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戦いの幕開け

 約束の時間に約束の場所へ行くと、早くも裕也は待っていた。


その姿は、パソコンで見たままの作りすぎたイケメン俳優という感じで、見るだけで吐き気を覚えるほど格好がいい。




「格好良すぎじゃないか?」




 遠くに見える裕也を視野に入れながら、健太がぼやく。


 いがぐり頭に野球帽をかぶった健太は、中学生らしく、ある意味清清しい。 


 しかし、思春期を迎えている彼らには、やはり大学生の格好良さは、できることならあやかりたいところらしい。




「あの手の男に、女子はだまされるんだろうなぁ」




 だまされるとは聞き捨てならないが、さすがの重吾も悔しさを隠せないのだろう。


 スポーツはまるでダメという重吾ではあるが、それなりに女子にもてていると思っているのだ。


 それゆえ、裕也の清清しいまでの格好良さは、認めたくないらしい。


 ということで、どうしても否定的になるわけだ。


 これで今から力を合わせて蜜芽を助けるのだから、どうなるのか少々心配になる。




「やぁ!」




 手を上げてにっこり笑うその顔に、真っ白な歯がきらりと光る。




「やっぱり、あれはわざと見せてるんだよ」




 と、歯磨きの嫌いな健太が嫌味ったらしく言ってのける。




「健太もあのくらい磨いてみたらどうだ?」


「オレは内面で勝負をかける男なんだ」




 内面は確かに大事だが、人間第一印象と言うのも大事なものである。


 夏がそこまで来ている午後は、もう真夏ですかと聞きたくなるほど暑い。


 汗がダラダラと流れ落ち、涼しいところで冷たいものを飲みたくなる。


 ということで三人は場所を移した。




「悪いね。バイト代が入るのが来週なんだよ」




 すまなそうに裕也が差し出したのは、自販機が吐き出した缶ジュースだった。


 健太や重吾からしてみたら、大学生というのはバイトで稼いでいるので、お金には困らないとか、親からたくさんのお小遣いをもらっているのだから、ファーストフードでハンバーガーくらいは奢ってくれると思い込んでいたのだ。


 しかし、そこは常識を少しは持ち合わせている中学生である。


 笑顔でジュースを飲んでいる……が、心中当てが外れてがっかりというところだろう。


 それでも、木陰の風は涼しく三人をなでていく。




「それで、あれから考えたんだけど。板の人形とピンクの車。そして、人形のシール。これを普通の感覚で考えると、やっぱり何かのキャラクターに固執したヤツじゃないかと思うんだ」




 今朝、三人で話したことから大した進展はないものの、少しでも考えてくれていたことがありがたい。




「オレもそう思うんです。板の人形も何かのキャラクターなんじゃないかって」




 重吾も裕也同様、犯人はオタッキーなヤツだと思っているようだ。




「健太。今朝は夢を見なかったのか?」




 重吾が健太に言うと、健太が眉をしかめて『そう都合よく見るわけないだろ』と反論してくる。




「そうだよなぁ……」


「そういう重吾はどうなんだよ。蜜芽の残像思念が出てこないのかよ」




 出てくるようなものでもないのだが、こうなると負けたくない一心で出てくる言葉が滅茶苦茶になる。




「残像思念は蜜芽の思念が残っているから見れるんだ。蜜芽の思念がどこにあるんだよ。車で誘拐されたら、どうすることもできないじゃないか」




 ああ言えばこう言うといった感じで、言われれば言い返す。これでは埒があかないどころか、仲たがいの原因になりかねない。




「現状でできることを考えてみないか?」




 飲み終わったジュースの缶を眺めながら、裕也が言った。




「現状でできること? 何ができるって言うんだよ」




 健太がふてくされて言うが、決して裕也に文句を言ってるわけではないのが分かる。そんな健太を見て、裕也が笑いながら言った。




「だから、何ができるかを考えるのさ」




 さわやかなヤツは、そうそう小さなことで怒ることはないらしい。




「そうですね、今はこれだけの情報しかないんだ。この情報でできることをするしかないってことですね」


「そういうことだね。無駄に悩んでいる時間はないと思うんだ」




 そうだ。いたずらに時間を費やして、その間に蜜芽がどうなっているのか。それを考えると悲しくも辛い。そして、恐ろしい……。


 三人は潤ったのどで、できる限りのアイデアを出し合った。


 その結果、今できることはピンクの車を探すこと、あるいは板の人形を無数に飾っている庭のある家を探すことだった。




「でも、どうやって探す? 片っ端から歩いて探すのか?」




 健太が異論を唱えた。それもごもっともな意見である。


 しかし、そんな無駄な行動をとっていたのでは時間がいくらあっても見つけることは難しいだろう。




「君たちはいつの時代に生きてるんだい?」




 裕也がそう言いながら、ケイタイを手にした。


 裕也がケイタイに向かって言葉を発する。




「庭に人形のある家」




 確かにヒットしたが、それは無数にありすぎて、探すことなど不可能な数だ。




「それじゃ探しようがないですよ」




 重吾が文句を言うと、裕也がにっこりと笑って




「でも、これで検索することができるということはわかっただろう?」




 とウインクして見せた。格好はいいが、男にウインクされても嬉しくない。




「ま……あ。確かに検索すれば……」




 と言うことで、重吾と健太もケイタイを取り出し、ありとあらゆるワードを声に出した。


『もうダメだ』と健太が諦め、重吾がさじを投げても、裕也だけが黙々と検索を繰り返した。


 その結果、三人が住んでいる町から半径二十キロに位置する、庭に飾りのある家を探すことができた。


 ただし、それでも大して件数を絞ることはできていないのが現実なのだ。




「やらないよりはマシだろ」




 諦め気味の健太と重吾の背中を押すように、裕也が元気な声をぶつけてきた。


 不思議と裕也に言われると、その気になる。


 三人は、明日の日曜日早朝から探してみる決心を固めて、家路に着いた。


 長い闘いが始まるのだと、三人の瞳が燃え始めていた。


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