相談するなら神野美香(1)
蜜芽が、何者かにさらわれたという事実だけは分かったが、そこから先はどうすることもできない。
二人は、助けることのできない幼馴染の叫びに、悔しさを感じながら帰路についた。
団地へと向かう足が重い。
まるで鉛を引きずっているようだ。
「カノンって、男だったのか」
重吾が呟く。
「男に惚れられてたなんて、さすが重吾だな」
「問題はそこじゃないけどな」
「でも、鼻持ちならないほど、カノンにもててたことを喜んでいたじゃないか」
「誰だって、異性に想いを寄せられたら嬉しいだろ」
「まぁな。でも、ざまぁって気持ちは本当だぞ」
今明かすような話でもないと思うが、それでも健太は気にすることなくしゃべり続ける。
そうでもしてないと、気持ちのやり場がないからだろう。
二人は歩きながら、さっき感じた蜜芽の思念を消そうとするように話し続けた。
落ち着かない気持ちを引きずったまま時間が過ぎる。
誰かに相談できたら良いのだが、こんなことを誰に相談できると言うのだろう。自分たちの親に言えば、熱でもあるのかと訝しがられるだけだ。
では、蜜芽の親に相談するか?
答えはNOだ。
いたずらに蜜芽の母を苦しめることになる。
二人は各自の部屋でパソコンを介して会話を続けていた。
「相談って言ってもなぁ」
画面の端に小さく写る健太の顔。
その顔をぼんやりと視野に入れながら、マウスを動かしていく。
「でも、このまま放っておくわけにはいかないだろ」
健太もまた、重吾の顔を画面に映し出し、ぼんやりと画面を眺めていた。
「そりゃ……そうだけど、誰に相談できるよ。現実に見たわけでもないのに、どう説明するんだよ」
「そうだけど……。誰か、俺たちのことを信じてくれる大人はいないのかよ!」
「こんなこと誰が信じてくれるんだよ。残像思念を追いかけて、蜜芽がつれさらわれたことが分かりましたって言っても、逆に俺たちの頭がおかしいと思われるぞ」
「わかってるよ……ん?」
「なんだよ」
「一人いるじゃないか」
「一人?」
重吾がじっと考えているが、健太が言う唯一の相談者というのが浮かんでこない。
「頭がいいという触れ込みの割りにピンと来ないヤツだな」
「余計なお世話だよ。誰だよそれ」
「神野美香」
「あ!」
「だろ?」
『神野美香』が何者であるかは、はっきりと分かってはいない。
これまた、ネット仲間というだけの付き合いなのだ。
SNSサイトで知り合って、妙に話が面白くて惹きこまれ、気がつけば蜜芽も含めた三人共通の友達となっていたのだ。
「忘れてたよ! 唯一俺たちを理解してくれる人!」
「オレって、やっぱりお前より頭いいかもしれないなぁ」
健太が偉そうにふんぞり返って見せた。
「よし! いつものサイトへ行くぞ」
「なんだよ。一言ぐらい褒めてくれてもいいじゃないか」
サイトへ飛んだところで通話が途絶えるわけではないが、まるで聞こえないように、華麗なスルーを決める重吾である。




