第一章 『狼煙』
冷たい、寒い、苦しい、痛い
死にたい、死にたい、死にたい…このままいっそ消えてしまいたい…
凍りそうな程冷たい肌を強く握る。寒くて冷たくて何も考えることを許されない場所だから。何も考えてはいけない、無駄だから。
「私の大事な子…」
安心する。生まれて此の方大事だと言ってくれたのはこの人だけだった。冷たい場所で温もりをくれたのもこの人だけだった。
でもこの人は泣いているいつもより冷たく震え、今にでも死にそうな声を出して。
「貴方だけの自由を見つけて…ユニ」
「愛してるわ」
そう言ってこの人は僕を突き飛ばした。『愛してるわ』と呪いの言葉を残して。
「ッ…またあの夢か…」
何度も何度も繰り返すこの悪夢に身体が蝕まれ何年経ったのだろうか。心に刻まれた記憶は消して離れることなく呪いのように繰り返される動作にはもう慣れたはずなのにこの悪夢にだけはどうも慣れない。
「まぁいい…」
傍にあった冷めた珈琲を口に入れ身体を起こす。今はこの列車の最終駅 星の街『シエリア』に向かっているのだから。
星の街『シエリア』…エトワールという星の力によって様々な機器の動力源を担う街であり、ルーディア国内の街である。ルーディアは星の街『シエリア』花の街『ガビーラ』鉱石の街『シギリア』で成り立つ世界最大の発展国だ。
「疲れが溜まっているのだろうか、頭が痛い…」
酷い頭痛がする。最近になってみられる症状でルーディア国外の病院で診てもらった際には原因不明だと言われ、紹介状を貰いこうやってシエリアの病院へと向かっている訳だ。原因不明というのはよっぽど重い何某なんじゃないかと不安もあったが医者曰く重い病等ではなさそうだと言うのでまあ安心だった。
ガタンゴトンと列車が進んでいく、寝ていたのもあってどれだけの時間が経過したのかは分からないが窓の外を眺めているとシエリアに着いたことは一目瞭然だった。
黄の花が揺れ鼻を擽る、青と黄金を基調とした機器達と白く綺麗な建物が並ぶ街『シエリア』だ。噂では聞いていた黄の花に目を奪われボーッと眺めていると汽笛が大きな音と立てて鳴る。慌ててトランクケースを持ち上げ、列車内を足早に歩いた。
「ここがシエリア…!」
田舎町から出てきたものだからあまりこういった発展した土地を目にしたことが無い。見たことのない機械類に気分が高揚のが分かった。それと同時に頭痛が酷くなっていることも。
「痛っ…早く病院病院…」
トランクから頂いた地図を見ながらシエリアの街を歩く。エトワールの力によって栄えたこの街は星の子『プシュール』に支えられていると聞く。非現実的だが魔法みたいなものを使えるとかなんとか。色々人の話を聞いたり、プシュールに会って話をしてみたい。プシュール達なら博士のことも何かしら知ってるかもしれない。
「ここが…」
地元の病院とは比べ物にならないくらい大きな病院。中に入ると看護師さんや患者さんが20人程静かに座っており、受付へとそのまま向かう。あまり博士以外と会話することがなかったから少し話せるか不安だ。
「すみません、これ」
「頭が痛くて…診てもらえませんか?」
受付の看護師は少し僕の顔を見ると驚いた顔をして紹介状に目を移した。患者からも少し見られていたような気がしていたが気の所為じゃないのだろうか…。「もし違ったら申し訳ないのですが…貴方様はプシュール様でしょうか…?」怖いものを見るような顔で怯えながら僕にそう告げた。
「僕がプシュール…?いやいや僕はただの人間ですよ」
「人間…?、普通人間はそのような黄金の瞳にはならないんですよ…?」
トランクから鏡を取り出す。確かに青い瞳だったはずの僕の瞳は黄金のように輝いていた。「は、え、いやなんでこんな色に…」「あ~~!!やーっと見つけた~!探したぞ~!」僕の背後からフリフリと手を振る黒髪の黄金の目の男性。見覚えがある顔ではない。近づくや否や肩にガッと手を載せ「こいつ俺の友達だから迷惑かけてごめんね、お姉さん」「今日のことは俺との秘密だよ?またね~~」
困惑してる僕を他所にそいつは僕の服を引っ張りズルズルと病院の外へと引きずり出した。「いや、あのちょっと!!誰なんですか!!」服から手をどけて立ち上がる。「嗚呼、ごめんごめんw 自己紹介もまだだったね」煙草を口に加えながら彼は名乗る「俺の名前は『ミカ』女みたいな名前だけど列記とした男、君は?」「僕の名前はユニ」「ユニ…か。覚えた!」
「よろしく!」と手を差し出す彼の手を取る。
「なんか外から困ってそうに見えたから助けたけど…君 プシュールなんだね~」
「あの看護師さんもそうだけど君もそうなのか!?僕のことをプシュールだと言う…僕は人間だとあれほど…!」
「ほう!君はもしかして外の人?」
「外の国から来たことをそう言うんだったらそうだね」
「は~~ん、じゃあプシュールについて説明してあげなきゃね」
此処じゃなんだし着いてきてと手を引かれ連れてこられたのは使われなくなった屋敷。中からは複数人の話声が聞こえる。「たっだいま~!」扉を力強く開け中の人達がバッとこちらを振り向く。「アル様…下がってください」「トアお客人に失礼でしょう?ナイフ下して」白髪の髪が長い男性にナイフを向けられたと思えばスーツに身を包んだ小さな少年に男性が怒られた。端でしょぼくれた男性が見えることは気にしないことにした。
「ミカ…この方は?」
「この子はね~、ユニ!新しいプシュールだよ!」
「いや、だからプシュールじゃな…!!」
「ミカまたあんたが黄の瞳の人間連れてきただけじゃないでしょうね???」
オレンジの髪を二つに高く束ねた少女にミカが詰められる。「いやいや今回は別!!今回は本物だから!!」ゲホゲホと咽るミカをよそ眼に辺りを見渡すとミカ含め5人の男女が居ることに気が付く。ミカがここまでにあった経緯を説明して椅子に全員が着席した。
「さて!プシュールの前に自己紹介だね!改めて、俺は『ミカ』此処『スクレゾン』のリーダーみたいなもん!よろしく!」
「わ、私は『ロゼ』です…。よ…よろしくお願いします!」
「あたしは『シア』ミカが無理言って連れてきたみたいでごめんね!!後で言っとくから!!」
「次は僕ですね。先程はトアの無礼をお許しください。僕の名前は『アル』お気軽にアルとお呼びください」
「『トア』…」
あまりリーダーっぽくないのらりくらりとしている何処か怪しさを感じさせる少し長い襟足の黒い髪に黄金とはまた違う黄色の瞳を持つ少年ミカ。
物静かそうで気弱そうな小動物みたい。両耳の上に髪の耳のようなものが生えていてぴょこぴょこ動いている。薄い桃色にエメラルドグリーンの瞳を持つ少女ロゼ。
姉御肌のような気の強さを持っていて、オレンジの髪を高く二つに結び、葉のような緑の瞳を持つ少女シア。
礼儀正しく少年より男性と言った方が差し支えないのかと思うほどにしっかりしすぎている。黄金の瞳のような金の髪を持ち、赤いガーネットの瞳を持つ少年アル。
今にもこっちに噛みついてくるんじゃないかと睨みつけてくる。アルが杖でゲシゲシと突いてるおかげでまだ大人しくなっている大型犬。白く長い髪が高く結ばれており、黄緑のガーネットのような瞳を持つトア。
初印象はこんな感じだろうか…。中々愉快な人達だなと感じる。
そして此処スクレゾンは プシュールから人間に戻るべく方法を探すプシュールのみで構成される組織らしい。
「僕の名前は『ユニ』と申します。
外から来た身なので分からないことだらけですがよろしくお願いします」
「ようこそ!!と、言いたいとこだけど事情を話さずに此処に居てもらうのも申し訳ないから単刀直入に言うね」
「君は人間ではなくプシュールだ。間違いなくね」
「理由は簡単!看護師のお姉さんも言ってたけど黄金の瞳はプシュール以外持ちえないから。そして、君のシエリアに来た理由は治療…なのではないかね?」クルクルとフォークを回しながら僕の方を見る。「そうだ…けど…信じられないよ。僕がプシュールだなんて」
「だってプシュールは星の子なんだろう?星の街シエリアでしか生まれないはずじゃ…」
「そう!そこなんだよね。恐らく頭痛や急激な眠気などはエトワールの反動によるものだろう。此処から導き出されるのは君はまだ生まれたばかりのプシュールであるということさ。反動はエトワールの適合初期に起こる反動だからね」
「ルーディア出身ではなくとも他の国の人間がプシュールになるという前例がないだけで、エトワールが適合さえすればプシュールになりますし…。ユニさん自身に記憶がないのであれば誰かが適合させたのでしょうね」
誰かが適合させた…?誰が…?
ズキッと頭が痛む。立っていられない。頭の中に電気が走る様で頭の中を無理矢理こじ開けられているようで。「あ"ぁ…痛いいたい痛い!!頭が…!!」駆け寄る皆が声をかけてくれていることは理解したが何を話しかけていたのか理解は出来なかった。
…そのまま意識を手放した。




