深夜会議(2)
「なるほどねぇ」
庭に飾られた無数の板の人形。
「何の人形なのか分かればなぁ」
最初の『なるほどねぇ』と言う言葉に、感心しているんだろうなと思っていた健太は、次の『何の人形なのか分かればなぁ』という言葉で落ち込んだ。
自分でもそう思っているのだから。
果たしてこの夢が本当に蜜芽誘拐事件に絡んでいるのかどうかすら疑問なのだ。
重吾のように、はっきりと蜜芽の姿が現れているならまだしも、見えたものはぼんやりとした人形の板だけなのだ。
「これが今回の事件と関係があるとは言い切れないし。オレの夢が必ず予知夢かといわれたら、絶対だとは言い切れないもん」
多少ふてくされ気味に健太が俯いた。
「いや、予知夢だろうと違っていようと、今は可能性にかけるしかないと思うんだよ」
確かに裕也が言うように、小さな可能性にかけるべきだろう。
重吾は黙って、裕也と健太の話を聞いていた。
健太もまた、黙って俯いたままだ。
三人が無言のまま、画面に表示された時計の数字が変わっていった。
これ以上はどうすることもできないのかな、と裕也がつぶやいた時だった。
健太が大きな声で『あ!』と叫んだのだ。
「何だよ、びっくりするだろ」
さすがに白目が充血しだしている重吾が、迷惑そうに健太へ顔を向けた。
向けたと言っても、あくまでもモニターに映し出された健太の画像なのだが。
「ごめん。でも、思い出したんだ」
「なにを?」
「ピンクの車だよ! 蜜芽を誘拐した犯人が乗っていたって、重吾が言ってたじゃないか」
「あ、うん。ピンクだった」
「オレの夢も、隅の方に止まっている車がピンクなんだよ」
「なんだよ! そんな大事なことを思い出したんなら、何で言わないんだよ」
さすがに、今になって言われたのでは重吾としては面白くないだろう。
「しょうがないだろ! 本当に、今! 思い出したんだから」
『今』を強調する健太である。
「そうかもしれないけど……」
「そうか……。ピンクの車って、あまり見ないよな。それにシールか……何のシールだろう……」
二人の言い合いが耳に入っていないのか、裕也が両手で頭を抱えながらぶつぶつと呟いている。
「それに、無数の板の人形……結構、同じ人形のシールだったりして……」
「あ!」
健太と重吾が同時に叫んだ。
「どうしたんだい?」
「そうかもしれない!」
またしても二人同時だ。
どこまでも息がぴったりの二人である。
喧嘩するほど仲がいいというが、本当のようだ。
「そうかも? とは?」
「犯人は男です。それなのに、車の色はピンク。庭にあるのは無数の人形。これって、気持ち悪いじゃないですか。そこまでくると、人形とシールは同じもののような気がするんです。確かに、シール自体をしっかりと見とめることはできませんが、ぼんやりと見えたのは丸や三角ではなくて、細長かった。あれは、人間の形だったのかもしれない」
「なるほど、そうなるとかなりのオタク野郎という感じかな」
人形とシール、ピンクの車。犯人の容姿などを話しているうちに窓の外は白々と明けてきていた。
「とうとうオールしちゃったな」
カーテンから差し込む日差しを目にして、健太が言うと重吾も『そうだな。今日が休みでよかった』と言いながらあくびをしている。
さすがに眠気がさしてきたようだ。
これ以上は思考能力に限界を感じるということで、一度睡眠をとって午後に会って話そうということになった。
誰も異論はないようで、時間と場所を決めるとそれぞれがパソコンを停止させるための作業に入った。
静かにパソコンの画面を閉じると、三人の瞼も静かに閉じ、夢の世界へと落ちていった。




