第31話 祖先の真実
夜の断罪アカデミー。
昼間は学生たちの声で賑わう校舎も、今は静まり返っていた。
廊下にはランプの灯りが並び、長い影が床に伸びている。
その廊下を、レティシア・グランベルは歩いていた。
手には一枚の短い手紙。
差出人の名前は――
カサンドラ・ヴァルメリア。
内容は簡単だった。
今夜、来てください。
場所は中庭。
レティシアは扉を押して外に出た。
夜風が静かに吹く。
庭の中央にある石のベンチ。
そこに一人の少女が座っていた。
黒いドレス。
長い銀髪。
カサンドラだった。
彼女は夜空を見上げていたが、レティシアの足音に気づいて振り向いた。
「来たわね」
レティシアは近づく。
「何の用ですか」
カサンドラは答えず、隣に置いてあった書類の束を差し出した。
「これ」
レティシアはそれを受け取る。
古い紙。
王宮の印章。
そして一番上のタイトル。
白百合公爵断罪
レティシアの表情がわずかに変わった。
「……祖先の事件ですね」
カサンドラは静かに言う。
「ええ」
「あなたの家の始まり」
レティシアはその場で資料を開いた。
夜の静かな庭。
紙をめくる音だけが響く。
最初は普通の記録だった。
事件概要。
反逆罪。
議会決議。
断罪執行。
しかし。
ページが進むにつれ、内容は変わっていく。
証拠消失。
証人失踪。
議事録の空白。
そして。
最後の一枚。
王宮文書。
そこに書かれている言葉。
王命
レティシアの指が止まった。
彼女はゆっくりその文章を読む。
白百合公爵家。
王国最大の名門。
だが王は危険視した。
軍事力。
貴族支持。
王位への脅威。
そして命令。
断罪せよ
沈黙。
庭の空気が静まり返る。
レティシアの手が、わずかに震えていた。
カサンドラは何も言わない。
ただ観察していた。
レティシアは最後の資料を読み終える。
ゆっくり閉じた。
しばらく言葉が出ない。
やがて。
小さな声が漏れた。
「……つまり」
夜風が木々を揺らす。
レティシアは静かに言った。
「白百合公爵は」
「反逆していなかった」
カサンドラ
「ええ」
レティシア
「それでも断罪された」
カサンドラは頷く。
「王命でね」
再び沈黙。
レティシアは目を閉じた。
彼女の頭の中には、一人の人物が浮かんでいた。
エレノア・ルミナリア
王国初の断罪官。
そして。
自分の祖先。
レティシアはゆっくり言った。
「祖先は」
「王命を執行した」
その声はかすかに震えていた。
カサンドラは静かに聞いている。
レティシアは空を見上げた。
星が見える。
そして呟いた。
「断罪は……」
少し間を置く。
「政治に利用された」
夜の中庭。
その言葉は重く落ちた。
カサンドラは腕を組む。
そして冷静に言った。
「そうね」
少し首を傾ける。
「それでも続ける?」
視線は真っ直ぐだった。
試すような目。
断罪アカデミー。
断罪制度。
それは祖先の事件から始まった。
もしその起源が政治処刑だったなら。
この制度は。
正義ではない。
レティシアは黙っていた。
長い沈黙。
風の音だけが流れる。
カサンドラは待つ。
答えを。
やがて。
レティシアは目を開いた。
そしてカサンドラを見る。
迷いは残っていた。
だが。
決意もあった。
彼女は小さく息を吐く。
そして言った。
「はい」
その声は静かだった。
しかし。
はっきりしていた。
カサンドラの口元がわずかに上がる。
「そう」
夜の断罪アカデミー。
歴史の影の中で。
新しい断罪が、まだ続こうとしていた。




