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歩け! 歩け!(1)

 翌日は日が昇るより早くに待ち合わせていた。


太陽が出なくても、空は明るさをおびて、行動するのに何の問題もないからだ。


 二人は裕也が運転する車に乗り込むと、裕也が作ってきた人形の置かれている庭のあるリストを元に、重吾のケイタイで地図を出し、場所の特定に尽力をつくしていた。




「まずは遠くから戻ってくるように探してみるかい?」 




 裕也はエンジンをかけると、二人に提案した。




「近くからの方が早く探し始められると思うけどな」




 健太が異論を唱えると、重吾が健太の意見に対して口を開く。




「でも、犯人は車で行動してるんだ。近くとは思えないよ。遠くから攻めた方が、結局早く目標にぶつかるかもしれない」


「そうだな。オレが犯人だったら、自分の家の近くでは事件を起こしたくないな。どうせなら、なるべく足がつかないような距離で、とはいっても遠すぎると誘拐した子を連れて運転するわけだから、騒がれたら危ない。事故でも起こしたんじゃ、笑い話にもならないからな」




 裕也が後部座席に座る二人をバックミラーで確認しながら話すと、重吾が深く頷いているのが分かった。


 健太はと言うと、『そういうもんかなぁ』と首をひねっている。




「そうかぁ、自分が犯人だったら、か。オレが犯人だったら、蜜芽だけは誘拐しないけどなぁ」




 健太のつぶやきは、エンジン音にかき消された。

 





 車が動き出す。空が明るくなるより早く、目的の場所へと急ぐ。

 

 早朝の道路は、誰にも邪魔されることなくスムーズに走ることができる。


 運転に集中する裕也の後ろで、じっと目をつぶり何かを追いかけるように黙っている重吾。


 その反対に、飛ぶように過ぎる景色に、『あの家とかは、庭に何か飾ってるんじゃないかな』と喋り捲る健太である。






 しばらく走ると、車は住宅街に到着した。


 裕也がエンジンを切り、三人が車から降りる。




「どうやって探す?」




 周囲に目を向ける。


 そこには、今まで気にしたこともなかった家の姿が、静かに建ち並んでいた。


 その数は、目に見えるだけでも十や二十ではない。




「どうやってって……」




 あっけにとられている健太の質問に、重吾も返事のしようがないのだ。




「リストを頼りに住所を追いかけても、無駄な気がしてきたよ。こりゃぁ、しらみつぶしに歩くしかないな」




 裕也も二人と同じ気持ちなのだろう、声に勢いがない。


 しかし、歩くしか方法はないのだ。




「ぐるっと見たら、ここに戻ってくること。それと、万が一人形の庭を見つけたら、電話すること!」




 裕也がそういうと、健太も重吾もケイタイを確認した。




「よし! じゃぁオレはこっちの道を見て回るよ」




 健太が一本の道を指し示すと、重吾が「オレはあっちを見てくるよ」と歩き出した。


 それと同時に裕也も別の道を歩き始めた。

 

 裕也はゆっくりと歩きながら、きれいに作られた庭を見ていた。


 今まで住宅の庭に目を向けたことなどないだけに、変に新鮮である。


 庭の形状もいろいろで、カーポートを主に考えている家があったり、子供がいるのだろうか小さな砂場を設けている家があったりする。


 芝生がメインだったり、家庭菜園に力を入れている家。


 その逆に、雑草が伸びるに任せて、何の手入れもしていない庭もある。


 隣近所の庭がきれいに整えられているだけに、雑草だらけの庭がやたらと痛々しい。




「おっといけない。庭の観察をしに来たんじゃなかった。人形だよな、人形。それにしても、板でできた人形ってどんなだよ。訳わかんねぇよ」




 ズボンのポケットに両手を突っ込んで、背中を丸めて歩く。


 更に、顔は左右に動かされ、他人の家の庭を端から端までなめるように見ているのだから、どこから見ても不審者である。




「参ったなぁ……。変なことに巻き込まれたような気がしてきたぞ。大体、何でオレがこんなところで庭を見て歩いてるんだろう。貴重な休みだというのにだぞ。本当なら、彼女とデートだったりするはずじゃないか。それなのに、健全な大学生の若き青年がだ、何で他人の家の庭探しをしてるんだよ。どこまでお人好しなんだ、オレってヤツは!」




 とは言うものの、彼女がいないのだから、庭を見ていようがいまいが変わらなかったはずである。




「いや、待てよ。もしも、本当に誘拐事件で、これで犯人が見つかったらどうなる? オレは一躍有名人じゃないか。しかも、少女の命の恩人ということで、テレビが来るだろ。オレの顔が全国のお茶の間に映し出される。すると、芸能プロダクションなんかがオレを見て、『いいルックスしてるな、次の映画は彼を起用しよう!』なんてことになって、オレは俳優の道を歩き出す。金持ちになって、美女にモテまくる。そうかぁ、ということはこんな冴えない歩き方をしていたのでは見つかるものも見つからないではないか! いかん! やる気がなくなると、つい背中が丸くなるのがオレの悪い癖なんだ! そうだ! オレの未来は明るいんだ!」




 どこからくる自信なのか、裕也はポケットから両手を出すと、意気揚々と歩き出した。


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