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どうでもいいわ(3)

 「では、改めて。手元の模試の結果を見て、皆、どう思った?A判定があった!良かった!とか、全部E判定だった、やばい!とか、こんな結果じゃ親が怒るとか、、、結構そう言う呟きはたくさん皆から漏れてきたように思うんだけど。。。どう??」

小百合が教室を見渡すと、連絡事項を伝えていた時と違う、緊張した面持ちで話を聞く生徒たちの様子が目に入った。

「あのね、言うよ?これから、すっっっごく大切なことを言うよ?」

一呼吸分置いて、お腹に力を入れる。


「どうでもいいわ、そんなもん。」


小百合の叫びが教室に落ちると、その場は何人のため息さえも許さないような静寂に満ちた。

「何判定とか、志望何人中何番だったとか、点数が何点だったとか、ほんっとに、『どうでもいいわ』。そんなのばかり見ると言うなら、その『模試の結果』なんて紙は今この場で切り裂いて捨ててしまいなさい!と言いたいくらい。本当にどうでもいいの、その紙。それなのに、教室の皆も、それを見た保護者も、そればっかりに夢中になっちゃって。それ、百害あって一利なし、とまで言ってもいいと私は思うの。」

ぐるっと視線をもう一度、生徒たちに向ける。結果の入った封筒を握りしめ俯いていた数名が、顔を上げた。

「だってさ?皆は模試を受けたその時点から、成長しないつもりなの?そんな、高校3年生になって1ヶ月経ったかなくらいのところから何にも積み重ねるものもなしに、空白のまま数ヶ月後の受験に突入していくって言うの?」

そう、皆は、「これから」なのだと知って欲しい。

「違うでしょ?皆はこれから、受験に向かっていろんなものをやっと身につけていくわけでしょ?皆が全員全く同じスピードで、全く同じ量の何かを得続けたら、確かにこの結果が数ヶ月後も同じかもしれないけど。全員が全く同じようにプログラムされた機械じゃあるまいし、そんな嫌な奇跡、起きないからね。皆、志望先が違うんだから、勉強法も内容も変わってくる、そう、全員がこのまま同じなんてことはありえないの。特に高校3年生の皆は、『解答用紙に解答していく』と言うことを、これから学んでいくのよ?その点では、今この時点では、受験という目的に向かって昨年に一度高度飛行した経験者が経験者優位で上に乗っかってる。上に乗っかって『お、かつてないほど、何かめちゃくちゃ成績いいんだけど?』って経験した私が言うんだから、本質から外れてないと思うよ。」

ややお通夜のようだった教室に、光がさした。

「皆に本当に見て欲しいのは、その模試の結果とか言う名前のついた紙っぺらじゃない。手元に返ってきた、皆が自分で書いた答案のほうなの。うん、自分の答案を見るのが嫌だなって気持ちはわかる。私もすっごい嫌だった。悔しさ、恥ずかしさで。けど、今皆の手元にあるその解答用紙が本番の結果ならもっとイヤじゃん。採点の結果、減点祭りなり、0点のパレードなりで埋まるのは、今で良かったって思おうよ。しっかり見つめ直すことで模試でダメだったところを、次から『絶対に満点貰える箇所』に変えられると思えば、模試って言うのはもはや間違ったもの勝ち、だとさえ思うよ。」

ね?と笑いかけながら、小百合は続けた。

「そう、大事なことは、あれなんかわかんないけどなんとなく合ってるラッキー、とかいう場所も含めて、ゼーーーんぶ答案を見直すこと。なんとなく調子が悪かったとか言う、自分に対する言い訳も一切なしで!本番でそんな言い訳通用しないでしょ。で、模試で出会った問題は、次に出会った時には確実に満点取れる『得点源の問題』に変えてしまおう。封筒の中に、今回の模試の傾向とか答案の回答の方向性とか解説した冊子が入ってる。これと、模試が終わった時にもらった『模範回答』の冊子、あるじゃない?この2つと、自分の回答をガッチリ見比べて、何が足りなかったのか、何が必要なのか、探して自分の中の空白を埋めていこう?一人で見るのが嫌だって言うなら、模試と言う準備段階には、私がいる。一緒に見よう?」

何人かの生徒が、ハッとした顔で封筒の中の冊子を取り出した。

「人生もきっと、同じなんじゃないかな。自分が一番見たくないもの、嫌だと思ってしまうもの、それに向き合って初めて、何か得られたり、次のステージに行けると言うか。だからきっと、こうやって皆が、見たくないなと思う自分の答案に向き合うことからして、まず意味があることなんだよ。自分に言い訳して避けたり、なんとくどうにかなった、ではなく、意思をもって向き合うことでしか、得られない。」

今手にしているその紙の束こそが、悲痛な嫌悪の塊ではなく、自分の未来への布石だと考えられるようになって欲しい。

「さて、と言うことで!今日のテーマ、模試の結果の活用法のお話はここまで!とは言え、その紙が家庭内論争を生み出すことは私もよ―くわかってる。だから、今みんなに話した内容を、ちょっと大人向きの言葉にしてまとめたプリントをこれから配ります。1週間後に強制的にアプリに模試の結果が送信されて保護者が見て案の定に発狂するより、このプリントと一緒に皆の手元にある模試の結果を早急にお見せしてしまうことをお勧めしますよ?」

肩の力が抜けた穏やかな雰囲気が、教室に戻っていく。模試の結果が入った封筒をつかむ生徒の手は、もう、力んではいない。見つめる目に、嫌悪感が満ちてもいない。ほっとした気持ちで、努めて笑顔で小百合は続けた。

「では、残りの時間、ゆっくりしてねー!!」

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