ! 何の音だよ!」
急に鳴り響いた音楽に、身を縮める健太と重吾。
そして、何とか体裁を繕う裕也である。
「犯人が帰ってきたんだよ。ドアを開けると音楽が鳴るんだ。だから、玄関からは犯人以外は出入りできないの。私たちが玄関から出れば、同じように音楽が鳴り響くんだよ」
「なるほど、防犯装置みたいなものか」
蜜芽の説明を聞いて、納得する裕也であるが、音楽がいつまでも鳴り止まないことに首をひねった。
「一曲終わるまでは鳴り止まないんだ。なにせ、犯人が大好きなキュララの主題歌だからね」
健太と重吾が目を大きく見開いた。
そこまでオタクなヤツも珍しい。
いや、珍しいと言うよりは、そこまで頑張れるなら犯罪に頑張らずに、他の事に力を注いで欲しいところだ。




