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第20話 カショウの葛藤

(ん~、諦めなくても大丈夫。こっちに向かってきてる)


「えっ、見つかった?」


 逃げると決めた後だけあって、クオンの言葉に焦ってしまう。俺にはゴブリンの姿が見えないが、ゴブリン達に発見されてしまった。幾らクオンの能力が優れているといっても、すでにここはゴブリン達によって掌握され、監視の目を掻い潜れなかったのか···。


(大丈夫、まだ見つかってない)


「えっ、こっちに向かってきてるだけ?」


(うん、金属同士のぶつかる音。何かを運んでる)


「もしかして、ソーキ達が運ばれてるのか?」


(うん、捕まってる。ここからじゃ、ソーキかどうかまでは分からない)


 もし運ばれてくるのが、ソーキであれば状況は変わる。ソーショウや盾のオニの目的は、ソーキを助けることで、ゴブリンの群れを相手に戦うことではない。それに、ソーキを捕らえる為の罠だったのならば、少なくてもゴブリン達の思惑は崩れ、行動は変わらざるを得ない。

 ゴブリンの群れと戦うわけではないし、クオンの聴覚があれば離れた距離からでも、ゴブリンの動きや数までが手に取るように分かる。


「最悪の場合でも、逃げればイイだけ···」


(うん、大丈夫。問題ない)


 クオンも肯定してくれるが、それでも葛藤はある。元の世界の経験になるが、どっちつかずの曖昧な方法を選んで成功した経験がない。ましてや、ここは異世界。俺の知識や経験が通用するかさえ怪しい。最悪の場合を想定して、俺は非常な判断でさえ即決出来るのだろうか?


「ダメッ!」


 俺の煮えきらない態度に、いつの間にかクオンが影から出てきている。それもヒト型の姿で、俺の前に立っている!


 何時もの優しいクオンに顔とは違い、キリッとした目は力強い。そして右手の人指し指を立てると、軽く振りながら近付いてくる。


「ご主人様には時間がないの!ゴブリン倒せば、精霊にも力を示せる」


 そして、俺の眉間に寄ったシワを突付く。優しくはあるが尖った爪が痛い。それは、負の思考の無限スパイラルに陥った俺を、元へと引き戻してくれる。


「難しい顔してる。もっと頼ればイイ!」


「そうだったな、俺には時間がなかったんだよな。遠回りなんてしている余裕は無い」


「うん、分かればイイ」


 逃げてばかりでは強くなれない。強さを示さなければ、俺がアシスで生き残る可能性は低い。この世界に転移した意味なんて分からないが、こんな俺を助けてくれる精霊がいる以上は頼るべきだろう。


 そうと決まれば行動が早いのは、俺ではなく精霊達の方であるが···。


 ゴブリン達は、森よりは湖よりの黒く染まった葦の中を移動している。森の側よりも、陽の光を受けれる湖よりの方が葦の背は高く、それにゴブリンの姿を完全に隠してしまう。また湖の近くの黒く染まった葦の色も、ゴブリンの濃い緑の体の保護色となる。

 ゴブリンにとって、この湖は潜むには最適の場所といえる。だからこそ、ここでオニ達を待ち伏せしているのだろうが、逆にそこで待ち伏せされているとは考えないはず。


「コハク、案内して」


 クオンはコハクに命令すると、再び影の中に潜る。

コハクはクオンに命令されることは、嬉しそうに意気揚々と、葦の草むらの中に入ってゆく。何も知らなければ毒々しい色は触れることさえ躊躇わせるが、ここを縄張りにしていたコハクが気にしていないのなら体に害はない。


「行くか!」


(うん、やっつける)


 それでも、少しだけ気合いを入れてコハクの後を追う。しかし、俺の場合は腰を落とさなければ、肩から上が丸見えとなる。入れた気合いとは裏腹に、草むらの中を進む速度は遅い。それをゴブリン達の動く音をクオンが探知しながら、進む方向を示してくれる。


「ここからが、湖になるのか」


 まだ草むらの中に入って少ししか進んでいないが、足元は陸地から湖へと変わる。葦は陸地から湖の浅い部分に群生し境界線を隠しているが、ほとんどが湖の中にある。


(うん、ゴブリン達はずっと湖の中を歩いてる)


 体格の小さなゴブリンが、体格が大きく金属鎧を身に付けたオニを運ぶのには陸地は不向き。だから湖を上手く利用し、荷物を船に載せて運んでいる。


「ゴブリンは、船に乗っていないんだよな?」


(うん、水の中を歩く音。間違いない!)


 それなら、ゴブリンも速くは動けないし、荷物を運んでいるのであれば、通るべきルートは湖の中と限られる。


「機動力は、俺達の方が有利。期待してるぞ!」


 俺の言葉に、ローブの中のカンテが僅かに明滅する。後は、葦の中でゴブリン達が近付くのを待つ。


(10体、下品な声ばかり)


 ゴブリン達が近付いてくると、クオンがゴブリンの数を告げてくる。こちらに向かって来るのは10体の集団で、森の中で戦ったゴブリンも10体。1つの集団が10体として構成されているのかもしれない。


 ただゴブリンのキーキーッと上げる下品な声は、クオンの機嫌を損ねている。ただ予想通り、縦に延びた隊列は警戒した様子が感じられない。


「耳障りなら、外に出てきてもイイんだぞ」


(他のゴブリンの動きもあるから、今はダメ)


「そうか、それなら手早く済ませるか」

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