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第8話「ユキコの一番長い日」

実はこのエピソードは、最も初期の頃に書いた一編になります。

作劇上+1.5人称と言えそうな文体で、ユキコへの想いを爆発させたお気に入り回ですw

銀の小箱の扱いが他のエピソードと少し異なりますが、敢えて改変を加えず上梓しました

宜しければご笑覧いただければ幸いです。

ユキコの一番長い日


T星人


# 少女の朝


 うすもやに包まれる郊外の街並み。かすかにスズメの鳴き声が聞こえ始めている。

 そこから少し離れた小高い丘の上に瀟洒な一軒家が建っている。

 その家には、一見して主の趣味が判らない部屋が存在した。

 小型の縦型ピアノ、飾られた花瓶にはシクラメン。赤い人型ロボット?の模型。少し色彩感覚を逸したパッチワーク。

 畳の上におかれたベットの上には桃色の毛布を被って誰かが寝ているようだ。

 ベットサイドには目覚まし時計らしき箱が置いてあるが、文字板に当たる面には数字はなく不思議な突起物が埋めこまれているだけだ。

 そこに響き渡るベルの音。毛布の中から、小さな手が伸びてきて、文字板の表面を撫でると毛布の下から少女らしい声が響いた。

「ひけない、もう、ほんな時間っ。」

 毛布をのけて起き上がってきたのは、ご存じ神ユキコその人である。 

「さ、今日も一日、がんばるわよぉ」 

 と、言ったとたん、前のめりに倒れ込んでしまう、やはり、まだ眠いようである。 


 少女は、慣れた様子でパジャマのズボンを脱いで下に落とす。上着丈が長いので、少し着替えに手間取っていたが、なんとか着替えが終わり、ぴちっとしたデニム地のスカートのホックを腰の左で留め、ドアを開けて廊下に出て行く。


(モノローグ)「わたし、神ユキコ、16才」

 歩きながら軽い伸びをし、


「どこにでもいる、ごく普通の女の子」

 ずんずん歩いて洗面所に入る

 顔を洗うユキコ、少し横に手を伸ばして、二三度タオルを探って顔を拭く。


「ちょっと、トロイなんて言う人もいるけど」

「…彼だ…」 


 はみがきをするユキコ。以上の二つの作業で、少々周囲が濡れるが、どこからか出てきた小型アームが拭き取っていく。


「自分では、しっかりものだと思っている」


 キッチンに立つユキコの後姿。

 換気扇の回る音に、油の弾ける音が混じっている。

 ユキコ、電磁調理機の前で菜ばしを使っている。


「神家の家事も一切、私におまかせ。」

 顔を横に向けると、

「タエ、ちょっと、起こしてきてくれない?」

ユキコの横で実際の調理作業をほとんど行っていた、アンドロイド家政婦のタエ、


「ハイ、オ嬢サマ」

と、小さなキャタピラ音をたてながら調理場を出ていく


 食卓を囲む神父娘。

 神は新聞を読みながら食事をしている。

 朝食テーブルの上には、一般家庭のそれよりは多少豪華な、チョップドエッグ、トマトジュース、クラムチャウダーなどが並んでいる。

(モノローグ)「これは、ユキコのおとうさま。神健人」

「とっても偉い、学者の先生」

「ほんの少し、だらしないところを除けば、もう最高っ」


「おとうさま、新聞を読みながらご飯を食べちゃ駄目って言ってるでしょ!」

「せっかく、作ったユキコのお料理、お味が判らないじゃないの。」


 ブホッ。神、咳込む。

 料理のほとんどは、タエが作り、ユキコはかき混ぜていただけ、というのを知っているのである。神、読みかけの新聞を惜しそうに、わきに置き、


「いや、とってもおいしいよ。」


「ほんとぉ。」

ユキコ、突然ニコニコしだす。


「旦那サマ、今日モ、風邪カ…」


 どうやら、この一家では、これに似た情景が毎朝繰り広げられているようである。


 科特隊本部ビル第一作戦室と書かれた自動ドアが、開きユキコが元気よく入ってくる。

「ここが、わたしの仕事場、科特隊の作戦室」

「作戦なんてたてないのに、作戦室なんてちょっと、変。」


レーダーを観ながらコーヒーを飲んでいた葵隊員がユキコに声を掛ける。

「おはよう、ユキコちゃん。」

「おはようございます、葵さん。」


「この人が、アオイ隊員。主任オペレータと、隊員の健康チェックを担当している、やさしいお医者様でもある。」

「おとうさまによると、とっても「美人」だそうで、ちょっぴり、やけちゃう。」

「だけど、とっても好き。」


 ユキコ、サブコントロールルームからF01の格納庫へ抜けるドアに向かう。やはりずんずん歩いていく。

 様々な、人から「おはよう」の声がかかり、その度に挨拶を返していくユキコ。


 ユキコ、F01の登り慣れた、側部タラップを軽快に駆け上がると、

 ハッチの横の掌紋認識板に手をかざす。

 ハッチがひらき、するりとF01の内部にもぐりこむユキコ。


「そして、これがわたしのことを、少しトロイといってる張本人。その人なのよ。」

「おはよう、ユキコ」


 ユキコちょっぴり、おすまし顔で、

「ねえ。」

「わたし、今朝は、どこか違っていない?」


「…」


「体温正常、脈拍異常なし…と」


「特に普段と変わった要素は見あたらないが。」


 ユキコ、相手に何かを言わせたくって、もう、うずうずしている。 

「そうじゃなくってぇ。」 

「重量かな?」 

 真っ赤な顔をしながら、 

「ち、違うわよ!」 

「ははは、分かっていたさ、洗髪剤シャンプーを変えたんだろう。フローラルの香りだね、100m手前で認識できたよ。」 


 ユキコ計器類ををポカリと軽く叩きながら、 

「もう、馬鹿っ。知らない。」


 F01胸部ハッチの上にユキコが、膝をかかえこみ、むくれ顔で座っている。


 向こう側の通路を通りかかった、神博士、彼女に気づくと手を前につくって、

「お~いっ、ユキコ、どうかしたのかっ?」


 ユキコわざと、その声の方向から顔をそらし、

「彼が、わるいのっ」


 神、またか、という感じで手を上げて、行ってしまう。


 科特隊本部観測室。数人の観測員が、操作パネルに向かい、忙しく働いている。

 一人の観測員が何かに気がついた様子である。

「班長、これを!」


班長と呼ばれた女性が、観測員に近づいて、

「何事ですか?」

「電離層から、我が基地に向かって落下してくるエネルギー反応があります。速度800」 

「馬鹿な、この速度で垂直に…」

「すぐ、作戦室に連絡を。」


 スピーカーを通して聞こえてくる、白鳥隊長の声、

「白鳥だ。観測室どうぞ。」


「観測室小岩です。実は、早急に…」

 モニターを見ていた観測員


「だ、駄目だ。もう、遅いっ!」 


 基地全体を不気味な振動と音が覆った。

  同時に基地全体に流れる異様な声、

 「科特隊ノ、ショクン。オハツニ、オメニカカル。」 

「我等ハ、キミラノ言葉デ、T星人ト発音サレルダロウソンザイダ。」 

「サッソクダガ、君達ニハ、ネムッテモラウコトニスル。」 

「我等ノ、ケイカクヲ、ジャマシナイデモラウ、タメニネ…」 


 科特隊基地ビル全体をピンク色の幕が急速に覆っていく。

 その表面を放電のような光が走る。

 作戦室内では人々が苦鳴を上げて倒れていく。

 最深部の発電室でも周囲に火花が散る。床に倒れている何人かは、痙攣している。


 薄暗いF01コクピット内でも微震動は、まだ続いている。

 ユキコ、上方に顔を向け、不安気に口を開く。彼女は振動が始まるとともに、条件反射的にF01のコクピット内に飛びこんでいたのである。


「何、一体なにが起きてるの?」

「どうやら、さっきの放送の直後に、基地全体が攻撃を受けたらしい。F01の絶縁シールドコクピットでなかったら。ユキコも危なかった。」

 ユキコ更に不安そうな表情で、

「これから、どうすれば…?」

「ここで、うかうかもしていられ無いようだな。」

「上空に未確認物体が、接近して来ている。」

「どうやら、相手は、この基地を直接制圧する気らしい。」


「じゃあ…」


「基地内の人間の脳波からは覚醒波が検出できない、全員意識を失っていると考えていいだろう。」

「今、この基地で、目覚めているのは、おそらく僕等二人だけだ…」


 そこでかすかな喜色を取り戻した、ユキコ、握りしめた拳を顔の前に持ってきて、

「無線で外へ連絡すれば。」

「それは、さっきから、やっている。」

「何か妨害波のようなものが基地全体を覆っているらしいんだ。」


「僕のこの身体では、基地内を行動するわけにも、いかない。」


ユキコの顔から血の気が少し引く。


「え…?」

「そう、君が皆の意識を回復させに、行くしかないんだ。」 


ユキコ、顔の前で手を交差させるように振る。 

「そんな…わたし出来ない…」 

「迷っている暇はない。」 

「僕も出来る限りのサポートはする。」 

「行ってくれ、ユキコ。」 


 無人になったF01コクピット内、交信中を示すLEDが点滅しF01の声が響く。

「ユキコ、応答しろ。僕だっ」

「ユキコっ!…」

「しまった、彼女、僕の分身端末を持っていかなかったのか。!」


 普段と違い静まり返った基地内の廊下を、ユキコが心細げに歩いている、ほとんどの照明は消えているか、点滅している。

 作戦室の、自動ドアが開け放たれており、そこから廊下に光が漏れている。

 廊下の左壁を手で探るように歩いてきた、ユキコ、作戦室の前で、すこし立ち止まり、中の様子をうかがう。

 かすかに、人の声が聞こえる。どうやら、葵隊員のものらしい。


 ユキコ室内に向け、恐るおそる声を掛ける。

ユ「葵さん・・・?」


 ユキコが一歩、室内に足を踏みいれようとしたとき、葵隊員の声が鋭く響く。

「だめよ、ユキコちゃん! こっちに来ちゃ駄目っ!」

「え?」

 ユキコの側後方から巻きついてくる、黒い触手のような物体、

「きゃあああああっ…」

葵隊員、腰だめに熱線銃を構えている。


「その娘を、放しなさい。」


 ユキコの体を絡め取るように覆って行く、八本の触手を持った異様な姿のT星人


「むぐっ…」

「オヤオヤ、イサマシイガ、ソノヨウナオモチャデハボクノカラダニ、キズヒトツツケルコトハデキナイヨ…」

「ソレニ、地球ジンッテノハ、仲間ヲ、キズツケルコトガデキナインダロ?」

「くっ…」


葵隊員かすかに銃口を下げながら、

「貴方たちの目的は、何なの?」

「ボクタチ?」

「ボクハ、ヒトリデコノ星ニ、オクラレテキタ先発インダ科特隊ノ、スガタヲ借リタホウガ、何カト、行動シヤスクナルノデネ…」

葵「姿を借りる?」


 葵隊員、話に引きこまれて、足下に近づいてくる、一本の触手に気付かない、

「ボクタチニハネ…」


「…」


 そのとき、葵隊員の足に絡みつく触手。

彼女の身体を、ひねりざまに、コンソールパネルに叩きつける。


「がっ」


 彼女の握っていた、熱線銃が音をたてて床を転がる。


「アブナイオモチャハ、コウシテオコウカ」

 と、いいながら銃を触手で握りつぶしてしまう。

「ソウソウ、ハナシノツヅキダッタネ…」

「ボクラニハ、ユウキセイメイ体ト、ドウカシテソノ姿ヲ、借リル能力ガ、アルノサ。

 ソレニ、イクツカニ分裂シテ、仲間ヲ増ヤス、能力モネ…」


 床に転がる葵隊員、話しの内容に顔色が変わっているが、全身の打撲のため身動きが取れない。


「ソレニシテモ、コノ基地内ニ、コンナ子ガ、イテクレタノハ幸イッダッタ」

「我々ニトッテハ、若イ、カラダホド、ドウカシヤスイノデネ」


 みるみるユキコの身体を巻き覆っていく、T星人の身体。


葵隊員、まだ身動きが取れずに床に倒れている。

「ユキコちゃんっ」


 もう既に星人の身体に埋まるようになってユキコの身体は、ほとんど見えない。


「サアデハ、カンゼンニ…」


その時T星人の頭部が赤熱し、吹っとぶ。

そのまま、倒れこむT星人。

 内部にユキコの身体が半分見えている。

 しばらくして、咳込みながら、なんとか自力でT星人の身体を引きはがして起き上がる、ユキコ。 


挿絵(By みてみん)


「ユキコちゃん…」 


こちらも、やっと立ち上がった、葵隊員の胸に飛びこむようにして抱きついていくユキコ。 

「葵さ~んっ」 

 葵隊員、抱きかかえているユキコの頭を撫でながら、 


「頑張ったね。大丈夫、もうだいじょうぶよ。」


 葵、床で頭部から白煙が上げているT星人を見やって、


「それにしても、一体誰が…」


格納庫に係留されたF01の右腕のレーザー砲がかすかに上を向き、陽炎を上げている。

「ふう。」

「床から、154センチ、プラス10…」

「なんとか狙いを外さなかったか。」

「それにしても…」

「彼女が、洗髪剤を変えたのは正解だったな。」

 F01のコクピット内の小さなスクリーンに、基地内の見取り図が表示され、丁度、ユキコのいる作戦室に赤い輝点が点滅している。

もし誰かが司令室の壁に新しく空いた1cm程の孔を覗いてみれば、その軌跡が真直ぐUマンの格納庫まで続いている事に気づいたかも知れない。 


 基地内では葵隊員とユキコに助け起こされ、次第に意識を取り戻していく人々。

 皆、我に返った風に、顔を見合わせている。


 神家のダイニングキッチンではいつものように、テーブルをはさんで、父娘が食卓についている

 家政婦アンドロイド・タエの姿も見える。

 ユキコ、行儀が悪いが、なにやら箸先で宙に描くように、父親に説明している。

 相槌を打ちながら聞いている神博士。

(※設定で恐縮だが、神家において、このように、活気のある食事風景など、以前は、殆ど見られなかった事なのである。)


神家バスルーム。ユニット型のバスルーム、肩まで深く湯にしずめた、ユキコの姿。

 左腕を湯で流しながら、なにか口ずさんでいる、ユキコ。

 そのとき右手が昼間の一件で出来た痣痕に触れ、かすかに顔をしかめる。


「痛っ」 


 しばらく、その部分をそっと撫でているが、ふと、思いだしたかのように、バスキャップからはみ出た髪の毛を指先でつまんで鼻先に持っていき、くすくす笑いを始める。


 バスガウンを羽織ったまま、机に向かい何かやっているユキコ。

 近付くと、特殊キーボードで日記を付けているらしい。 

 プリンタが、かすかな音を立て、小さなブックレットに凸みを刻んでいく。 

(モノローグ筆記)「今日も、一日大変だった。」 「お仕事は、もちろんうまくいった。」 「あやうく失敗するところだったけど。」 「あらためて、彼には、わたしがついていなくちゃダメだ、 という事を、感じた。」 

 一行置いて 

「でも、わたしにも、彼が…」 


 立ち上って脱いだバスガウンを傍らの、ハンガーに掛ける、ユキコ。

 ベットに身体を滑りこませると、肩口から、ちょいと両手をだして天井に向かって、つぶやく、

「おやすみなさい。」


 街並み上空には満天の星空が広がり半月が中天にかかっている。


 真っ暗な部屋に、縦に入る光の筋が出現し、見るみる幅を持っていく。

 開いた、ドアの向こうには神博士が立っている。

 神、部屋にそっと入ってくると、ユキコの寝乱れた、毛布を掛け直してやる。

 しばらく、娘の寝顔を見ていると、またそっと出ていく。後手に閉じられるドア。


 神、ウイスキーを、ほんのすこし入れたグラスを持って、椅子に掛けている。目の前の小テーブルには、小さな銀色の箱が載っている。


「やっと、寝たようだな。」


 分身端末からは、Uマンの声で


「博士も、大変ですね。」

「君もな…」

*やれやれ、結局、ユキコちゃんは、皆の暖かい保護の下、毎日の生活を送っているようでした。


 丁度、窓から入ってきた月明りでユキコの寝顔がわずかに照らし出されている。

 幸せそうな寝顔。

 寝言で、かすかに何かつぶやく。

ユ「もう、ばか」


第8話 ユキコの一番長い日・了


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お愉しみ頂けましたか?作者のスタンスに

呆れちゃった方もおられたのではないでし

ょうか?ww

次話は、

世が世なら、ウィアード・テイルズにでも掲載

されていそうなSFとファンタジー小説を

ミックスさせた掌編になります。勢い余って

スピンオフまで書いてしまっています。

では第9話「神々の黄昏」

6日18時頃2話公開です。読み損はさせません。

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