オレの推理
車で移動しているのだから近くはないだろう、という考えから最初に赴いたのは、一番遠い場所にある商店街にした。
「初心、忘れたらいけないってやつだぜ!」
と、健太が偉そうに言うと、重吾が『バカか! 初心忘れるべからずだよー』と憎たらしく笑って見せた。
「ね、裕也さん」
裕也に矛先を向けると、今度は裕也が『ふっ』と笑う番だ。
「ちょっと、意味が違うけどね」
「え? あれ? そうでしたっけ?」
変だなぁ、とブツブツ言っている重吾に『バカはお前だよー』とイヤミたらたらの健太だ。
そんな話をしながら、車は商店街入り口にやってきた。
もう、小学生の登校時間は終わっているのか、辺りに見えるものはシャッターの下りた商店ばかりだった。
「なんだか、寒々としてますね」
商店街の入り口に立ち、店の並びに目を向けた重吾がつぶやくと、健太がすかさず応える。
「もうすぐ潰れるんじゃないのか?」
思わず裕也も苦笑いだ。
「どうだい? 蜜芽ちゃんの声は聞こえるかい?」
二人の話に割り入るように、裕也が真面目な表情で重吾に言う。
すると、重吾も真面目な表情になって、じっと一点を見つめ始めた。
何かを感じようとしているのか、その表情は固い。
そんな重吾の様子を横目で見ながら、健太が辺りに目を向ける。
夢で見た家は二階建てなのだ。健太は視線を上へと延ばした。
「……かすかに、蜜芽の声が聞こえてきます」
「え! 本当かい?」
裕也が驚くと同時に、健太も重吾に顔を向けた。
やはり犯人は、自宅のそばで犯行に及ぶことはないだろうと推測したとおり、遠征して犯行に及んでいたのだ。
この状況に、不謹慎ながら胸躍るものを感じる裕也である。
もちろん、二人には分からないように心の中で大きくガッツポーズをしたのだった。
(オレの推理は大したもんだ! テレビの取材がきたら、この推理をしたのがオレだって、はっきり言わないとな。中学生の子供に美味しいところを持っていかれたんじゃ、せっかくのチャンスが潰れちまう)
「でも……」
重吾の言葉に、歯切れの悪いものを感じた裕也が先を促す。
「でもって、なに?」
「うん……それが……」
「なんだよ、じれったいな! 蜜芽はなんて言ってるんだよ!」
「それが、蜜芽が言うには、ここじゃないって……」
「ここじゃないって、蜜芽はなんて言ってるんだよ。蜜芽には、オレたちの行動が
見えてるのかよ!」
健太がビックリした顔で言うと、重吾の顔が曇った。
「見えてるというより、感じてるみたいな……。蜜芽は『バカ! なんでわかんないんだよ! そんなところじゃないよ!』って言ってる」
随分と口の悪いお姫様のようだ。
「助けるの嫌になるな。蜜芽のヤツ、そこまで見通せるなら、自分で何とかできるんじゃないのか?」
「それはオレも同感だ。でも、そう簡単ではないみたいだよ」
蜜芽とコンタクトを取れる唯一の存在である重吾が、なんとも言えないというように腕を組んで考え込んでしまった。
「蜜芽の口の悪いのは、今に始まったことじゃないしな」
健太が諦めたように言うと、裕也が笑いながら口を挟んできた。
「どんな力がある子なのか分からないけどね、蜜芽ちゃんは女の子なんだ、きっと恐怖で思考回路もパンク寸前なのさ。それで暴言を吐いてしまうんだろう。ここはできた男として、大目に見てあげてさ。次のポイントへ進もうじゃないか」
裕也が『どうだい?』と二人を交互に見るが、恐怖から暴言を吐くというよりは、日頃から暴言だらけと言った方がいいように思う二人だった。
どんなにのんびりと行動しても、一時間と掛からずに次の商店街へと到着した。
昨日の努力がバカバカしくなる。
さて、次の商店街は先ほどよりはにぎわっていた。
それもそのはずで、歩道には街路樹が日差しを遮り、店先は打ち水でキラキラと輝いているのだ
街灯はオシャレな飾りが付けられ、商店街といえば桜というように、作り物の桜の花がこれ見よがしに飾られていた。
一口に商店街と言うが、これほど雰囲気が違うのかと、驚きと発見の多い一日である。
今回も健太は上の方へと視線を向け、重吾はじっと蜜芽の声を探っているようだった。
唯一、裕也だけがニヤニヤと妄想界へ遊びに行ってるのだった。
しばらくすると、重吾が両手で大きくバツを作った。
どうやら、ここも違うらしい。
三人は車に乗り込み、最後の商店街へと進んだ。
結局、自分たちの住んでいる町に一番近い場所ということになるのだ。
裕也の顔が曇る。
心の中では(オレの推理ぃ)と泣きたい気分だ。
重吾はというと、憔悴しきった表情だ。
もう口を開いて、冗談を言う余裕すらないようだ。
そんなにテレパシーを使うというのは疲れるものなのか、健太にも裕也にも分かるはずはなかった。
しかし、本当のところはそんなことではなく、ただひたすらにコンタクトを摂り続けている蜜芽の罵詈雑言に問題があったのだ。
だが、それを口にすれば、それすらも蜜芽に聞かれてしまいそうで、何も言えないのだった。
(何も考えない! 何も考えないぞー!)
ひたすら、余計なことは考えないようにする重吾だった。




