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誇り高き令嬢は、婚約破棄されても負けません! ~幼馴染と挑む華麗なる逆転劇~  作者: ぱる子
第10章:揺れる想い

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第30話 密かな潜入①

 公爵家の離れにある一室には、ロザリア・グランフィールドとレオン・ウィンチェスターをはじめとする仲間たちが集まっていた。


 広げられた机の上には、これまで収集した大量の書類や地図、王宮内部の見取り図などが並び、そのどれもが使い古された紙の匂いを漂わせている。何日もかけて照合を繰り返し、数々の偽造文書と怪しい金の流れを突き止めようと取り組んできたが、最終的な決定打を得るにはまだ至っていない。エレナ派の陰謀を暴くためには、王宮深部にある公文書の原本を確認し、疑いの余地を一切残さない確証をつかむ必要がある——そんな結論にたどり着いたのだ。


 ロザリアは書類をめくりながら、静かに息をついて言葉を発する。


「これ以上、外からの情報だけでは限界があるわ。やはり王宮そのものに潜り込まなければならない。公文書保管庫や禁書庫と呼ばれるような場所に、私たちが求める決定的な証拠が眠っているはずよ」


 居並ぶチームの面々も、その必要性を認めていた。エレナ派がいかに裏から手を回そうとも、王宮に保管される正規の書類には王家独自の公印や厳格な署名の記録がある。そこに偽造や差し替えが見つかれば、エレナ派の裏工作を一気に白日の下にさらすことができるのだ。


「しかし……この計画は相当危険を伴いますね」


 騎士の一人が渋い表情で口を開く。


「公の手続きなしに王宮の公文書保管庫へ立ち入るなど、万が一見つかれば罪に問われかねません。最悪の場合、反逆を疑われる可能性すらある」


 その言葉にロザリアはうなずきながら、視線をレオンに向ける。彼も深刻そうな顔でうつむき、テーブルに置かれた古い地図を指先でなぞっていた。


「ただ、私たちにはもう時間がないわ。妨害が激しくなる前に、一気に証拠を押さえなきゃ。王宮から確実な書類を入手できれば、私にかけられた嫌疑もエレナ派の不正も、一挙に(くつがえ)せるはずなの」

「わかっています。だから、僕たちは覚悟を決めなければいけない」


 レオンがそっとロザリアへ視線を戻す。まるで「僕はあなたと一緒に行く」と言いたげなまなざしだった。


「そのためにも、王宮内部の構造をもっと正確に把握しなきゃならないし、潜入経路を確保する必要があります。昼間に堂々と入れるものじゃない以上、夜陰に乗じてこっそり入り込むしかないでしょうね」


 みんなが不安そうに顔を見合わせる。公爵家の令嬢であるロザリアが、本来ならば正式な手段で王宮を訪れることも不可能ではないが、現状では疑いの目を向けられており、内々に公文書を精査する許可など下りるはずもない。王太子からは婚約破棄を言い渡されている身、そしてエレナ派に根回しをされた王宮内の官吏がいる可能性を考えれば、必然的に「非公式の潜入」という選択肢が浮かび上がるのは避けられなかった。


 執事が眉をひそめながら口を開く。


「潜入するなら、最小限の人数で行くのが望ましいでしょう。大人数で動けば目立つばかり。暗がりで見つかったら終わりですよ。危険ですが、王宮の構造に詳しいロザリア様が主導し、レオン様がサポートする形が一番成功率が高いと思われます」

「ええ、私もそう考えています。私が一人で行くより、レオンが一緒に来てくれたほうが心強い」


 ロザリアがそう言うと、レオンは「もちろん、僕は行きますとも」とうなずく。ただ、その言葉の奥には「あなたを危険な目に合わせたくない」という切実な感情がにじんでいた。


「書庫や保管庫には夜間も警備が配置されています。いくら公爵家の令嬢とはいえ、許可なく立ち入れば問答無用で捕えられるでしょう。それに、禁書庫なんて場所に近づけば、反逆とみなされるかもしれない……」

「それでもやる価値があるのよ。私を裏切り者とした書類が真っ赤な偽造であるなら、その根拠を王宮の正式な文書と照合して証明しなくちゃならない。エレナ派に好き勝手させるわけにはいかないわ」


 ロザリアの瞳は強い決意を宿している。確かに大きなリスクがあるものの、何もしなければ陰謀を暴ききれない。いくら周囲で証拠を集めても、決定的な裏づけが王宮の公文書にある可能性が高い以上、こんな危険を冒すしかないのだ。


 そして内心で、レオンとの距離がさらに近くなる予感を抱いていた。危険な潜入をともに行うというだけで、互いの呼吸や息づかいを感じる場面が増えるだろう。その中で、最近募ってきた恋心がどう絡んでくるか、ロザリア自身も気がかりではあった。


「行動する日はいつがいいのでしょう」


 騎士が提案を促すように尋ねると、執事が書類を改めて読み返す。


「王宮の儀式や大きな行事の準備で、警備体制が手薄になる夜があるようです。あさっての晩、儀礼の稽古が終わる深夜あたりが最も警戒が緩むらしい。そこを狙うのが無難かと」

「なるほど……。では、その晩に決行としましょうか。場所は公文書保管庫と、可能なら禁書庫も。あなたはどう思う、レオン?」


 ロザリアが問いかけると、レオンは地図を指しながら考え込む。


「僕もそれがベストだと思います。入口や廊下の警備をすり抜けるルートをもう一度洗い出しておきましょう。もし上手くいけば、短時間で保管庫に入って必要な文書の原本を確認できるはずです」


 ロザリアは小さく息を吐き、「わかったわ、そうしましょう」と返事をする。一方で、その計画がどれほど危険かを考えると、胸が締め付けられる思いだ。もし失敗すれば、一族の名誉どころか自分やレオン自身の命運すら危うい。それでも背に腹は代えられない。成功すれば、これまで積み上げてきた疑惑のすべてに裏付けを与えられるのだ。


「準備の段取りを決めておくわ。私とレオン、それに最小限の護衛が数人。ソフィアや他の仲間は別の場所で待機して、万一の場合に備えてほしい。私たちがもし出てこなかったら、指示通りに逃げて。……そんなことにはさせないけど」

「お嬢様……危険ですけど、あなただけでも護衛を増やしませんか? 万が一、王宮で何かに巻き込まれたら……」


 ソフィアが泣きそうな声で言うが、ロザリアは首を振る。


「人を増やせば、そのぶん目立つの。公文書保管庫に忍び込むのは、あくまで秘密裏に行わなきゃいけないから、二人きりが理想。……とはいえ、多少の護衛を連れて行くことは考えるわ。でも、多くても三、四人ね」


 その発言に場がざわめくが、ロザリアの決意は揺るがない。彼女が自分で道を開くと宣言してから、もう後ろ向きにはなりたくないと思っている。危険であればあるほど、ここで手を引くわけにはいかないのだ。

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