第4話「遠き呼び声」
第4話「遠き呼び声」
このエピソードからUマン(F01)と
通信をするための神博士特製の
キーアイテム「銀の小箱」が登場します。
この小さなアイテムは、やがて物語の
核となる「異なる星に生まれた二つの魂」
を結ぶ大切な存在となっていきます。
※この時代(背景となるレトロ未来)では
携帯電話やスマホはまだ普及していません
ではちょっとホラー風味の第4話お楽しみ下さい
なお、*は通常の地球語では発音出来ない
異星人にだけ通じる発音を意味しています。
「遠き呼び声」
L星人
銀の小箱
※この話はまだユキ子とF01(Uマン)が出逢って間もない頃のエピソードになりますので。舞台設定にご注意を
#プロローグ、眠る子どもたち
防衛隊で小隊長を務める小竹進<28歳絶賛独身中>には早朝散歩の習慣が有った。
近所に住む市民から得る立ち話情報にも意外に役立つものが多いのだ。
その日の朝に聞いた話も少し変わった内容のものだった。
それは、小竹の住むアパートの大家の長男が、朝になってもまるで起きてこないという話だった。
ただの朝寝で済むならよい。だが、それが毎日となれば尋常ではない。
しかも、揺り起こせば渋々ながら起きてくるという。どうも医学的な傾眠とも少し様子が違うらしかった。
そこまでは小竹も聞き流していたのだが、次の内容で違和感を強く覚えた。
同じ様な嗜眠の状況にある人間が他にも何件か起きていて、その全てが子供であり、更にはそれがこの学区に<限って>いるというのだ。
あまり直感が優れているとは言えない彼だったが、たまたま非番で有る事もあり少し調べてみようと思い立ったのだった。
それが奇怪な事件の入口だとも知らずに。
#夜歩く子どもたち
小竹隊員はその後も半信半疑の状態ではあったが、一応は聴き取り調査を続けていた。
調べてみると、この地域では子供たちの原因不明の嗜眠が実際に頻発していた。
さらに聞き込みを進めるうち、別の話も耳に入ってきた。
眠る子供だけではない。夜半、ふらりと家を出て、どこかへ向かう子供を見たという証言が、いくつも出てきたのだ。
少し寝癖のついた頭を掻きながら
「ふうむ、こりゃあ本部にも報告しないといかんなあ」
非番だと言いながらもその足で防衛隊本部に向かう、小竹進、意外と勤勉な男なのであった。
「確かにそれはかなり怪しいわね
ねえ白鳥隊長」
小竹の話をひとしきり聞いていたショートカットで首から小型聴診器を下げた衛生士官、葵隊員が口を開く
「そうだな状況証拠だけではなんとも言えん。もっと調査が必要だな、小竹は明日は整備任務だったか」
白鳥はちらっと部屋全体を眺めると少しにこりとし、部屋の隅で、大人しく話を聞いていた少女に声を掛けた
「ユキ子君」
自分の方に声が掛かると予想していなかった様子の少女は身体を少しピクリとすると、小さい声で返事を返す。
「はい⋯」
「君はF01との出動以外の経験が無かっただろう」
「だが、防衛隊の任務は戦闘だけじゃない。現場を見ることも大切だ」
「これもいい機会だ。小竹について、今日の午後から調査任務にあたってくれないか」
まだ状況がよくつかめていない少女は少し頬を紅潮させながら、慣れない防衛隊風の了解を返す
「あ、アイサー」
#初任務
所変わって神家の朝食風景
「頑張れ、ユキ子」
「オ嬢様、頑張レ」
「何?お父様、突然。タエまで」
冷静を装っているようで、実は春らしいアウターの下には、すでに防衛隊の隊服を着込んでいる。
準備万端、胸いっぱいのユキ子であった。
「隊長さんに聞いたぞ
何でも大事な任務を任された
らしいじゃ無いか」
「もう白鳥さんたら余計な事を」
「大丈夫なんだろうなあ⋯
父さん心配だなあ」
「大丈夫よ小竹さんも一緒だし」
「それも逆に心配なんだよ⋯
今回は彼もついていけないしな」
「Uマンさんは大き過ぎるもの」
「そうだユキ子、忘れないうちにこれを渡しておこう」
神、ユキ子に手の平サイズの包みを手渡す
「何これ?割とずっしり」
包みを耳元でそっと振ってみる。
中からカタカタと小さな音がした。少女はその音に、ほんの少しだけ首をかしげた。
「困った時やいざという時に
開けなさい、きっとお前を
守ってくれる。
で、ところで父さんこっそり
付いてっても良いかな?」
「何、それ。もう、お父様の過保護!トンチンカン!駄目に
決まってるでしょ!」
「ダンナ様サスガニソレハ駄目」
「とほほ」
まあいつもの神家⋯であった
#遠き呼び声
調査任務に赴く小竹とユキ子の2人は、夜に出歩く子供が目撃されたという現場に来ていた。
「この辺りか?」
じっと中空に顔を向けているユキ子
「⋯」
「どうしたユキ子さん
何か気になることでも?」
「いえ、何か聞こえません?」
その言葉に、小竹も目を閉じて耳を澄ました。
「いや僕には何も」
少女は胸の前で両の拳をぎゅっと握りしめ
「町の音以外に、確かに何か⋯」
「これは歌⋯?」
その時、遠くで微かに犬の鳴き声が聞こえた。
「いえ、私の気のせいかもしれません、調査を続けませんか」
二人は再び歩き出した
#静かなる侵略
日がとっぷりと暮れた頃、
調査中の二人は異様な光景に出くわしていた。
「あれが、その子供か?」
ぺたり、ぺたり
早春の花の香りが残る夜の舗装道路を、虚ろな目で一点を見つめるようにしてパジャマ姿の裸足の子供が歩いていた。
それも一人二人では無かった。
そして夢遊病者の様に歩く子供たちは、皆一様に何かを呟いていた。
それは、どこか単調な調べのように聞こえた。
「ら⋯ら⋯」
「⋯ら⋯ら」
子供たちの歩みは同じ方向へ向いていた。まるで、遠くから何かに呼ばれているかのように。
「これは明らかに何者かに操られている、僕らも後を追ってみよう」
「はい」
やがて、その異様な隊列の向かう先に、廃棄された映画館が見えてきた。
#わが名はL
2人の防衛隊員は子供たちを追って、開いたままになっている入り口から薄暗い映画館の中に入って行った。
「ユキ子さん足元に気を付けて」
「音が、音が強くなって来ています」
小竹の言葉にはあまり反応を示さず顔をしかめるユキ子。
「無理するな、ユキ子さん」
思わずしゃがみ込みそうになったが、小竹の言葉に気丈に応える少女
「大丈夫です、行きましょう」
無意識のうちに、彼女の手は胸ポケットの包みに触れていた。
その時、包みの内側から微かにカチリと音がした。それは、気のせいだったのだろうか。
少女は、子供たちが消えた劇場の入り口の方向を指さした。
「さっきの音はあそこから強く聞こえて来ています」
「少し明かりが漏れているな、どうやら電源が生きているらしい」
「入ろう、ユキ子さんは僕の後ろから付いてきて」
「はい」
劇場の中には異様な光景が広がっていた。
壊れかけた鑑賞シートに、パジャマ姿の子供たちが座り、一様に単調な調べを口ずさみながら一点を見つめていた。子供たちは誰一人として、二人の侵入には目もくれなかった。
その視線の先には、どの様な仕組みか、動作している上映機の明かりに照らされ巨大な直立する芋虫の様な影が見えていた。
そして極彩色の芋虫はその胴の中ほどにある発声器官と思われる孔から不思議な音色で言葉を発した。
「おや、聞こえるものが混じっていたか⋯」
「わが名はL」
「君らの言葉で呼ぶなら……L星人、とでもしておこうか」
「これからこの星を頂く我らの先遣役だよ」
#対決の少女
「なんだと」
「ユキ子さん下がって!」
後手にユキ子をかばいながら、腰のホルスターからテーザー銃を取り出そうとする小竹。
その時、スクリーンの方から
甲高い笛のような音が鳴った。
次の瞬間、客席からガタリと音を立てて子供たちが一斉に立ち上がった。
そして小竹に飛びついて来る。
「な、何をする!」
上半身を羽交い締めにされて思わずテーザー銃を落としてしまう小竹
「離すんだ!危ないぞ!」
しかし子供たちは一切ひるまず無表情のまま小竹を押さえつけて来る。
「ハハハハハハハハハ、無駄だよ」
「君らの種族は実に面白い」
「幼体を盾にされると、何も出来なくなるんだね」
「さて次はそちらの聞こえる人」
立ち尽くしているユキ子、足は小刻みに震えていた。
「安心したまえ」
「君もすぐ歌えるようになるさ」
#銀の小箱の秘密
「大丈夫だ、ユキコさん」
胸ポケットからノイズ入りの音色が響いた。
「Uマンさん、貴方なの?」
「まずは袋から端末を出してくれないか?少しそちらの音声が聞こえづらいんだ」
胸ポケットに入っていた包みを開けるユキ子、指先にひんやりとした金属の質感が伝わってくる。
その表面には刻み模様に交じって小さな点字で
<ユキ子へ>と刻んであった
聞こえない位の震え声で少女はつぶやく
「お父様のバカ」
困惑しているL星人
「お、お前誰と話しているんだ?」
今度は箱の中から聞きなれない音声が聞こえて来る
「***、諦めろお前は既に袋のネズミだ」
「馬鹿なお前らがここに居るはずなど⋯」
呆然として固まり動けなくなっているL星人
と同時に、劇場にいる子供たちの歌が、一瞬だけ乱れた
にわかに辺りが騒がしくなって来る、劇場の外で複数の足音が一斉に止まった様だった。
「ユキ子ぉ!」
喧噪に混じって、聞きなれた声が聞こえた気がした。
「斉射」
白鳥隊長のものと思われる声がする
「「了解」」
と言う返事と同時に、L星人の周囲から、一斉に隊員達の
放つテーザー銃が火を吹いた。
「ギイイイイイイイィィィ」
人間の可聴域ぎりぎりの叫び声をあげ、極彩色の芋虫、
L星人は昏倒して果てた。
その直後、劇場に居た虚ろな目をした子供たちは全員糸が切れたように倒れこんでいた。
葵隊員の指示の下、子供たちの所に衛生班の隊員たちが
速やかに駈け寄り対処を開始する。
小竹隊員とみれば、羽交い絞めされていた両腕をぐるぐる
回して、周りの部下たちに冷やかされている様だ。
ユキ子の下には、真っ先に白衣姿もそこそこに駆けつけた
神博士が駈け寄り、娘に抱き着かれていた。
「お父様、怖かった、怖かったの」
神は娘の頭を、これでもかと撫でくり回しながら、
「ああ、よしよし怖かったなあユキ子」
娘の方は、父の過剰な愛情表現に、ちょっとだけ冷静になり、質問をする
「そうそう、ところでお父さま、これって何なの?」
「ああ、それか、それはお前に万が一があってはならないと考えて、防衛隊の技術部の総力を上げて徹夜で完成させた、F01との双方向遠隔通信機だ!」
更に質問で返す娘
「ただ、何で最初のうちは動いてくれなかったの?」
というユキ子の質問に答える様に、突然銀の小箱から、ちょっと格好をつけた声が響いて来た
「サプライーーズ!」
「ね、地球人はこんな時、こう言うんだろう?ユキコさん」
「⋯」
「お父様もいい加減、トンチンカンだと思ってたけど、Uマンさんはすっとこどっこいって言う訳なの?」
「うーん、地球人の語彙は難しくて分からないよ、姫さま」
下を向きながら、小声でつぶやくユキ子
「絶対分かってるでしょ?」
「ん?何か言ったかい」
「まあまあ、その辺で」
食卓以外でも、やっぱり神家は神家であった。タエの声が空耳で聞こえそうな位に。
スクリーン前に集まっている防衛隊員達。
「ところで白鳥隊長、ここで伸びてる派手派手芋虫は
どうします?」
すっかり余裕を取り戻した小竹隊員が確認する。
「そのまま、拘束して、M3ステーションの宇宙監獄
にでも永久収監しておけ」
「了解っ」
と、さっと敬礼をした足で、小竹はまっすぐユキ子の下を訪れ、一言
「ユキ子さん上司の俺が付いていながら怖い目に会わせ
ちゃったね。これに懲りずに、これからもよろしくね
<神隊員>」
「は、はい」
去り際のど下手なウインクが無ければ、どんなにかいい男なの
だろうが、ちょっと残念な小竹進<28歳絶賛独身中>であった。
#エピローグ
防衛隊で小隊長を務める小竹進には早朝散歩の習慣が有った。
だが、舞い散る桜の花びらの下今日聞く話によって巻き起こるかもしれない騒動についての話はまたの機会に譲る事にしよう。
FIN




