犯罪の影にキュララあり!(1)
最後の商店街は、自分たちの町から一番近くにあった。
そこは、毎日とは言わないまでも、良く遊びにくる場所である。
商店街自体は、沈没しそうなほどひなびてもいなければ、活気に満ち溢れているわけでもない。
極普通に大型スーパーの影でそれなりに住民の支持を受けて、存続しているというこじんまりしたものである。
中には閉店してしまったのか、シャッターが下りてしまっている店もあるが、基本的にはどの店も頑張っているようだ。
「この肉屋のメンチカツが美味いんだよな」
健太が肉屋を目にすると、『よだれが垂れるー』という顔をしている。
確かに美味しいのかもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではないはずである。
「この商店の近くに間違いないです」
重吾が力強く言った。
「蜜芽ちゃんの声が聞こえるんだね」
「はい、今までよりもはるかに大きく聞こえてきます」
それは、大きく聞こえると言うよりは、怒鳴り声に近い気がした。
「どの辺なのかな」
裕也が辺りに目を向けるが、商店街を見下ろせる二階建ての家というのが、これまた多数存在するのだ。
「マンションは除外だよな」
重吾が健太に向かって言うと、健太がもちろんだよと頷く。
このまま周囲に目を向けていてもしょうがないので、各自分かれて探そうと言うことになった。
「かなりの数の家だぞ。これを見て回るのかよ」
「しょうがないだろ。昨日よりはましだよ」
健太の情けなさそうな顔に、重吾が喝を入れる。
「蜜芽のヤツ、こっちとかあっちとか教えてくれないのかよ」
喝を入れられた健太が逆襲である。
蜜芽と話ができるのだから、せめてどの辺なのかを聞いてくれてもいいじゃないかということらしい。
「蜜芽にそんなことを聞いても無駄だよ。蜜芽は窓からちょっとのぞき見ただけみたいだから、どの方角かも分からないってさ。それより、さっさと探さないと殺されるぞ!」
「え! やっぱり、犯人は蜜芽ちゃんたち少女を殺そうと考えているのか! これは凶悪犯ってことじゃないか!」
いよいよテレビ出演が現実味を帯びてきて、裕也は興奮気味である。
「マジかよ! 蜜芽が殺されるのか? 蜜芽は置いといて、少女たちが殺されるのは可哀想だ」
「健太。殺されるのは、蜜芽じゃなくてオレたちだよ。それも、犯人にではなくて、蜜芽にオレたちが殺される」
それを聞いて、妙に納得する健太。
その反対に、全く理解できない裕也である。
とにかく探そうということになり、三人はそれぞれ分かれると、商店を見下ろせるような二階建ての家の庭に目を向けて歩いた。
その中で、一人なかなか歩き出さない者がいた。
「確か……煙突が見えるって言ってたよな」
はるか遠くに見えるはずの煙突は、地上に足を付けていたのでは確認することができないようだ。
「どこかに上れば、煙突の位置が分かるかもしれないな」
ブツブツと独り言を言っている裕也を、遠くから見ていた重吾が戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「いや、煙突が見えるって言ってたのを思い出してね。どの方角に煙突があるのかなって思ってさ」
「あ! 確かにそうだ!」
重吾は大事なことを忘れていたとばかりに、自分の頭を叩いて見せた。
「煙突が工場のものだとすると、位置的にみて……向こうですね」
「ということは、煙突が見えるわけだから、こっちの方角にある家ってことになるな」
二人が振り返ろうとしたその時、小さな体が大きなランドセルに揺らされながら、バタバタと走ってくるのが見えた。
「小学生!」
別に目新しいわけではないが、現状では大事なキーワードなのだ。
「あの家、またキュララが増えてたぞ!」
「えー、オレまだ見てないよ」
「オレも知ってる! 新しいキュララ」
黄色い帽子の小学生は、『キュララ』を連発しているのだ。
しかも『あの家』と特定している。
裕也はとっさに、小学生の前に立ちはだかると、中腰になり満面の笑みを浮かべた。
「ぼくたち、キュララのある家を知ってるのか?」
「おじさん、だれー?」
大学生の裕也をおじさん呼ばわりの小学生。
無知なのか、度胸があるのか……。
「おじさんって……」
思わず絶句する裕也をなだめるように重吾が裕也の肩に手を掛け、裕也の変わりに話しかけた。
「お兄さん(・・・・)たちは『キュララの家』を探してるんだけど、教えてくれないかな」
小学生の一団は、顔を見合わせると一斉に指を指した。
その方角にあるのは、商店街から外れた場所に建ち並ぶ、家並みだった。
「あの青い家と茶色の家の間を入っていくと、キュララの家があるよ」
「でも、庭のキュララを見たくても、いっぱい木が生えてるから見づらいよ」
「大丈夫だよ。木と木の間から覗けるから」
と、一人がしゃべりだすと、他の二人も負けじとしゃべりだす。
自分が一番キュララの家のことは知ってるんだと言いたげだ。
「ありがとう。行ってみるよ」
重吾がにっこりと作り笑いを浮かべると、
「でもね、あの家のおじさんは変なんだから、見つからないようにしたほうがいいよ」
「変……って、どんな風に変なの?」
その変な人が犯人のはずなのだ。
重吾は更に情報を集めるために、子供たちに話を促した。
「変より、こえーよ! あいつに睨まれたら、みんな石になっちゃうんだぞ!」
どこかで聞いたような話である。
「オレも知ってる! アイツと目が合った女の人が帰ってこなかったんだ。きっと、アイツに食われたんだよ」
どうも、子供たちの間では怪物か妖怪の類になっているようだ。
これ以上は、何を聞き出しても現実離れするばかりだということで、丁重にお礼を言って子供たちと離れると、健太を呼び戻した。
しばらくすると、何の収穫もなかったと言いながら健太が戻ってきた。
「犯人の家を見つけたよ」
重吾の言葉に、どこなんだと焦りまくる健太である。
「実際は、まだ見つかってはいないよ。ただ、方向が分かっただけだよ」
裕也が言うと、健太が『なんだよ』と言いながら重吾を睨んだ。
重吾としては、ここまでくれば見つかったも同然ということらしく『同じことだよ』と満足そうに笑っていた。




