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歩け! 歩け!(2)

 健太も裕也同様庭をなめるようにして歩いていた。




「あの夢には無数に人形があったよな。でも、どこもかしこもおとぎの国にあるようなのばかりじゃないか。リスだろぅ……犬だろう……ここは猫かぁ……あっちはタヌキかよ! あの夢は……あの夢にあった人形は、こんな風に立体感のあるものじゃなかったよなぁ。もっとはっきりと思い出せたら、見つけやすいんだけどなぁ」




 どうもボヤキが先に出てしまう。


ピンクの車が夢の片隅にあったのだって、しばらくたってから思い出したくらいだ。こうして歩いているうちに、夢の中にあった手がかりの何かが脳裏を掠めるのではないか。


 そんな期待が胸に膨らむ。




「重吾より先に見つけたいなぁ。重吾の残像思念ってヤツは、オレの夢なんかより凄いよ。それだけにさぁ、なんか負けてるようで嫌なんだよな」




 早朝のおかげで歩いていても苦になる暑さではないが、焦りのせいか汗がにじんでくる。




「くそー! なんで家ってヤツはこんなにたくさんあるんだよ!」




 つい足元の小石を蹴ってしまう。


 その小石が虚しく転がり、『見つかるわけ無いさ』と笑っているように思える。




「見つけるぞー! 蜜芽が泣いているなんて思えないけど」




 どうやら健太は、蜜芽が誘拐されて泣いているような、殊勝な少女には思えないらしい。




「うー! 思い出せ! 夢の中の人形は一体なんだったんだー!」




 庭を見ながら夢の中の映像を追いかける健太の足取りは重く見えた。






 その頃重吾はというと、ひたすら庭に目を向けながら無表情で歩いていた。


 何の感情もなく、じっと何かにとらわれているようにさえ見える。


 心の中では『蜜芽! 蜜芽!』と声を張り上げているだけだった。


 そうやって、重吾なりにアンテナを高くかかげて、どこかにあるかもしれない蜜芽の思念を探しているのだ。


 万が一、この地区に蜜芽が監禁されているなら、蜜芽の思念をとらえることができるかもしれない。


 そんなことができるのは、今のメンバーの中で自分しかいないのだ。


 ということは、自分だけが蜜芽を探し出せる力を持っている。


 重吾は重責を担った苦しみに、深くため息を吐いていた。





 三人が再び揃ったのは、有に一時間を経過してからだった。


 空には太陽が顔を出し、明るく輝きだしていた。




「どうだった?」




 誰が先に言ったわけでもないが、顔を見れば分かる質問を投げかけた。


 そして、誰もが首を左右に振った。




「よし! 次の住宅に向かおう! ぐずぐずしてたら日が沈んじまう」




 裕也が車に乗り込むと再び車が動き出した。


 次の住宅も、更に次の住宅も同じように無数に家があり、それらの庭のどれも同じように板の人形など存在しなかった。




「いくら歩いても見つかるはず無いような気がしてきた」




 ハンドルを握りながら、裕也がポツリと漏らした。


 それは健太も重吾も同じ気持ちだった。


 しかし、今は歩くしかないのだ。


 どんな小さな手がかりでもいいから、歩いて見つけるしかないのだった。



 日が傾き、空に夕焼けが広がっても三人は歩き続けていた。



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