相談するなら神野美香(2)
サイトを移動し、神野美香がインしているかを確認する。
「いるぞ、いる!」
健太が興奮気味に言うと、重吾がうるさそうに『分かってるよ』と返す。
重吾が神野美香へ通話依頼のメールをすると、すぐに承諾の返事が来た。
依然、唐突にコールして怒られたことがあるからだ。
というのも、彼女はかなりの霊能力を持つ人らしく、彼女を頼ってくる人が多数いるらしい。
もちろん、彼女も底抜けのお人好しというわけではないので、自分が気に入った相手のみと話をするということだが、それでも彼女に相談を持ちかけてくる人が後を絶たない。
故に、唐突にコールすると他の人と大切な話をしていることもあるから、邪魔になるということらしい。
彼女が怒ると鬼より怖いということをこのとき知ったのだった。
「こんばんは。かなり困っているようですね」
まだ何も言ってないというのに、初っ端からこの言葉である。
毎度のこととはいえ、健太も重吾も度肝を抜かれる。
「あ……はぃ」
重吾がしどろもどろに返事をすると、ディスプレーに写っている彼女の顔が変わった。
「星空ちゃん……誘拐されたのね」
静かだが、決して馬鹿にしている風ではなく、真剣に二人の心の声に耳を傾けてくれる。
「分かりますか……」
重吾がため息をついた。
画面の中では、顔に両手を当てた四十歳前後の女性が、顔を引きつらせている。
「警察に話したところで、龍くんが見た残像思念を信じてはくれないでしょう」
自分たちよりもはるかに年長であるにもかかわらず、いつでも優しく対等に話をしてくれる。
決して、子供だからと頭ごなしのことは言わないのだ。
そればかりか、いつでも敬語で返してくる。
できることなら、そこだけは溜め口にして欲しいと思うのだが、彼女曰く『いつでも敬語で話してきたので、今更溜め口と言われても、無理なんですよ』と言うものだった。
それを聞いたときは、健太と蜜芽が同時に「面倒な癖だなぁ」と言ったものだ。
果たしてそれが、本当に面倒なのかどうかは人それぞれの感覚なのでなんともいえないところである。
「どうしたらいいですか?」
相手が年長と言うこともあり、重吾は一応敬語を使っている。
「どうしたいですか?」
質問に対して質問で返してくるのも、彼女なりの会話術である。
多少、ムカつくが。
「どうしたいって、助けたいよ」
と、溜めグチなのはもちろん健太だ。
「だったら、あなたたちの力を使えば良いと思いますよ」
眉のひとつも動かすことなく、静かに言い切る。
しかし、力と言っても、自分たちにそれだけの力があるはずもないのだ。
「いいえ、あなたたち二人は今以上の力を持っています。それに気がついていないだけです。そして、星空ちゃんも同じ様に……いえ、あなたたち以上に力が強いかも知れませんね」
「そんなこと、今まで一言もいわなかったじゃない」
健太が今頃言うなんてズルイよと言いたげに、唇を前に突き出している。
まるでアヒルである。
「すいません。でも、今までは別に言う必要もなかったんです。あなたたちに力があろうがなかろうが、あなたたちは中学生である今を生きてくれたら、それで良いはずです。ずっと、そうやって元気に笑ってくれてたら良かったのですが、現実はそうもいかないようですね。だから、今回は本当のことを言いました」
苦しそうに語る。
別に、そんなに苦しそうに語らなくても良いと思うのだが、と言うコメントは心にしまっておくとして。
「どうやったら、星空を助けられるほどの力がつくんですか?」
「……」
「それより、美香さんも一緒に星空を探してくれたら、簡単に見つかるんじゃないのか? 美香さんは大人だし、警察に言うにしても大人が言うんだったら、警察だって動くだろ」
「そうだな。美香さん、一緒に探してくれませんか?」
「そうしたいのですが、私はあなたたちの住んでいるところから、はるか遠くにいます。私の力で星空ちゃんの居場所を探そうにも、あまりにも遠すぎて、私には無理なんです。とても残念です」
「そうですか……」
神野美香が頼りにならないと知ると、さすがに気落ちした。
神野美香以外に助けてもらえそうな大人がいないからだ。
「ですが、私以上にあなたたちの力になってくれる人がいます。私との通話を切ったら、いつものゲームサイトへ行って遊んでいてください。そこで最初にゲームに参加してきた人が、あなたたちの求める人のはずです」
その言葉を残して、神野美香の通話が切れた。




